y-knotシリーズ

一般の方向け

2023/3/22 最終更新

訂正情報・補遺

 
■訂正情報:本書10章4節第1項「パソコンはめがね?」(図10-4含む248頁下から9行目~249頁1行目)を削除して,以下の文に訂正いたします。

 何が機能障害であるのかは,その時代や文化によって異なる,相対的なものです(⇒1章)。皆さんの中で,めがねやコンタクトレンズによって視力の矯正を行っている人は少なくないでしょう。しかし,そうした視力矯正の技術やツールがなかった時代には,視力の問題で読み書きや日常生活に支障をきたす人はより多くいたと考えられます。
 ここで学ぶ学習障害には,読むことや書くことの困難が含まれます。人によってさまざまな症状が見られますが,例えば読むことが難しい場合では,流暢に読めない,行を読み飛ばす,読んで内容を理解しにくい,などといった困難が,書くことが難しい場合では,書くのに時間がかかる,板書の書き写しが難しい,などといった困難があらわれることがあります。そうした困難に対して,読み書きの機能面に焦点を当てた個人モデルの観点からの支援だけでなく,学びの社会的障壁を除去する社会モデルの観点からの支援も必要です(⇒4章)。その人の困難に応じた合理的配慮を行うことで,学ぶ権利を保障することにつながります。特に近年発達しているICT(情報通信技術)には,撮影・録画機能や音声読み上げ機能,ハイライト機能,フォントの調整など,学習障害のある人が学ぶために役立つ技術が数多くあります。
 学校などが合理的配慮を行うことは法的な義務となっていますが,障害のある人が個別の対応を求めることにいまだハードルがあることもあります。「特別扱いは不公平」といった周囲の誤解もその1つです。学習障害のある人が必要に応じてパソコンなどのICTを使うのは,近視などの人がめがねをかけることと同じようなことであるという共通認識をもつことが必要です。

 
■補 遺
 今日においてディスレクシアは音韻意識やデコーディングの困難として理解されています(本書250頁参照)。249頁で示した図10-4は,ディスレクシアのある人が,自身の体験している見え方の「イメージ」を伝えようとして作成されたものですが,こうした見え方(のイメージ)が,学習障害やディスレクシアの中核的な症状ではありません。図10-4を「読み障害における文字の見え方の例」と題して,学習障害を解説する節のはじめで紹介することで,まるでこの見え方のイメージが中核的な症状であるかのような誤解を招きうると考えました。
 この紹介のしかたが一人歩きしてしまい,「学習障害があるのにもかかわらずこうした見え方がないからと見過ごされてしまい必要な支援がなされなくなること」「見え方のイメージだけが特別に大きく捉えられて,そこに特化した誤った機能訓練がなされてしまうこと」「逆に,見え方のイメージが学習障害の中核的な症状ではないからと軽んじられてしまうこと」などの誤解や曲解を引き起こしてしまうかもしれない可能性,それが障害のある人や家族の傷つきや不利益につながってしまうかもしれない可能性を編者として懸念しました。学びのスタートに立つ学生の皆さんに伝えるからこそいっそう,正しく伝えなければならないと感じています。図10-4が,ある当事者の方の体験の切実な表現であることは確かなことです。この訂正が,図10-4が伝えようとする困難の重さや,この表現の意義を減じるものではないこともあわせて改めて伝えたいと思います。自戒をこめて,私たちは,それぞれの機能障害の今日的な理解を学び,その人それぞれの個別的な困難を,過小でも過剰でもなく虚心に捉えなくてはならないと考えています。
 以上に述べたような本書における図10-4の提示のしかたの問題に鑑み,図10-4を取り下げ,訂正してお詫びいたします。