y-knotシリーズ

一般の方向け

2023/3/17 最終更新

第10章

 

目次


Chapter structure

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キーワード

精神発達の相対的な程度差 / ニューロダイバーシティ / スペクトラム(連続体) / 「グレーゾーン」 / 同じ・違う / 発達障害 / 発達早期 / 共同世界 / 自閉スペクトラム症 / 知的障害 / 学習障害 / ADHD / 併存 / 成育歴 / 心理検査 / トラウマ / 二次障害 / 強度行動障害 / 反応性愛着障害 / 脱抑制型対人交流障害 / 知的障害 / 知的機能(知能) / 適応行動 / 知能検査 / 軽度,中等度,重度,最重度 / 療育手帳 / 染色体疾患 / 先天性代謝異常 / ダウン症候群 / 21トリソミー / 出生前診断 / リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利) / 過剰適応 / 乳幼児健診 / 児童発達支援 / 療育 / 特別支援教育 / 劣等感 / 学習性無力感 / 不安や緊張 / 孤独 / 疎外 / 自閉スペクトラム症 / 社会的コミュニケーションや対人的相互反応の障害 / 行動・興味・活動の反復された様式 / 共同注意の困難 / 三項関係 / 感覚過敏・鈍麻 / パニック / 常同的・反復的な行動やこだわり / 女性の診断の見過ごし / 心の理論 / メンタライジング / ソーシャル・モチベーション / 弱い求心性(中枢性)統合 / サヴァン症候群 / フラッシュバック / 孤軍奮闘 / 社会的障壁 / 学習障害 / 学業的技能を学習することの困難 / 読字の障害 / 書字の障害 / 算数の障害 / (発達性)ディスレクシア / 音韻意識 / デコーディング / 発達障害者支援センター / 自尊心や意欲 / ADHD / 不注意 / 多動・衝動性 / 実行機能(遂行機能) / 薬物療法 / 自分自身を乗りこなす

 

Quiz クイズ

Q10.1 次のうち,自分に当てはまるものはいくつありますか。

10章扉

 

[★ウェブ追加分:書籍非掲載Quiz]
★Q10.2 障害のある人が障害福祉サービスを受けやすくするため,行政機関が障害の有無と程度を判定し,障害者手帳を交付しています。知的障害の療育手帳において,障害の程度区分はいくつあるでしょうか。
a. 4区分 b. 10区分 c. 自治体によって異なる

 

★Q10.3 発達障害について,どれだけ知っていますか? 発達障害に関する以下の説明のうち当てはまるものに〇,当てはまらないものには×,どちらでもないものは△で答えましょう。
a. 発達障害の診断を受けたら,ずっと診断名は変わらない。
b. 知的障害は発達障害のひとつである。
c. 自閉スペクトラム症とADHDを一人の人が併せ持つことがある。
d. 発達障害は脳の障害であり,神経画像検査(CTやMRIなど)で脳の病変を確認した上で診断がつく。

 

★Q10.4 皆さんが将来仕事に就いて,発達障害のある人とともに働く場面を想像してみましょう。①~③の場面では,a.,b. どちらの対応が望ましいか,選んでください。

 

①今日から採用の○○さん,発達障害があるということだけど,最初から声をかけると緊張してしまうかな……。
a. 他の同僚と同じように,まず挨拶から声をかけてみよう。
b. 初対面の相手に話しかけられたら緊張するかもしれないので,○○さんからの挨拶を待とう。

②職場が繁忙期を迎え慌ただしいムードになってきて,○○さんも周りを気にしている感じだな……。
a. 繁忙期は一時的なものなので,声をかけないでおこう。
b. いつ頃になれば雰囲気が落ち着くだろうといった見通しについて話をしてみよう。

③○○さん,いつも独りで食事しているけど,声をかけた方がよいのかな……。
a.「もしよかったら」という前提で輪に加わることについて声をかけた上で,本人の主体性を尊重してみよう。
b. 独りで食べることが好きそうなので,声をかけないでおこう。

 

★Q10.5 発達障害の要因となりうるとされているものは次のうちどれでしょうか。
a. 遺伝的要因 b. 環境的要因 c. 神経細胞の機能や構造の障害

 

Exercise エクササイズ

10.1 自閉スペクトラム症の体験世界を垣間見て,その困難について考えよう:イギリスの自閉症協会(National Autistic Society)による,Too Much Information キャンペーンサイトでは,自閉スペクトラム症の情報処理の困難や,社会的な状況や予期せぬ変化に対する不安,騒音,におい,まぶしい光などへの苦痛,情報に圧倒されたときのメルトダウンやシャットダウン(パニック)といった特徴について,短い動画で紹介しています。
動画を視聴し,自閉スペクトラム症のある人の体験している世界を想像して,日常生活にどのような困難があると考えられるか,具体的に考えてみたり,グループでディスカッションしたりしてみよう。

 

[★ウェブ追加分:書籍非掲載Exercise]
★10.2 子どもの体験世界を想像してみよう:皆さんが,ある小学校のスクールカウンセラーになったとします。担任教師から,事例①,②のような話があったと仮定して,それぞれの子どもの行動にどのような背景や意味があると思うか,たくさんの可能性を想像してみよう。また,グループに分かれて,次の2つのことを話し合ってみよう。
 A. 印象に残った行動をピックアップし,その背景や意味について,できるだけ多くの仮説を立ててみよう(何が起こっているのか,なぜ起こっているのか)。
 B. その仮説を確かめるために,どのようなことが必要か(誰かに話を聞く/何かを観察する/何らかの資料を探す/など),考えてみよう。

事例①:小学5年生の担任教師から,ハナ子さんについての話
ハナ子さんはクラスでもおとなしいほうで,目立たない感じの子どもなんですけど,学習の取組みが気がかりです。5年生とは思えないような乱雑なノートのとりかたなんです。文字が1cmのマス目におさまっていないこともあるし,私には読めないような文字を書いていることもあります。漢字テストもとても成績が悪くて,へんとつくりが逆になっていたりします。復習課題を出していますが,効果はなかなか出ません。板書をなかなか書き取れず,ハナ子さんが書き写すのを待たなくてはならないこともあるんです。書き写しをあきらめてしまうこともあって,声をかけるとしぶしぶ取り組みます。音読も苦手で,もにょにょと聞き取れないような声で自信なさそうにしています。そういう読み方をマネしてからかう子どももいます。親御さんもとても心配されていて,かなり時間をかけて漢字の書き取りなどの指導をはりついてやっているようなのです。ハナ子さんは休み時間なども元気なく,机にぐったりとうつぶせていることもあります。
事例②:小学1年生の担任教師から,タロウさんについての話
タロウさんには本当に困っています。授業中席についていられなくて,ふらっと教室から出ようとすることもあります。勉強がわからないのかと思うと,そうでもなくて,生き物のことなどとても詳しくて,とくに昆虫についてはおとな顔負けの知識があるようです。入学当初は落ち着かない子どもも多いのですが,2学期になって他の子どもたちが落ち着いてきたなかでもタロウさんの振舞いは目立っています。ことばがわからない子どもではないので,言って聞かせようとしますがなかなか従いません。この前,手を引いて連れて行こうとしたら突然叫びだして大騒ぎになってしまいました。もっと困っているのが放課後児童クラブで,他の子どもを突然叩いてしまったり,部屋を飛び出して行方がわからなくなって学校中を探し回ったりすることもあったということで,こうしたことが続くようなら対応しきれないと言われています。
(参考:大石幸二監修/山崎晃史編著(2019). 『公認心理師・臨床心理士のための発達障害論――インクルージョンを基盤とした理解と支援』学苑社)

 

引用・参照文献

  • AAIDD(American Association on Intellectual and Developmental Disabilities)(2021). Defining Criteria for Intellectual Disability.
  • APA(American Psychiatric Association)(2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders(5th ed.). American Psychiatric Pub.(American Psychiatric Association編/日本精神神経学会(日本語版用語監修)/髙橋三郎・大野裕監訳(2014).『DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院)
  • 有賀道生(2014).「知的障害者の自傷行為について」『そだちの科学』22,44-48.
  • 綾屋紗月・熊谷晋一郎(2008).『発達障害当事者研究――ゆっくりていねいにつながりたい』医学書院
  • 綾屋紗月・熊谷晋一郎(2010).『つながりの作法――同じでもなく違うでもなく』NHK出版
  • Bartram, P.(2007). Understanding your young child with special needs. Jessica Kingsley Publishers.(バートラム,P./平井正三・武藤誠監訳/NPO法人子どもの心理療法支援会訳(2013).『特別なニーズを持つ子どもを理解する』岩崎学術出版社)
  • Bishop, D. V. M., & Snowling, M. J.(2004). Developmental dyslexia and specific language impairment: Same or different? Psychological Bulletin, 130 (6), 858-886.
  • Buck, P.(1950). The child who never grew. John Day.(バック,P./伊藤隆二訳(2013).『母よ嘆くなかれ』新訳版,法政大学出版局)
  • Frith, U.(2008). Autism: A very short introduction. Oxford University Press.(フリス,U./神尾陽子監訳/華園力訳(2012).『ウタ・フリスの自閉症入門――その世界を理解するために』中央法規出版)
  • 藤家寛子(2007).『自閉っ子は,早期診断がお好き』花風社
  • Grandin, T., & Panek, R.(2013). The autistic brain: Thinking across the spectrum. Dunow, Carlson & Lerner Literary Agency.(グラディン,T.・パネク,R./中尾ゆかり訳(2014).『自閉症の脳を読み解く――どのように考え,感じているのか』NHK出版)
  • 蜂矢百合子(2020).「女性のASDと女性のASDに併存する精神症状,医療ニーズ,慢性疼痛」『精神医学』62 (7),977-984.
  • 浜田寿美男編著(1992).『「私」というもののなりたち――自我形成論のこころみ』ミネルヴァ書房
  • 市川宏伸(2014).「発達障害の本質とは何か」市川宏伸編著『発達障害の「本当の理解」とは――医学,心理,教育,当事者,それぞれの視点』金子書房
  • 井上智・井上賞子(2012).『読めなくても,書けなくても,勉強したい――ディスレクシアのオレなりの読み書き』ぶどう社
  • 井澤信三・小島道生編著(2013).『障害児心理入門』第2版,ミネルヴァ書房
  • 神田橋條治(2018).『発達障害をめぐって』岩崎学術出版社
  • 加藤醇子編著(2016).『ディスレクシア入門――「読み書きのLD」の子どもたちを支援する』日本評論社
  • 厚生労働省(2018b).「平成30年版厚生労働白書――障害や病気などと向き合い,全ての人が活躍できる社会に
  • 黒田美保(2018).『公認心理師のための発達障害入門』金子書房
  • 黒柳徹子(2015).『窓ぎわのトットちゃん』新組版,講談社
  • 強度行動障害支援者養成研修(基礎研修)プログラム作成委員(2014).『強度行動障害支援者研修(基礎研修) 受講者用テキスト』国立重度知的障害者総合施設のぞみの園
  • 南正一郎(2020).「当事者の要望」『そだちの科学』34,91-93.
  • 宮本信也編(2016).「学習障害を支援する」『こころの科学』187,9.
  • 文部科学省(2012).「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について
  • 文部科学省(2022).「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について
  • 文部省(1999).「学習障害児に対する指導について(報告)
  • 内閣府(2021).「令和3年版 障害者白書
  • 日本ニューロダイバーシティ研究会(2021).「日本ニューロダイバーシティ研究会 設立趣意
  • 小野真樹(2021).『発達障がいとトラウマ――理解してつながることから始める支援』金子書房
  • 大塚晃(2019).「日本における知的障害の定義」日本発達障害連盟編『発達障害白書 2020年版』明石書店
  • 小澤勲(1984).『自閉症とは何か』精神医療委員会
  • 榊原洋一(2021).「発達障害と誤診の危険性について」日本発達障害連盟編『発達障害白書2022年版』明石書店
  • 櫻井未央(2009).「その人らしさとしての“障碍”―――自伝分析にみる高機能広汎性発達障碍をもつ方々の世界」田中千穂子編著『発達障碍の理解と対応――心理臨床の視点から』金子書房
  • 志賀利一・内山登紀夫・川島慶子・福留さとみ(2018).「成人期発達障害者の生活実態に関する調査――発達障害者支援センターの新規相談者の実態調査から」『国立のぞみの園 紀要』11,124-140.
  • Shimoyama, M., Iwasa, K., & Sonoyama, S. (2018). The prevalence of mental health problems in adults with intellectual disabilities in Japan, associated factors and mental health service use. Journal of Intellectual Disability Research, 62(11), 931-940.
  • Sinason, V.(2010). Mental handicap and the human condition: An analytic approach to intellectual disability(Rev. ed.). Free Association Books.(シナソン,V./倉光修・山田美穂監訳/中島由宇・櫻井未央・倉光星燈訳(2022).『知的障害のある人への精神分析的アプローチ――人間であるということ』ミネルヴァ書房)
  • 杉山登志郎(2020).「発達障害の『併存症』」『そだちの科学』35,13-20.
  • 諏訪まゆみ編著(2021).『ダウン症のすべて』改訂2版,中外医学社
  • 高野亨子(2020).「知的障害の遺伝学的診断」『信州医学雑誌』68(4),183-187.
  • 高山恵子編著/NPO法人えじそんくらぶ著(2012).『ADHDのサバイバルストーリー 本人の想い編――おっちょこちょいにつけるクスリ②』ぶどう社
  • 滝川一廣(2017).「こころの傷と心的外傷」『そだちの科学』29,2-8.
  • 滝川一廣(2017).『子どものための精神医学』医学書院
  • 滝川一廣(2018).「精神発達をどう捉えるか」『臨床心理学』18 (2),138-142.
  • 玉井邦夫(2015).『本当はあまり知られていないダウン症のはなし――ダウン症は「わかって」いない』神奈川LD協会
  • 玉井浩監修/若宮英司編集(2016).『子どもの学びと向き合う医療スタッフのためのLD診療・支援入門』診断と治療社
  • 田中康雄(2018).「ADHD――脳とこころと人生」『こころの科学』200,47-53.
  • 十一元三(2018).「こころの健やかな発達/つまずきと脳――社会性を中心に」『こころの科学』200,28-33.
  • 鳥居深雪(2020).『改訂 脳からわかる発達障害――多様な脳・多様な発達・多様な学び』中央法規出版
  • 藤堂栄子(2009).『ディスレクシアでも大丈夫!――読み書きの困難とステキな可能性』ぶどう社
  • 土屋賢治(2018).「最新の自閉スペクトラム症研究の動向――①疫学(有病率)研究,環境因子研究,計算論的モデル研究を中心に」『そだちの科学』31,10-17.
  • 打浪文子(2018).『知的障害のある人たちと「ことば」――「わかりやすさ」と情報保障・合理的配慮』生活書院
  • 内山登紀夫(2020).「大人の発達障害――診断概念の整理と研究テーマの動向」『精神医学』62 (7),949-957.
  • 植田章(2016).「知的障害者の加齢変化の特徴と支援課題についての検討」『福祉教育開発センター紀要』13,41-56.
  • Williams, D.(1992). Nobody nowhere: The extraordinary autobiography of an autistic. Crown. (ウィリアムズ,D./河野万里子訳(1993).『自閉症だったわたしへ』新潮社)

【インタビュー④】

  • Fromm, E.(1956). The art of loving. Harper Collins Publishers.(フロム,E./鈴木晶訳(2020).『愛するということ』改訳新装版,紀伊國屋書店)

【コラム7】

  • 大島一良(1971).「重症心身障害の基本的問題」『公衆衛生』35 (11),648-655.D366
  • Sinason, V.(2010). Mental handicap and the human condition: An analytic approach to intellectual disability(Rev. ed.). Free Association Books.(シナソン,V./倉光修・山田美穂監訳/中島由宇・櫻井未央・倉光星燈訳(2022).『知的障害のある人への精神分析的アプローチ――人間であるということ』ミネルヴァ書房)

 

追加資料

(10章235頁 ※ウェブサポート限定資料)

 

訂正情報・補遺

■訂正情報:本書10章4節第1項「パソコンはめがね?」(図10-4含む248頁下から9行目~249頁1行目)を削除して,以下の文に訂正いたします。

 何が機能障害であるのかは,その時代や文化によって異なる,相対的なものです(⇒1章)。皆さんの中で,めがねやコンタクトレンズによって視力の矯正を行っている人は少なくないでしょう。しかし,そうした視力矯正の技術やツールがなかった時代には,視力の問題で読み書きや日常生活に支障をきたす人はより多くいたと考えられます。
 ここで学ぶ学習障害には,読むことや書くことの困難が含まれます。人によってさまざまな症状が見られますが,例えば読むことが難しい場合では,流暢に読めない,行を読み飛ばす,読んで内容を理解しにくい,などといった困難が,書くことが難しい場合では,書くのに時間がかかる,板書の書き写しが難しい,などといった困難があらわれることがあります。そうした困難に対して,読み書きの機能面に焦点を当てた個人モデルの観点からの支援だけでなく,学びの社会的障壁を除去する社会モデルの観点からの支援も必要です(⇒4章)。その人の困難に応じた合理的配慮を行うことで,学ぶ権利を保障することにつながります。特に近年発達しているICT(情報通信技術)には,撮影・録画機能や音声読み上げ機能,ハイライト機能,フォントの調整など,学習障害のある人が学ぶために役立つ技術が数多くあります。
 学校などが合理的配慮を行うことは法的な義務となっていますが,障害のある人が個別の対応を求めることにいまだハードルがあることもあります。「特別扱いは不公平」といった周囲の誤解もその1つです。学習障害のある人が必要に応じてパソコンなどのICTを使うのは,近視などの人がめがねをかけることと同じようなことであるという共通認識をもつことが必要です。

 

■補 遺
 今日においてディスレクシアは音韻意識やデコーディングの困難として理解されています(本書250頁参照)。249頁で示した図10-4は,ディスレクシアのある人が,自身の体験している見え方の「イメージ」を伝えようとして作成されたものですが,こうした見え方(のイメージ)が,学習障害やディスレクシアの中核的な症状ではありません。図10-4を「読み障害における文字の見え方の例」と題して,学習障害を解説する節のはじめで紹介することで,まるでこの見え方のイメージが中核的な症状であるかのような誤解を招きうると考えました。
 この紹介のしかたが一人歩きしてしまい,「学習障害があるのにもかかわらずこうした見え方がないからと見過ごされてしまい必要な支援がなされなくなること」「見え方のイメージだけが特別に大きく捉えられて,そこに特化した誤った機能訓練がなされてしまうこと」「逆に,見え方のイメージが学習障害の中核的な症状ではないからと軽んじられてしまうこと」などの誤解や曲解を引き起こしてしまうかもしれない可能性,それが障害のある人や家族の傷つきや不利益につながってしまうかもしれない可能性を編者として懸念しました。学びのスタートに立つ学生の皆さんに伝えるからこそいっそう,正しく伝えなければならないと感じています。図10-4が,ある当事者の方の体験の切実な表現であることは確かなことです。この訂正が,図10-4が伝えようとする困難の重さや,この表現の意義を減じるものではないこともあわせて改めて伝えたいと思います。自戒をこめて,私たちは,それぞれの機能障害の今日的な理解を学び,その人それぞれの個別的な困難を,過小でも過剰でもなく虚心に捉えなくてはならないと考えています。
 以上に述べたような本書における図10-4の提示のしかたの問題に鑑み,図10-4を取り下げ,訂正してお詫びいたします。