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山本隆司[著]『判例から探究する行政法』<2012年12月刊>(評者:神戸大学 興津征雄准教授)=『書斎の窓』2013年6月号に掲載= 更新日:2014年1月14日

はじめに

「新しい判例を手がかりとした行政法の体系構築 (Systembildung des Verwaltungsrechts anhand neuerer Rechtsprechung)」 一見学術論文のタイトルかと見紛うが、 実はこれは、 本書 『判例から探究する行政法』 に付されたドイツ語の題名である (本書の奥付を参照)。 本書は、 『法学教室』 における連載をまとめたものであるという性格上、 その主たる読者としては行政法の学習者が想定されていると思われるし、 また学習者でなくても判例の詳細で正確な理解を得るために本書を読むことは大いに勧められる。 しかし、 同時に、 ドイツ行政法の理論体系を自家薬籠中の物として日本行政法と切り結ぶ研究者・山本隆司の2冊目の単著であることを意識して本書の行間を凝視すると、 著者が 「行政法の体系構築」 というドイツ語タイトルに込めたメッセージが浮かび上がってくるようにも思われる。

 そこで、 本稿では、 本書の二つの読み方を提示してみたい。 一つは、 本書を 『判例から探究する行政法』 として読むこと、 すなわち当代一流の書き手による最高水準の判例解説の書として読むことである。 もう一つは、 『新しい判例を手がかりとした行政法の体系構築』 というタイトルを持った理論研究の書として読むこと、 すなわち著者が判例を素材として行政法のどのような体系を構築しようと企てているのかを探ることである。

 後者の読み方は、 著者のこれまでの仕事と著者の構想を十分に理解したうえで綿密な論証を伴ってなされるべきであり、 本来この小さな書評で評者がなしうるような作業ではない。 しかし、 前者の読み方しか示さなければ、 本書の価値を半分しか伝えないことになりかねないことは評者にもわかる。 そこで、 近い将来より適格を有する者または著者自身によって本書の真の意義が明らかにされることを期待しつつ、 蛮勇をふるってその誘い水となるような読み方を示すことを試みたい。

 

 

判例解説書として読む

 本書は、 法学教室338号 (20084月号) から366号 (20113月号) まで、 丸3年にわたり連載された同題の記事に、 法学教室308号 (20065月号) と法学協会雑誌1226号 (2005年) に著者が掲載した判例評釈を加えてまとめられたものであり (初出一覧は本書1頁に掲載)、 全30件の判例解説を収める。 1件の判決につき、【事実】および【判旨】を示したうえで解説を加えるという一般的な判例評釈と同様のスタイルをとっているが、 次の2点において単なる判例評釈集とは異なる特徴を持つ。

 一つは、 比較的新しい判決ばかりが直接の対象として取り上げられていることである。 著者も本書の 「はしがき」 で指摘するように、 2004年の行政事件訴訟法改正の前後から、 最高裁は行政法の分野において、 それまでの時代とは比べ物にならないくらいの頻度で重要判決を出すようになった。 こうした判例の量的・質的拡大が、 本書執筆の背景にあることは想像に難くない。 本書が取り上げる判決は、 一番古い最判平成1594 (【17】―隅付き括弧で囲まれた数字は本書の判例番号を示す) から一番新しい最判平成2263 (【9】) までの7年足らずの間に最高裁が言い渡したものであり、 その意味で本書は今世紀初頭における行政判例の克明な記録としての意味を有する (なお、 刊行時期の関係で本書に収録されなかったと思われるが、 最判平成2429 〔日の丸・君が代事件予防訴訟〕 に関する山本隆司 「行政処分差止訴訟および義務不存在確認訴訟の適法性」 論ジュリ3号 〔2012年〕 117127頁は、 実質的に本書の補遺をなすものとして、 あわせて参照することが勧められる)。

 もう一つの特徴は、 解説が単なる判決の説明を超える豊かな内容を含んでいることである。 直前で、 本書が取り上げる判決は新しいものばかりであると述べたが、 それは各項目の見出しとなっている判決に限っての話であり、 解説の中では当然のことながら、 それらの判決が前提としている旧来の判例にも十分な言及がされている。 むしろ、 最近の判決が旧来の判例をどう読んでそれに対してどのような立場をとったかという観点から、 旧来の判例との連続と断続とが明快に解き明かされている。 また、 『法学教室』 という初出媒体の性格を意識してか、 プロ向けの判例評釈では当然の前提として省略されがちな学説状況にも比較的丁寧に目配りがされ、 さらに判決が解決しなかった問題や判決から派生する問題についても考え方が示されるため、 読者は、 その判決の内在的な理解はもとよりのこと、 その判決が生まれた理論上・実務上のコンテクストについても、 かなり踏み込んだ知識を期待することができる (余談であるが、 評者が授業準備で判例の説明に迷ったときに必ず参照するのは、 本書と法学教室368号 (20115月号) から392号 (20135月号) まで連載された 「公法訴訟」 である)。

 ただし、 本書が以上のような特徴を有することの代償として、 本書の解説を真に理解するためには、 行政法に関する相当程度の前提知識が必要となることは否めない。 率直にいえば、 初学者が本書を頭から読もうとしても歯が立たないであろう。 その理由は、 抑制された筆致の中に多種多様で複雑な考慮要素がその複雑性を保ったままに位置づけられながら思考が組み上げられるという著者独特の行論スタイル―この行論スタイルは、 後述のように著者の拠って立つ理論的前提から不可避的に要請されるものと見られる―もさることながら、 一つの判決を理解するために行政法総論・個別実体法・行政救済法の総合的な知識が要求され、 本書の解説でもそのそれぞれに随時論及がされるため、 学習済みの論点だけを切り離して理解するという読み方をするのが難しいからである。 したがって、 学習者としては、 法学部や法科大学院で行政法の基礎を一通り学習し終えた後で、 次のステップに進むために本書を手に取ることが最善であろう。 それでも本書を読解することは骨が折れるだろうが、 苦心して読了した暁には、 行政法の理解や判例へのアプローチが一段も二段も深まったと感じられるはずである (これまた余談であるが、 近時の司法試験では、 このレベルでの判例の精確な理解が求められているように見える。 本書【21】の解説と、 平成二四年司法試験論文式試験問題出題趣旨 〔法務省ウェブサイトで公表〕 の公法系科目第2問とを、 読み比べてみよ)。

 なお、 本書の各項目は、 連載時の順番を大幅に組み替えて、 行政法総論と行政救済法の標準的な編別に準じて構成されている。 とはいえ、 各項目はそれぞれ独立した解説となっており、 最初から順に読んでいかなければ理解できないというものではない。 例えば、 学生がゼミでの報告やレポート執筆のために特定の判決について勉強する必要が生じた場合に、 当該判決に関する本書の解説を出発点とするという使い方も想定できる。 近時の学習書には珍しく脚注が豊富であり、 またクロスリファレンスも丁寧に付されているため (ただし項目番号のみで頁数の付記がないのは不便である)、 そこから芋づる式に関連論点や文献を調べていけば、 かなり深いところまでリサーチを行うことが可能となろう。

 

 

理論研究書として読む

 

 著者はいまだ教科書・体系書を執筆していないので、 本書が 「行政法の体系構築」 において持つ意味を知るには、 著者のこれまでの研究から推測するしかない。 ところが、 著者がすでに公表した研究成果は、 質量ともに実に豊富であって (著者のウェブサイトhttp://www.yamamoto.j.u-tokyo.ac.jp/bibliographie.htmlに著作一覧が掲げられている)、 すでに述べたように評者はその総体を評価して本書の理論的意義を定位する資格を持たない。 そこで、 その中でも特に綱領的な意味を持つと思われる少数の業績のみに焦点を絞ることで、 著者の体系構想を骨格部分だけでも描いてみたい。

 その中核に位置するのは、 いうまでもなく著者のデビュー論文をまとめた 『行政上の主観法と法関係』 (有斐閣、 2000年) (以下 『法関係』 という) である。 著者の構想を具体例をもってイメージするには、 ドイツの判例を分析した第4章および日本法について論じた第6章を繙くことが有益であるが、 体系という観点からすると、 著者のドイツでの師であり著者の理論に大きな影響を与えたE・シュミット=アスマンの所説を紹介した第3章第4節も見逃せない。 なお、 同書の浩瀚さと本書以上に凝縮された文体とに腰が引ける向きには、 著者の最良の理解者による書評・大橋洋一 「法関係を基軸とした権利論の再構成」 自治研究七七巻四号 (2001年) 123139頁 (以下 「大橋書評」 という) を手引きとすることが勧められる (またまた余談であるが、 今回同書評を読み直し、 著者のその後の理論展開の少なくとも萌芽はほとんどすべて同書に含まれていること、 そして書評者の大橋がそれを正確に見抜いていたことがわかり、 これらの論者の背中を周回遅れで見つめている評者は驚くほかなかった)。 シュミット=アスマンの理論については、 太田匡彦 = 大橋洋一 = 山本隆司訳 『行政法理論の基礎と課題』 (東京大学出版会、 2006年) 371390頁に付された著者執筆の 「訳者あとがき」 (以下 「訳者あとがき」 という) も必読である。 そのほか、 著者が自らの体系構想を行為形式論を中心に明らかにした 「開かれた法治国」 公法研究65号 (2003年) 163174頁 (以下 「法治国」 という)、 私法 (民事法) と公法 (行政法) との関係について述べた 「私法と公法の〈協働〉の諸相」 法社会学六六号 (2007年) 1636頁 (以下 「私法と公法」 という)、 行為形式論と行政訴訟論の両方にまたがる 「訴訟類型・行政行為・法関係」 民商法雑誌13045号 (2004年) 640675頁 (以下 「訴訟類型」 という)、 ドイツ人に向けて日本の裁量論を説明した 「日本における裁量論の変容」 判例時報1933号 (2006年) 1122頁 (以下 「裁量論」 という)、 『法関係』 以後の著者の研究の中心に位置する公私協働論に関する 「日本における公私協働」 藤田宙靖博士東北大学退職記念 『行政法の思考様式』 (青林書院、 2008年) 171232頁 (以下 「公私協働」 という) などが、 本書との関連が特に深いと思われる (現に本書でも頻繁に引用されている)。

 これらの著作から読み取られる (評者が読み取りえた) 著者の構想を乱暴にまとめるならば、 行政法の体系は、 法治国原理・権力分立原理・民主主義原理などの憲法上の基本法理を 「社会環境における利益と情報・知識の布置状況に応じて適切に、 分化・差異化させ、 相互に調節・補完した上で組み合わせる」 (「法治国」 163頁) ことを可能にするものであり、 具体的には次のような構成をとると推測される。 第一に、 「分配行政」 の観念を軸とし (『法関係』 246250頁、 大橋書評131頁)、 行政作用の本質を個人間の利益の調整・分配に見ることにより、 一方で民事法と行政法の 「協働」 の可能性と必要性が導かれ (『法関係』 322330頁、 大橋書評133135頁、 「私法と公法」)、 他方で行政作用に関する個人の権利 (訴訟法上は原告適格を基礎づける) の析出が可能になる (『法関係』 250255頁・第四章、 大橋書評132133頁)。 第二に、 行政の行為形式論を法形式論と手続構造論とに分節することにより (「法治国」)、 行政行為の特殊性を過度に強調する従来の議論が相対化されるとともに (訴訟法からの論及であるが 「訴訟類型」)、 行政裁量を行政による情報の収集と加工の過程に即して統制する枠組みが提供される (「裁量論」)。 そして第三に、 公私協働論がある (「公私協働」)。 著者の公私協働論は、 決定・執行における協働 (社会福祉サービスの給付や基準適合性の検査・証明など) のみならず、 決定の前段階に位置する情報の収集・形成・提示の過程における協働 (環境アセスメントや事業者団体によるルール策定など) をも含む射程の長い議論であり、 上記第一点・第二点にまたがる問題を含むため、 これらと並べて挙げることが適切かどうかはわからないが、 ともあれ、 著者の体系の支柱をなすといっても過言ではない。 なお、 その後の著者の関心は、 分配行政における経済性・効率性の意義へと進んでいるが (「行政法システムにおける市場経済システムの位置づけに関する緒論」 加藤一郎先生追悼論文集 『変動する日本社会と法』 〔有斐閣、 2011年〕 2367頁、 「競売による分配行政法の基本問題」 阿部泰隆先生古稀記念 『行政法学の未来に向けて』 〔有斐閣、 2012年〕 243272頁)、 この論点はいまだ日本法の具体的素材に即して敷衍されるのを待っている段階にあると見られるので、 これ以上立ち入らない (ただし【15】はある程度これにかかわる)。

 こうした著者の体系観は、 本書にどのように反映されているか。 まず印象として、 行政作用に関する民事法の適用または行政上の法律関係と民事上の法律関係との関係を扱う判例が比較的多く選択されていることに気づく (【2】【4】【5】【8】など。 行政行為の効力の観点からであるが、【10】も行政法と民事法の関係にかかわる)。 特に、 公共用物の管理と占有に関する【2】や、 地方公共団体の債権の消滅時効に関する【4】などは、 一般的な行政法の教科書等でそれほど手厚く論じられる問題ではないと思われる (各年度の 『重要判例解説』 にも収録されていない) にもかかわらず、 本書でそれなりの位置づけが与えられているのは、 著者の体系ならではといえるのではないか。

 原告適格については、 項目としては2件にとどまるが (【23】【24】)、 『法関係』 以来の著者の研究から抽出されたエキスが詰め込まれている。 特に、 小田急訴訟最高裁判決を踏まえて 「原告適格論の課題と展望」 を論じた箇所は、 読みごたえがある (本書447459頁)。 「行訴法9条2項を参考に」 (本書482頁) 訴えの利益を判断すべきことを説く【25】も、 ここで挙げることができるかもしれない。

 次に、 行為形式論の再構成は、 既成の行政法理論に大きな変革を迫るものであり、 著者自身も研究途上にあると見られるものの、 その大部分は本書において明らかにされた。 行政の法形式としては行政行為 (【9】【10】) と行政契約 (【11】) が順次取り上げられているが、 手続構造の観点を加味した再構成を予感させるのは、 むしろ処分性論 (【17】~【22】) である。 例えば、 給付行政において行政行為 (処分) と契約のいずれの法形式・行為形式が選択されるか (【17】)、 作用法の規定から離れて実務上形成された手続の流れから行為の最終決定性を導けるか (【18】【19】) などは、 処分性を認めた場合の決定手続および訴訟手続の特性と、 それに伴う私人の手続保障を考慮して判断されるべきという (まとめとして【20】)。 行政計画 (【21】) や条例 (【22】) については、 段階的に決定が積み上げられる行政過程において段階ごとに争訟手続を保障する必要性 (つとに 『法関係』 318322頁)、 法関係を早期に統一的に確定する必要性が考慮される。

 裁量論 (【12】~【16】) においてもまた、 手続構造の観点が強調される。 著者は行政裁量を 「法適用を通じた公益に関する最終決定……を行う過程における、 行政機関と裁判所の機能の差異および分担の形態を示す概念」 (「裁量論」 13頁、 傍点原文) と捉えるため、 行政機関と裁判所のそれぞれの手続の特性に配慮した統制方法が模索され、 判断過程の統制が基本形となる (【12】、 本書308310頁、 「裁量論」 1516頁)。 ただし、 行政過程と行政訴訟手続との関係 (【14】) については、 「さらに検討する必要がある」 (本書310頁) と指摘されるにとどまり、 処分性論におけるほどのインパクトはないように感じられた。

 最後に、 公私協働については、 組織のあり方 (【8】) や損害賠償責任の所在 (【29】【30】) について具体的に検討される。 そのほか、 民主的正統化 (【7】) も、 直接に公私協働を扱うわけではないが、 公益を実現する任務をいかなる組織・主体に委ねるべきかを論じるうえでの重要な前提となる (さらに 「行政の主体」 磯部力ほか編 『行政法の新構想Ⅰ』 〔有斐閣、 2011年〕 89113頁も参照)。 国民主権と国家主権とを厳密に区別し、 多層的法秩序を踏まえた分節的考察の必要を指摘して判旨の論理破綻と先例との不整合をあばき出す【7】は、 本書の中でも圧巻の解説であり、 今後の公法学 (行政法学のみならず、 憲法学、 国際法学も含めて) が取り組むべき課題の所在を示唆しているように感じられた。

 誤解を避けるために付け加えれば、 著者は決して、 自己の体系に適合する判決のみを恣意的に選別しているわけではないし、 判旨を自説に沿うように牽強付会に解釈しているわけでもない。 むしろ、 著者にとって判例とは、 自己の体系を具体的な素材に即して検証し、 鍛え上げる場となっているように思われる。 現に、 著者は、 検証を踏まえて自説を修正する柔軟さを当然ながら持ち合わせている (例えば本書387頁註35)。

 そもそも著者にとって行政法の体系=システム (ドイツ語でいうSystem)とは、 「一方で憲法上の基本原理、 他方で現実の行政の任務とそれを実現する場合の環境条件に適合するように、 不断に反省し新たに構築されるもの」 であり、 「諸要素が細やかに 「段階」 づけられ……、 諸要素間の 「適合性」 が検討され……、 諸要素間の代替関係 (「機能的等価」)、 および諸要素を総合し組み合わせて判断するための枠組……を示すようなシステム」 である (「訳者あとがき」 376377頁。 この引用は直接にはシュミット=アスマンの紹介であるが、 著者が共感を示していることにつき、 『法関係』 243頁)。 先に指摘したような、 時として難渋に感じる著者の行論スタイルは、 このような体系=システムの構築を実直に実践する帰結であるように思われる。

 そして、 この観念は、 裁判実務 (判例) と学説との関係に関する著者の考え方を規定しているようにも見える。 著者は 「はしがき」 において、 本書執筆の意図を次のように説明している。

 

「従来の通説をあてはめて判例を批評するのではなく、 新たな局面に入ったものとして最高裁判例を 「参照」 し、 学説と裁判実務を一歩先に進めることを、 企図したのである。」 「学説の眼から裁判実務をただ批判するだけでも、 あるいは逆に、 裁判実務を鵜呑みにするのでもなく、 裁判実務を契機に学説を発展させ、 その成果を裁判実務に還元できるような、 両者間の生産的な架橋ないし 「対流」 のスタイルを築けないかと考えた。」 (本書ⅱ頁)

 

 「両者間の生産的な架橋ないし 「対流」 のスタイル」 こそが、 著者が本書で構築しようとした体系=システムのイメージではないだろうか。 そのことがこの拙い書評で読者に伝われば、 それだけで評者の役割は果たし終えたことになる。

 

 

おわりに

 以上に述べたとおり、 本書は著者のこれまでの研究のエッセンスの結晶物であり、 それゆえ決してわかりやすい本ではない。 むしろ、 複雑なことを過度の単純化・図式化を避けて伝えようとしているところに特徴がある。 これは、 必要最小限の知識を効率よく伝達することに (のみ) 価値が置かれる昨今の学習書の出版情勢の対極に位置するようなものである。 本書を言祝ぐべきなのは、 こうした出版情勢に呑み込まれてしまった感のある老舗の書肆が、 学問の香り高い本書を学習書として世に送る良心と気概をまだ持ち合わせていたことを示したことに対してかもしれない。 「私は判例評釈が得意でなく、 率直なところあまり好きでもない」 (本書ⅰ頁) と告白する著者に、 本書の元となる連載を引き受けさせ、 本書を出版にまで漕ぎ着けた編集者には、 拍手を送りたい。

 日々進化を続ける著者の体系が完成を迎える日はまだはるか遠い未来のことであろうが、 読者としては、 そう遠くない将来、 著者の構想の全貌を明らかにした行政法の体系書を手にする日を待ち望んでいる。 その日がいつ来るかは、 さらなる良心と気概に満ちた出版社と編集者の手にかかっている。

 

(おきつ・ゆきお = 神戸大学大学院法学研究科准教授)

判例から探究する行政法 判例から探究する行政法

山本 隆司/著

2012年12月発売
A5判 , 654ページ
定価 4,968円(本体 4,600円)
ISBN 978-4-641-13112-5

2002年から2010年までに言い渡された最高裁判例を解説した法学教室連載に,判例評釈を加えた,30件の判例解説。改正行訴法が成立・・・

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