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櫻井茂男[著]『自ら学ぶ意欲の心理学――キャリア発達の視点を加えて』<2009年12月刊>(評者:東京大学 市川伸一教授)=『書斎の窓』2010年6月号に掲載= 更新日:2010年6月3日

 我が国の動機づけ研究の第一人者である櫻井茂男氏の、これまでの研究の集大成であるとともに、これからの研究の新たな方向を展望する著書である。私も、楽しみにしながら読み進んだ。
 櫻井氏といえば、「内発的動機づけ」の推奨者であると思う方が多いのではないだろうか。実は、私もそのようなイメージをもっていたのだが、櫻井氏自身が、単純に「自己目的的に、学ぶこと自体に楽しさを感じて学ぶ」という意味での内発的動機づけには疑問をもっていたことがわかる。教育心理学の教科書で必ず登場する「内発的動機づけ」「外発的動機づけ」だが、その区分がそれほど明瞭なものではないことは、近年多くの研究者から指摘されている。
 たとえば、「必要感をもって、自分のために大切だから学ぶ」というのは、たとえそれが他の目的のための手段的な学習で、それ自体が楽しいものでなくても、けっして否定されるものではなく、むしろ、私たちの日常生活ではよくあることである。鹿毛雅治氏は、これを「内容必然的」な学びと呼び、私自身は、かつて「功利性の次元」と「内容重視の次元」の双方で高い位置にある「実用志向」の学習動機と位置付けた。
 本書で、櫻井氏は、内発的動機づけ概念には、目標性つまり「手段的ではなく目的的に学ぶ」という側面と、自発性つまり「他律的ではなく自律的に学ぶ」という側面が混在していたことを指摘し、手段―目的性よりも、自律的かどうかが重要であることを主張する。これが、本書を通して流れているテーマである「自ら学ぶ意欲」ということになる。これと対比されるのが、「統制的に学ぶ意欲」ということになる。
 動機づけの分類というのは、さまざまな観点からできるものであろうが、まず第1章で、読者は著者と対話するつもりで、説明を読んでは、「こういう動機はどちらになるのだろう」と自問し、本書の細部から著者の答えを引き出してみるとともに、自分なりの答えを探る、という能動的な読み方をするとおもしろいだろう(たとえば、「お金持ちになりたい」と自ら欲して、一生懸命勉強するのは、自律的なのか他律的なのか、など)。
 第2章と第3章では、著者の最近の研究の結晶である「自ら学ぶ意欲」のプロセスモデルについて、その全体像とさまざまな研究成果が紹介される。とくに、こうした研究をこれから行っていこうとする学生にとっては、モデルや尺度の検討のしかたについても詳しく説明されているので、研究法の習得にも役立つに違いない。
 第4章は、「自ら学ぶ意欲」の発達が、乳幼児期、児童期、青年期前期(中学校時代)、青年期中期以降(高校、大学、成人期、老年期)の順に解説される。動機づけについて、発達的な研究を扱った本はけっして多くないので、ここは貴重な章である。ただし、あらためて、この領域はまだまだ未開拓であることが感じられ、これから展開が大いに期待されるところである。
 第Ⅱ部の第5章から第8章までは、近年の動機づけ理論の中でも主要なものをとりあげて、解説している。すなわち、自己決定理論とそれに関連する諸理論、達成目標理論、学習性無力感理論である。教育心理学の教科書などではよく紹介される理論ではあるが、本書では、こうした理論に精通した著者が詳細な説明を加えているのが特徴といってよいだろう。大学院生や、他分野の研究者にも非常に参考になる記述である。
 さらに、第Ⅲ部の第9章から第12章では、「自ら学ぶ意欲」を育てるための影響要因について、対人関係、報酬と評価、教育などがとりあげられる。教育の影響は発達段階に応じて、非常にきめ細かく論じられている。
 最後の第Ⅳ部の第13章から第16章では、「自ら学ぶ意欲」が育つことの成果として、学業成績、健康、創造性、働く意欲などが高まるという研究が紹介される。
 こうして見ると、本書がいかに広い射程をもった、充実した内容であるかがわかる。専門書としての高度な内容と、著者のオリジナルな研究成果や見識が実を結んだ好著として、学生、研究者、教育関係者など、多くの人にぜひすすめたい。

(いちかわ・しんいち=東京大学大学院教育学研究科教授)

自ら学ぶ意欲の心理学 -- キャリア発達の視点を加えて 自ら学ぶ意欲の心理学 -- キャリア発達の視点を加えて

櫻井 茂男/著

2009年12月発売
A5判 , 326ページ
定価 3,348円(本体 3,100円)
ISBN 978-4-641-17362-0

どうすれば自主的に,意欲的に学び続けることができるのだろうか。キャリア発達の視点を加えながら,自ら学ぶ意欲のプロセスモデルと測定尺・・・

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