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コラム

反制定法的解釈について

京都大学名誉教授 前田達明〔Maeda Tatsuaki〕

第1 本稿の目的

1、私法の一般法たる民法には法定利率の定めはあるが(同法第404条)、約定利率については公序良俗違反(民法第90条)でない限り、上限の定めはない(契約自由の原則)。そこで、経済的弱者保護のために、特別法として利息制限法(以下、本法)が定められている。その規定は次の如くである。

第1条 ①金銭を目的とする消費賃借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

 1 元本が十万円未満の場合  年2割

 2 元本が十万円以上百万円未満の場合 年1割8分

 3 元本が百万円以上の場合    年1割5分

② 債務者は、前項の超過部分を任意に支払ったときは、同項の規定にかかわらず、その返還を請求することはできない(平成18〔2006〕法第115号により削除)。

第2条 利息の天引きをした場合において、天引額が債務者の受領額を元本として前条(第1項)に規定する利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分は、元本の支払いに充てたものとみなす。

第3条(省略)。

第4条 ①金銭を目的とする消費賃借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第1条(第1項)に規定する率の2倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。

② 第1条第2項の規定は、債務者が前項の超過部分を任意に支払った場合に準用する(平成18〔2006〕法第115号により削除)。

③ (省略)。

2、以上のように第1条第2項(以下、本条項)は(第4条第2項も)、平成18(2006)年に削除されている。その契機となったのは最大判昭和43年11月13日民集22・12・2526(以下、最大判)である。そこで、この最大判と、それに至る有名な2つの判決を合わせて分析し、その当否を検証しようというのが本稿の目的である(1)

第2 判例の流れ

1、まず、簡単な設例をもって始めよう。AがBから5万円を年4割で2年後に返すという契約で5万円を受取った。そして1年後に2万円の利息を支払ったとする。このとき、本法第1条第1項によれば、利率2割分したがって1万円の利息が利息となる。本条項によって超過利息1万円を返せ!とは請求できないが、これを元本5万円の支払いに充てることはできないだろうか(元本の内金として充当する)。これに対して、最大判昭和37・6・13民集16・7・1340は“本条項は返還請求を認めていないのに元本充当を認めると結果において返還を受けたのと同一の経済的利益を生ずることになる”として9対5の多数決によって「元本充当説」を否定した(5人の裁判官は元本充当説を支持したのである)(2)。そして、わずか2年後(否定説のうち4人が、肯定説のうち1人が退官していた)、最大判昭和39・11・18民集18・9・1868は“本法第1条第1項により、超過利息の支払は無効であり、その部分の債務は不存在である。したがって、その弁済は効力を生せず、元本が残存するときは民法第491条(法定充当)によって充当される。こう解することは経済的弱者保護を主たる目的とする本法の立法趣旨に合致する”と述べて、10対4の多数決で判例変更し元本充当説が勝利した。

2、この流れを受けて下されたものが最大判である。以上の設例において、元本充当説を知らずAが2年後に約定通り利息として2万円、元本として5万円、合計7万円を支払ったとする。しかし、すでに1年目で元本は4万円となっている。したがって、2年目にAが支払うべきは元本として4万円、制限内の利息として8千円であり、合計4万8千円であるから、2万2千円の過払いとなる。Aはそれの返還請求ができるか、というのが最大判のテーマである。最大判は“元本債権が存在しないところに利息は発生しないから利息制限法の適用はなく民法の不当利得法によって返還請求できる”と述べて(3)12対3の多数決で返還請求を認めた。

 このように本条項は「空文化」され(反制定法解釈)、適用範囲を失って平成18(2006)年に削除されたのである。

第3 最大判への疑問

1、⑴最大判の法解釈は果たして妥当であろうか。まず法解釈の原点に立ち返ろう。

 そもそも、法とは言語である。言語とは発信者の“意思”を受信者に伝える手段である。したがって、法は立法者の“意思”を国民に伝達する手段なのである。そして、法律の立法者とは国会である(憲法第41条)。その国会において法律案が異議なく可決されると、国会は法律案作成者の“意思”を承認したのであるから、法律案作成者の“意思”が国会の“意思”ということになる。そこで、国会は本条項案を修正することなく可決したのだから(第19回衆議院会議録第43号〔昭和29・4・30〕61頁、第19回参議院会議録第41号〔昭和29・5・6〕63頁)、本条項案を採用した法務委員会(国会法第41第2項第3号)の「意思」を国会の「意思」(立法者意思)として承認したのである。

 ⑵本条項原案の作成者の意思は次の如くである。「限度内の利息の支払いに充てて、なおそれ以上に支払ってもよろしいが、それは法定レートによって元本に入っていくということになりますので、この2項が実際に問題になりますのは、元利金を支払ってしまったあとになって、実はあの支払額は限度を超えた率を支払ったものであるということを理由として、債務者の方から返還請求をすることができるかという場合に、実益のある規定なんでありまして」と述べ、また「元本も残っていない場合に過払いがあるということで返還の請求ができるかという問題ですと、これは第1条の第2項で返還の請求はできないということはいたしたのであります」と述べている(第19回衆議院法務委員会議事録第28号〔昭和29・3・26〕5、9頁(4))。そして、法務委員会において本条項原案を修正することなく採用したのだから(第19回衆議院法務委員会議事録第47号〔昭和29・4・28〕1頁、第19回参議院法務委員会議事録第29号〔昭和29・5・1〕2頁)、右の本条項原案作成者の「意思」が法務委員会の「意思」であり、それが、前述のように国会の「意思」(立法者意思)となったのである。

2、したがって、本条項の立法者意思は元本充当説を前提として元本債権(利息債権も)が存在しなくなった後に本条項が適用されるというものであった。ここで忘れてはならない一大法原則がある。それは“特別法は一般法に優先する”(5)という法原則である。したがって、特別法たる本条項は一般法たる民法第703条に優先するのである(6)

3、もっとも、最大判の目指したところは経済的弱者たる債務者の財産権保護ということである。ならば、“率直”に、そのことを表明すればよかったのである(7)。すなわち、本条項は債務者の財産権を侵害するから憲法第29条第1項に違反し違憲である(憲法第81条)といえばよいのである(もちろん、まず当事者が主張すべきである)(8)

 そうすれば「反制定法的解釈」とは「民法典その他の制定民法のある条文の規定内容に反するが形式上その条文と直接には関係のない形で論理的に成立可能な構成を与えられた解釈」といった迂回で難解な定義は不要であって、「制定法に反した解釈」すなわち「制定法の適用を否定する解釈」という簡明な定義になる(9)

第4 結びに代えて

 以上の最大判に見るように疑義のある法理が展開されたのは、実務家の責任ではない。それは、有効な解釈提案をしてこなかった日本民法学界の責任である。「わが国の法解釈学は」「何でも言えるから何でもある。何でもいえばそれは一応解釈論として成り立つ」、正に「融通無碍法学」であると“揶揄”されてから(10)早や40年、未だに法解釈方法論は確立されておらず(11)、特に立法者意思についての共通の認識もない。

 今や債権法大改正が行われ、新たな解釈論が展開されるべき時、早急に解釈方法論確立の作業が行われることを切望する。

(注)

(1)この点については、亀本洋『法哲学』(2011年、成文堂)34頁に優れた分析がある。

(2)最大判昭和37年を受けて開かれた座談会において石本雅男(元本充当説)が“元本債権がなくなったが超過利息分として払った分が残っているとき”こそ“本条項が問題となる”としている(“債権者に帰属するのも仕方ないか”)民商47・2・264。

(3)この法解釈は次のように説明されている。①超過利息債務は無効だから「不存在」②債務不存在だから利息としての指定(民法第488条)は無意味③指定がないのと同じだから民法第491条による法定充当④制限内利息と元本に充当しても、なお過払いがあると①で超過利息債務は不存在だから「利息の過払い」ではない⑤本条項は適用されないから返還請求できる(高橋眞『判例分析による民法解釈入門』〔2018年、成文堂〕41頁)。なお、不法原因給付(民法第708条)という点からいえば、債務者の方が不法性は“きわめて微弱”といえよう(窪田充見『新注釈民法15 債権8』〔2017年、有斐閣〕222頁〔川角由和〕)。

(4)横田喜三郎裁判官が熱く語るところである(民集16・7・1347)。

(5)我妻栄『新訂 民法総則(民法講義Ⅰ)』(1965年、岩波書店)2頁、四宮和夫=能見善久『民法総則 第9版』(2018年、弘文堂)5頁。

(6)そのような法理は不可能であるという批判に対しては、即死者にも慰謝料を認める法理のあることをもって反論しておこう。さらに、最大判の法理では「その支払にあたり、充当に関して特段の指定がされないかぎり」という条件を付けなければならない点で疑問の生じる事例がある(最判昭和44・11・25民集23・11・2137)。

(7)谷口知平によれば、佐々木惣一は「法令というものはそのまま率直に理解していく、どちらかといえば、文字解釈をやっていくのがよい、それが個人の自由を保護することになる」というような考えであったとする(“牧野英一の「自由法論」に対立する考え”)(民商47・2・241)。ここにいう「文字解釈」とは立法者意思に沿った解釈と考えるべきである。

(8)憲法は法形式の中で最も強固な法であるから、憲法規定(例えば、憲法第41条)を制限し得るのは憲法規定(例えば、憲法第81条、同法第99条)のみである。それは、丁度、ダイヤモンドを研磨できるのはダイヤモンドだけであるのに類似する。

(9)contra legem=“法律(の文言)に反して”(山田晟 『ドイツ法律用語辞典[改訂増補版]』(1993年、大学書林)137頁。

(10)淡路剛久ほか「これからの民法学(座談会)」ジュリ655(1978年)123頁(淡路剛久発言)。

(11)多くの場合、法解釈は価値判断であるとしながら判断基準は不明確であり、○○解釈というのがある、××解釈というのがあると羅列するのみで、立法者意思については殆ど言及されていないのが現状である。

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