HOME > 書斎の窓
書斎の窓

コラム


マーケティング・サイエンスの過去・現在・未来
――JIMS第100回研究大会を終えて

日本マーケティング・サイエンス学会代表理事 慶應義塾大学教授 井上哲浩〔Inoue Akihiro〕

日本マーケティング・サイエンス学会設立

 日本マーケティング・サイエンス学会(以下、JIMS:Japan Institute of Marketing Science)は、1966年10月8日土曜日午後13時、京都国際会館にて設立された。その設立の趣旨は、以下である(字数制約上、割愛し抜粋。全文は、http://www.jims.gr.jp/info1.php)。

 近代科学は、その領域・思想・形態において、はげしい革新の波を受けつつある。……2つ以上の学問分野からの混成的接近という点である。……20世紀全般には社会心理学の展開……20世紀後半の……経営科学および情報科学があり、さらに……行動科学をあげることができる。

 この混成的接近の基盤は、異なった学問分野における概念および方法論の間の類似性にある。……経済学、経営学、統計学、社会学、心理学等の最近におけるいちじるしい進歩を反映して、各種の研究成果が累積され、科学としての新たなる段階に到達し……情報、意思決定、行動、システム等の諸概念は、……マーケティング論の新しい展開においても、積極的な貢献を果たしている。

 ……現代マーケティング論の飛躍的な発展をはかるためには、……経営科学、行動科学、情報科学のような現在急速に進歩しつつある新しい学問分野との積極的連繋をはかり、いわゆる多分野的な接近による効果を期待しなければならない。

 一方、現代社会における流通、消費の高度化と複雑化とは、……総合的、システム的接近を行うことを要請し……大規模な実験・調査を基盤とする科学的研究を主軸とするものでなければならない。それによってはじめて、今日の複雑なマーケティング領域における積極的理論の構築を期待することができるのである。

 このような事態にかんがみ、われわれはここにマーケティング理論の研究者およびそれに積極的に関心を持つ関連諸分野の研究者からなる研究組織を編成し、明確な目的意識と方法論とをもって、マーケティング・サイエンスの確立をはかることを意図して、日本マーケティング・サイエンス学会を設立した。この学会は、高度に組織化された研究チームによるプロジェクト研究を中心にした1つの研究機関としての役割を果たすことを期するものである。

 

 JIMSの誕生は、この設立趣旨の説明とともに、翌日10月9日の『日刊工業新聞』にも掲載された(図1)。そして、2016年11月26日土曜日〜27日日曜日、ホテル阪急エキスポパーク・大阪大学中之島センターにおいて、JIMS第100回研究大会が開催された(図2)。

図1 JIMS第1回総会

図2 JIMS第100回研究大会

JIMS第100回研究大会

 第100回研究大会では、JIMS100特別セッション(セッションチェアに東京大学阿部誠教授)を開催し、JIMS関連学会あるいは学会誌編集長によるパネルを企画した。招聘者は、行動経済学会長の大垣昌夫教授(慶應義塾大学)、日本オペレーションズ・リサーチ学会和文誌編集長の猿渡康文教授(筑波大学)、日本消費者行動研究学会長の竹村和久教授(早稲田大学)、日本商業学会『流通研究』編集長の新倉貴士教授(法政大学)、日本行動計量学会和文誌編集長の星野崇宏教授(慶應義塾大学)である。

 このパネルでは、「マーケティング・サイエンスの学際的視点」をテーマとし、学際的共同研究の推進と学会のディシプリン、実務界のトレンドとの関わり方、各学会における最近のホットトピック、マーケティング・サイエンスの領域から各学会(雑誌)に対して期待される研究トピックや問題、そしてマーケティング分野からの投稿で起こりがちな問題点について意見交換が行われた。

 その後に開催されたJIMS100記念パーティでは、歴代の代表理事ならびに編集委員長が紹介され、内、甲南大学名誉教授の山中均之先生、関西学院大学名誉教授の中西正雄先生、丸の内ブランドフォーラムの片平秀貴先生、学習院大学教授の杉田善弘先生、宮城学院女子大学教授で大阪大学名誉教授の中島望先生、法政大学教授の小川孔輔先生から談話あるいはビデオ・メッセージを頂戴した。

 そして、INFORMS Society of Marketing ScienceのPresidentであるカリフォルニア大学ロスアンゼルス校Distinguished Research ProfessorのHanssens教授をはじめ、同UCLAのCooper名誉教授、Maryland大学Distinguished University ProfessorのWedel教授、Missouri大学Sam M. Walton Distinguished ProfessorのMantrala教授、New York市立大学の高田教授といったJIMSとゆかりのある海外の著名研究者からビデオ・メッセージを頂戴した。

 現編集委員長の阿部誠先生の乾杯でJIMS100記念パーティは終宴し、そのまま通常の学会懇親会へとながれ、当初の予定を大幅に延長し大盛会のうちにすべての会を終え、翌日の通常の研究大会へと続いていった。

第100回を迎えての新プロジェクト

 第100回研究大会を迎えるにあたり、JIMSはいくつかの新たなプロジェクトを2015年から始動した。第1は、研究能力の強化である。特定のテーマに関する文献レビューを行い、研究大会で報告し、レビュー論文として投稿するレビュー・ワークショップを開始した(消費者行動のマーケティング・サイエンスへの応用、機械学習手法のマーケティングの理論・概念への応用に関する研究のレビュー、IOと行動経済学のマーケティング・サイエンスへの貢献、マーケティングのためのデータ活用、新メディア環境におけるマーケティング革新の研究、顧客関係管理 Customer Relationship Management〔第100回研究大会報告済み〕、Diffusion Review〔第99回研究大会報告済み、『マーケティング・サイエンス』24巻1号掲載〕である)。

 第2は、国際化である。2016年6月11日〜12日に東北大学にて開催された第99回研究大会において、トップ・ジャーナルの1つであるJournal of Retailingの編集長である上述のMissouri大学Mantrala教授を招聘し、最先端のご研究を報告いただいたのち、Mantrala教授と、JIMSの研究委員と研究担当理事、そしてNew York市立大学の高田教授で、Meet the Editor and Research Agenda in Marketing Scienceのパネル討議を行った。さらに、研究奨励賞受賞者の海外報告を奨励するための海外発表助成金を創設した。また従来日本語に限定されていたJIMS研究大会での報告を、英語でも可能とした。

 第3は、国内関連分野との連携強化である。JIMS100特別セッションとして行われた「マーケティング・サイエンスの学際的視点」パネルは、まさにこれに関するものである。

 第4は、若いマーケティング・サイエンス研究者の育成ならびにJIMSへのコミットメントの強化である。第97回研究大会まで6名で構成されていた研究委員を11名に拡大し、若いマーケティング・サイエンス研究者を任用した。また研究奨励賞の副賞を増額し、授賞対象となる若手研究者の研究支援を強化している。

 最後に第5として、JIMSホームページにおける特設ページの設置や、学会誌『マーケティング・サイエンス』のインデックスの掲載などにより、学会としてのJIMSの社会性を向上させるための広報ならびに情報提供の強化を行っている。

学会としてのJIMS

 JIMSの特徴は、3つある。第1に、混成的多分野的接近である。JIMS設立同日に開催された第1回総会において、代表理事に京都大学教授の田杉競先生が選出された。理事として、神戸大学教授の荒川祐吉先生、大阪大学教授の大澤豊先生、大阪大学教授の横山保先生、そして電通マーケティング局長の安藤和雄氏が選出された。初代代表理事である田杉先生の主研究分野は、戦前の中小企業論、戦後の人間関係論、組織論など(飯野春樹 〔1990年〕『經濟論叢』145, 3, 423-426)であるが、理事の荒川先生、大澤先生、安藤氏はマーケティングを主分野とされ、横山先生の主研究分野は、数理経済学、オペレーションズ・リサーチ、経営システムなど(西〔2005年〕『阪南論集 社会科学編』40, 2, 83-97)である。設立当初の代表理事そして理事の構成からも、混成的多分野的接近という特徴がうかがうことができる。

 JIMSの特徴の2つ目は、研究チームによるプロジェクト研究を中心にしている点である。設立当初の研究部会数は、残念ながら定かではない。筆者の手元にある第50回研究大会プログラム(1991年12月6日金曜日〜7日土曜日@横浜国立大学)によれば、「マーケティング情報の計量分析研究部会」「買物行動に関する計量分析研究部会」「マーケティング・モデルの研究部会」「サーベイ・データ基本問題の検討研究部会」「消費者の情報取得・統合過程についての研究部会」「広告効果の実証的研究部会」「マーケティング・シミュレーションモデルの研究部会」の7つのプロジェクトが存在し、各研究部会の報告は1時間であった。しかしながら1時間で終わることはなかった、というのが小生の記憶である。

 現在では、「消費者・市場反応の科学的研究部会」 「市場環境変数を用いた売上推定に関する研究部会」「マーケティングにおけるイノベーションとコミュニケーションの研究部会」「社会問題とコミュニケーション研究部会」「コンテンツ&キャラクター・マーケティング研究部会」など21の研究部会が活発な議論を行っている(全研究部会リストはホームページを参照されたい)。JIMS100記念パーティの席上で、前代表理事の片平先生が語られたように、JIMSの全員参加という学会の哲学は、この21の研究部会に受け継がれている。

 JIMSの3つ目の特徴は、学会誌に代表される研究水準の高さにある。1966年発足の翌年に第1回研究大会を開催(1978年以降は年2回開催)し、各研究大会での報告は、学会誌『マーケティング・サイエンス』に掲載され、通算38巻(1991年12月)まで発刊された。1992年からは、研究大会での報告とは独立した査読誌として『マーケティング・サイエンス』が発刊され、これは日本のマーケティング関連学会では最初の査読誌である。なお査読誌化を推進したのが、当時の代表理事である大澤豊先生である。『マーケティング・サイエンス』は、現在、電子ジャーナルとして公開され、J-STAGEでも閲覧可能となっている。

 この査読誌以外にも、多くのマーケティング・サイエンス関連の書籍がJIMS会員により出版されている。JIMS発足以前の山中均之(1964年)『マーケティング・モデル』、大澤豊(1972年)『マーケティング科学と意思決定』、荒川祐吉(1978年)『マーケティング・サイエンスの系譜』、中西正雄(1983年)『小売吸引力の理論と測定』、片平秀貴(1987年)『マーケティング・サイエンス』、そして最近では佐藤忠彦(2015年)『マーケティングの統計モデル』など多数ある。またトップ・ジャーナルであるJournal of Marketing ResearchMarketing ScienceなどにもJIMS会員の研究は多く掲載されており、他のマーケティングの学会と比較して、群を抜いている。

 

 JIMSは、設立趣旨、歴史、その特徴などを大切にしつつ、さらなるマーケティング・サイエンスの確立そして発展に貢献していく。これからも、皆様の厚きご指導ご鞭撻を賜りたい。

注:本稿は、学会を代表する立場としてのものではなく、個人としてのものである点にご留意いただきたい。

ページの先頭へ
Copyright©YUHIKAKU PUBLISHING CO.,LTD. All Rights Reserved. 2016