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コラム


法の解釈(下)――言語表明

京都大学名誉教授  前田達明〔Maeda Tatsuaki〕

第1 法的根拠

1、以上のような価値判断を言語によって表明することが法的に求められている(民訴法第253条第1項第3号)。それは、憲法第32条が、国民に“裁判を受ける権利”を認めており、そして、そこで求められるのは、「盟神深湯」のような裁判ではなく、論理的に“筋の通った”言語表明による裁判だからである(民訴法第312条第1項、同第2項第6号、同第3項、同法第318条、同法第338条第1項第9号)。

 さらに、憲法第82条第1項は「公開法廷」での「対審及び判決」を求めている。これは、当事者と裁判所の言語による“意思表明”を国民全体にも理解させて、その批判に耐え得るものとするためである。したがって、“良い法律論(1)”こそ憲法第82条第1項の求めるところである。

2、そこで、ここでは、この“良い法律論”、すなわち、“筋の通った”言語表明とは、どのようなものかを検討する。それには、まず、法文の内部における解釈と法文の外部における解釈が存在する。

第2 法文内解釈

1、「文言(文理)解釈」は、“立法者意思通り”に適用範囲を確定する解釈で、先の「桃中軒雲右衛門事件」や憲法第9条において“自衛のための”軍隊も持たない、という解釈である。

2、「宣言的解釈(2)」とは、立法者意思が不明(3)かあるいは抽象的(4)であるとき、裁判所が具体的事件において、「法目的」や「歴史的変化」(例、判例変更)をもって、それを明確化あるいは具体化して法文の意味内容を“宣言”することである。例えば、民法第709条の「過失」について、立法者は“為すべきことを為さぬ”、“為し得べからざる事を為す”、“為すべきことを為すにあたって其方法が当を得ない”と説明している(5)。そして、公害(6)、製造物責任(7)、医療事故(8)などの具体的事件において“為すべきこと”、“為すべきでないこと”の具体的内容を“宣言”して「過失」を認定している。

3、「拡大(拡張)解釈」は、“言語の意味が許容する範囲内”で「法目的」や「歴史的変化」をもって、立法者意思よりも広い適用範囲を確定する解釈である。例えば、凍結保存した夫の精子を用いて妻が夫の死後に人工授精し出産したとき、その「子」は認知の訴えができるか。民法第787条(9)の「子」の解釈である。第1審は否定したが、第2審は肯定し(「法目的」あるいは「歴史的変化」)、第3審は否定した(「人工授精子事件(10)」)。このときの第2審は同条の「子」を拡大解釈したのである。

4、「縮小解釈」は、「法目的」や「歴史的変化」をもって立法者意思よりも狭く適用範囲を確定する解釈である。例えば、憲法第9条第2項の「戦力」は“自衛のための”軍隊には適用されない(「歴史的変化」による縮小解釈)とか、民法第715条第1項本文(11)の「第三者」について、「重過失ある」第三者には適用されないと解釈することである(12)。これは民法第1条第2項の「信義則(13)」という「法目的」によって同条の適用範囲を縮小した解釈なのである(14)

第3 法文外解釈

1、「反対解釈」は、当該法文を「文言解釈」して、それに当てはまらないところは「法の空白」として当該法文を適用しない、と解釈することである。例えば、「桃中軒雲右衛門事件」である。他にも、民法第737条は「未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない」と定めており、他方、成年の子の婚姻について父母の同意を要するか否かの明文規定はないが、民法第737条の反対解釈として、同意は不要と解釈するのである(15)

2、「類推解釈」は、法文が予定している事件とは異なるが、その「法目的」から観て、事件の“類似性”により、“類似”した法律効果を認めるべき場合に、言語の意味が許容する範囲を越えて適用範囲を定める解釈である。例えば、「義姉」にとって「義妹」は「子」ではないが、具体的事件において、民法第711条の「子」に類似するものとして、妻の死につき夫の妹に対して、同条を“類推”適用し遺族固有の慰謝料を認めるといった場合である(16)。拡大解釈との差は先の「人工授精子事件」と比較すれば理解し得る。

3、「勿論解釈」は、β事件に適用し得る法文は存在しないが、β事件と類似したα事件に適用し得る法文が存在し、しかも、より強い理由で、β事件にも適用すべきという解釈である(17)。例えば、憲法第29条第3項は「財産権」侵害について「補償」しているから、財産権よりも重要な生命自体の侵害については「勿論解釈」によって憲法第29条第3項が適用されるという解釈である(18)。「勿論解釈」は「類推解釈」の「一亜種(19)」であるが、刑法解釈において有益である。すなわち、刑法解釈においては“類推解釈禁止”であるが(20)“勿論解釈”は許されるというのである(21)。例えば、適法な時間外労働に割増賃金を支払わないときの罰則規定(労基法第119条第1号(22))を違法な時間外労働に割増賃金を支払わなかった場合にも適用するというものである(23)

4、他に「法意(解釈)適用」という類型を主張する見解がある(24)。しかし、具体例において、「帰責性の小さい(外観作出に自ら積極的に関与していない)」事件が「類推解釈」であり(25)、「法意解釈」の方が「帰責性のより大きい(外観作出に自ら関与している)」事件であり(26)、「類推解釈」よりも法文から遠い「法意解釈」が、法文により近い具体例に適用されるのは矛盾である。しかも「法意」による解釈とは拡大解釈も縮小解釈も類推解釈も、そうである。したがって、法意解釈は、論理解釈といった用語などと同様に議論を混乱させるから、不要の概念というべきである。そして、右の「不動産管理者事件」のような場合も類推解釈で十分である。

第4 反制定法的解釈(contra legem)

1、「反制定法的解釈」は、法文の法的拘束力の全部または一部を否定して不適用とする解釈である(27)。その第1は、憲法違反(憲法第81条)である。これには2つの類型があって、まず、①「明示的憲法違反」で、例えば、非嫡出子の相続分が嫡出子の半分と定めた民法第900条第4号但書旧前段(28)は憲法第14条第1項に違反して無効である、という判決がある(29)。次に、②「実質的憲法違反」と呼ぶべきもので、例えば、利息制限法に違反して超過利息を支払ったとき超過部分の返還請求はできなかった(利息制限法第1条旧第2項、同法第4条旧第2項(30))。曲折を経て(31)、裁判所は超過分が元本に充当され完済したときは、残っている超過分は返還請求できる、と判決した(32)。その理由は①元本が不存在だと利息は生じない、②利息がなければ、それを不知で給付したのだから不当利得(民法第703条(33))で返還請求できる、③右の利息制限法の法文は元本の存在を前提としているのだから不存在のときは適用がない、というのである。しかし、右の法文は“高利貸し”の“うま味”を残して金融の円滑化をはかろうとしたもので、この解釈は「空文化」であり「事実上解釈による立法」とされている(34)。そもそも、借主が“任意で(自由意思で)”超過利息を払うわけがなく、貸主が借主の経済的困窮に付け込んだのだから、借主の経済活動における「自由」(憲法第13条)を侵害するものとして実質的には違憲判断である、と解すべきである。

2、第2のものとして、「立法者の明白な誤解」がある場合である。例えば、民法第513条第2項旧後段は手形法理論(「無因性」)についての立法者の明白な誤解にもとづくもので、解釈上「空文化」されていて(不適用)、現在は削除されている(35)

 このような「反制定法的解釈」は、司法権(憲法第76条)による立法権(憲法第41条)の制約であり、「三権分立」の根幹にかかわることである。したがって、このような解釈、特に「実質的憲法違反」や立法者の誤解の場合は慎重でなければならない。そこで、①その法文を適用すれば常に不当な結論(憲法がより強く保護しようとしている利益を保護できない)になり、②したがって本来は立法者が改廃の処置をすべきであるのに放置(立法者の憲法第99条違反)しており、③そこで司法府が緊急避難的処置(立法者の代行)として、その法文を「空文化」し得る、と考えるべきである(36)

第5 結びに代えて

1、戦前は言語表明の側面が中心課題であったが、戦後になって、価値判断の側面が強調されるようになった(利益衡量論は、その最たるものである)。しかし、立法者意思説(憲法第41条)を否定したために、この側面の内容は不鮮明なものとなり、さらに、両側面の関係をも不透明なものとした。加えて、憲法第76条第3項があるにも関わらず、それぞれの法的根拠の解明は、ほとんど行われなかった。

2、そこで、立法者意思(37)を、両側面の中心に据えることによって、両側面の内容と両側面の関係を明確にし、加えて、それぞれの法的根拠を明示することによって、法解釈方法論の視界を開くことができた、と考える。

(注)

(1)平井宜雄『著作集1 法律学基礎論の研究』(2010年。有斐閣)170頁。

(2)笹倉秀夫『法解釈講義』(2009年。東大出版会)44頁。もっとも、そこに揚げられている「買戻し特約付売買契約(民法第579条)事件」(平成18〈2006〉・2・7民集60・2・480)は、民法第1条第2、3項による契約意思の「縮小解釈」(「担保目的」であるから清算義務があり〝文言通りの〟丸取りは許さない)の例である(最判昭和42〈1967〉・11・16民集21・9・2436の「代物弁済予約事件」も同様である)。なお、「契約」は当事者間の〝法律〟である(仏民第1134条、ボアソナアド民法財産編第327条)。前田達明『民法学の展開』(2012年。成文堂)18頁。

(3)前田達明「法解釈方法論序説」民商(2012)146巻3号293頁。

(4)いわゆる「規範的要件」と呼ばれるものである。前田達明・前掲書68頁。

(5)法典調査会民法議事速記録40巻145丁。

(6)大判大正5(1916)・12・20民録22・2474(「大阪アルカリ事件」)、熊本地判昭和48(1973)・3・20判時696・15(「熊本水俣病事件」)。

(7)東京地判昭和53(1998)・8・3判時899・48(「キノホルム事件」)。

(8)最判昭和36(1961)・2・16民集15・2・244(「梅毒輸血事件」)。

(9)民法第787条は「子……は、認知の訴えを提起することができる」と定めている。

(10)第1審は松山地判平成15(2003)・11・12判時1840・85、第2審は高松高判平成16(2004)・7・16判時1868・69、第3審は最判平成18(2006)・9・4民集60・7・2563である。

(11)民法第715条第1項本文は「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めている。

(12)最判昭和42(1967)・11・2民集21・9・2278(「支店長手形割引事件」)。前田達明『判例不法行為法』(1978年。青林書院新社)129頁。

(13)四宮和夫『不法行為』(1985年。青林書院)698頁。

(14)「目的論的制限解釈」(前田達明・前掲論文(注3)277頁)は「縮小解釈」として扱うのが妥当であろう。

(15)林修三『法令解釈の常識』(1975年。日本評論社)125頁。

(16)最判昭和49(1974)・12・17民集28・10・2040(「義妹慰謝料請求事件」)。

(17)笹倉秀夫・前掲書14、96頁。

(18)大阪地判昭和62(1987)・9・30判タ649・147(「大阪予防接種事件」)。もっとも、予防接種事故に憲法第29条第3項の直接適用を認めることには否定的な判例が多く、むしろ公務員の「過失」を認めて国賠法第1条第1項の適用を認める方向にある(東京高判平成4〈1992〉・12・18判時807・78など)。

(19)林修三・前掲書134頁。

(20)判例は〝許容される拡大解釈”の範囲を越えて適用を認めることが多い(例えば、最判平成8〈1996〉・2・8刑集50・2・221〈「マガモ捕獲事件」〉)。

(21)笹倉秀夫・前掲書96頁。

(22)労基法第119条第1号は、同法第37条(時間外労働の割増賃金)違反について罰金を科すことを定めている。

(23)最判昭和35(1969)・7・14刑集14・9・1139(「超過勤務事件」)。

(24)佐久間毅『民法の基礎Ⅰ 第3版』(2008年。有斐閣)136頁。なお、笹倉秀夫・前掲書143頁(「比附」については別稿に譲る)。

(25)最判昭和45(1970)・6・2民集24・6・465(「融資協力事件」)。

(26)最判平成18(2006)・2・23民集60・2・546(「不動産管理者事件」)。

(27)いわゆる「変更解釈」である(林修三・前掲書120頁)。

(28)民法第900条第4号但書旧前段は「ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし」と定めていた(平成25〈2013〉年法律第94号が2013年12月11日に公布施行されて削除された)。

(29)最大決平成25(2013)・9・4民集67・6・1320(「非嫡出子相続事件」)(「歴史的変化」)。

なお、裁判所法第10条は憲法違反事件については大法廷で裁判すべきことを定めている。ちなみに、日本国憲法施行(昭和22〈1947〉・5・3)後に、「法律」が違憲であるとされたのは次の10件である。

  ① 最大判昭和48(1973)・4・4刑集27・3・265(「尊属殺事件」)。

  ② 最大判昭和50(1975)・4・30民集29・4・572(「薬事法事件」)。

  ③ 最大判昭和51(1976)・4・14民集30・3・223(「第一公職選挙法事件」)。

  ④ 最大判昭和60(1985)・7・17民集39・5・1100(「第二公職選挙法事件」)。

  ⑤ 最大判昭和62(1987)・4・22民集41・3・408(「森林法事件」)。

  ⑥ 最大判平成14(2002)・9・11民集56・7・1439(「郵便法事件」)。

  ⑦ 最大判平成17(2005)・9・14民集59・7・2089(「第三公職選挙法事件」)。

  ⑧ 最大判平成20(2008)・6・4民集62・6・1367(「国籍法事件」)

  ⑨ 最大決平成25(2013)・9・4民集67・6・1320(「非嫡出子相続分事件」)。

  ⑩ 最大判平成27(2015)・12・16民集69・8・2427(「再婚禁止期間事件」)。

(30)利息制限法第1条旧第2項は「債務者は、前項の超過部分を任意に支払ったときは、同項の規定に関わらず、その返還を請求できない」、同法第4条旧第2項は「第1条第2項の規定は、債務者が前項の超過部分を任意に支払った場合に準用する」と定めていた。

(31)亀本洋『法哲学』(2011年。成文堂)34頁に優れた分析がある。

(32)最大判昭和43(1968)・11・13民集22・12・2526(「利息制限法事件」)。

(33) 民法第703条は「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者……は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」と定めている。

(34) 穴戸常寿ほか『法解釈入門』(2013年。有斐閣)216頁。

(35) 民法第513条第2項旧後段は「債務ノ履行ニ代ヘテ為替手形ヲ発行スル亦同シ」と定めていた(すなわち旧債務は「更改」によって「消滅」する)。平成16(2004)年法律第147号で削除された。

(36)広中俊雄『民法解釈方法に関する十二講』(1997年。有斐閣)106頁。

(37)したがって、法解釈においても、まずは、「立法者意思」の究明(「事実」の究明)を行うべきであろう。

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