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書斎の窓

連載

スポーツ法とEU法

第11回 EU市民法とプロ・サッカー

神戸大学理事・副学長・大学院法学研究科教授 井上典之〔Inoue Noriyuki〕

地域密着型のプロ・サッカー

 EU型CSRとの関係で問題となり得る弱体化したクラブへの企業の投資の可否は、いわゆるフランチャイズ制というヨーロッパ・プロ・サッカーの組織的特徴が重要なキーワードになる。このフランチャイズ制という特徴は、欧州サッカー連盟(UEFA)によって規定される、プロ・アマを問わず欧州サッカー全体の重要な組織原理の1つとされている。欧州では、このUEFAのルールに則り、各国サッカー協会の下で展開されるリーグ戦を「ホームタウン制」の下で認定される各地域のクラブによって展開しなければならない。そして、通常の場合、1つの「ホームタウン」の下に1つのクラブが認定され、そのクラブが「ホームタウン」にあるスタジアムで試合を行うことになる(例外的にドイツ・ミュンヘンやハンブルク、スペイン・マドリード、連合王国・ロンドンには複数のクラブが認定されているが、それぞれのクラブが「ホームタウン」とする地域は重なりながらも異なっている)。そのために、クラブは地元市民にとっての「おらがチーム」としての特徴を強く打ち出し、サポーターは地元市民によって編成され、また、地元を離れた市民にとっても故郷のチームとしての愛着を抱き続ける存在となる。

 サッカーの場合の「ホームタウン制」は、プロ野球の「フランチャイズ制(いわゆる地域保護権)」とは異なり、また、一般企業におけるそれ(商標・商号の利用権や自社商品の販売権など)とも異なり、必ずしも興行権・営業権やその他の経済的権利と結びつくものではない。サッカーの試合がしばしば「ホーム・アンド・アウェー方式」で行われるといわれるのも、この「ホームタウン制」が基礎になっている(これに対して、プロ野球の場合、通常、フランチャイズ以外のチームのことを「ビジター」という呼び方をし、ホーム・チームの興行権の下での試合の「客」という扱いがなされている)。

 欧州サッカーの「ホームタウン制」は、クラブがその地域社会と密着して活動しているという意味で用いられる(日本のJリーグもそれをモデルに、「クラブと地域社会が一体となって実現する、スポーツが生活に溶け込み、人々が心身の健康と生活の楽しみを享受することができる町」と「ホームタウン」を定義づけている)。CSRと関連づければ、これは、株式会社としてのクラブがサッカーというスポーツを「ホームタウン」に提供することで、地域社会の持続的発展に貢献する活動を行うという側面が強調されることになる。同時に、企業は、株主あるいはスポンサーとして、そのようなクラブに投資することで、やはり地域社会の発展に貢献する活動を展開する(この点、特にドイツでは、多くの場合、地元企業が地元クラブの株主やスポンサーになる傾向が強い)。その意味で、サッカーは、グローバルなスポーツであると同時に、地域社会と結びついた地域密着型の活動としての特徴をも併せ持つことになる。

EU市民法から見た地域密着型の問題

 しかし、「ホームタウン制」は、地域社会の持続的発展への貢献という観点から、クラブの試合がその大部分を「ホームタウン」で開催するよう義務づけている。クラブは、その結果、リーグ戦開幕前のオープン試合やUEFA主催のカップ戦で試合会場を指定されている場合などを除いては、その興行を「ホームタウン」において開催しなければならない。プロ・サッカーの場合、まさに商品としての興行を「ホームタウン」で行わなければならないのである。そして、UEFAによって規定される「ホームタウン制」が、1つの地域に1つのクラブを原則とすることから、実は、ここにEU市民法から見た場合の1つの重大な問題が提起されることになる。

 プロ・サッカーの「ホームタウン制」は、確かに経済的権利と直接リンクするものではないとしても、地域密着型で展開される結果、「ホームタウン」でのサッカーの興行という経済的活動を1つのクラブに独占させることになる。同時に、当該地域において1つのクラブという形で、その地域の市場を占有させることにもなる。ここに、EU域内では、欧州連合運営条約第7編第1章の「競争に関する法規」の101条1項の「競争阻害行為」の禁止、102条の「支配的地位の濫用」が問題とされる。すなわち、競争制限的な「ホームタウン制」を各国リーグやクラブに課すUEFAのルールはEU域内市場の競争を妨害・制限・歪曲する行為になるのではないか、クラブによる興行のある種の地域独占権はEU域内市場の主要な部分における支配的地位の濫用に当たるのではないかという、EU市民法上の問題が提起されるのであった。

 プロ・サッカーが営利を追求する1つの経済的活動である限り、それは、当然にEUの経済的規律に関する市民法に服する。そのために、プロ・サッカーの経済的側面に焦点をあてれば、通常の企業活動と同じく、自由かつ公正な競争秩序の維持のためのEUおよび加盟各国の競争法の下に服することはいうまでもない。ただ、EU競争法は、アメリカの競争法のように、自由競争が経済的発展へと導くということを直接的な目的にするものではなく、直接的目的をEU域内市場の統合からEU域内の経済的発展へと導く点に置いている。すなわち、加盟国内の市場をEU全域へと拡大するための自由な通商の確保を目的として、EU競争法は、欧州委員会に直接執行の権限が付与されているのである(欧州連合運営条約105条)。ただ近年は、加盟各国の競争当局や裁判所も執行権限を分有することになり、UEFAのルールといったEU全域にわたる問題は欧州委員会で、UEFAのルールに基づく加盟各国リーグ内の問題は当該国家の競争当局で処理されることになる。

「ホームタウン制」は反競争的政策か?

 プロ・サッカー・リーグとして展開される欧州サッカーにおける、1つの地域において1つのクラブにのみ試合の開催を認める「ホームタウン制」は、EU競争法の下での反競争的ルール・政策になるのか。確かに、1つの「ホームタウン」において複数のクラブの存在を認めない点で、新規参入の排除と既存の認定クラブの市場に対する支配的地位が確認できる。そして、UEFAのルールに従わないようなリーグの加盟を認めない点で、競争阻害的要因も確認できる。その点だけをとらえれば、「ホームタウン制」を規定するUEFAのルールや、それに基づいて運営されるEU加盟各国のリーグおよび「ホームタウン」にある認定クラブは、EU競争法に違反するものとなってしまう。また、プロ・リーグだけではなく、アマチュア・リーグであっても、その存続を維持するために加盟国が補助金の形で特定のサッカー・リーグあるいはクラブの援助を行えば、他のスポーツやクラブ、文化的活動に対する反競争的政策としてとらえられる可能性も浮上する(EUでは、加盟国の補助金政策も反競争的意味合いを持つ場合には競争法の規制に服する)。

 しかし、「ホームタウン制」は、前述の通り、地域社会の持続的発展に貢献する活動としての側面も併せ持っている。1つの「ホームタウン」で複数のクラブの共存を認め、互いに競い合わせることで、本当にEUという欧州全体の持続的発展の基礎になる地域社会の発展を見込めるのかどうかもここでは同時に検討しなければならない。1つの「ホームタウン」に複数のクラブの存在を認めれば、サポーター同士のいがみ合いを引き起こしその地域社会の分裂を惹起しないか、あるいは特定のクラブにのみサポーターがつくことで他のクラブの存続を維持できないことにならないか、あるいは共倒れを惹起して当該地域からサッカーというスポーツが消えてしまわないか、などの様々な問題が提起され、議論されることになる。

 また同時に、プロ・スポーツはサッカーに限定されるわけではなく、欧州では他の競技スポーツもプロ化されており(この点はEU加盟国すべてに共通しているわけではないが、サッカー以外にもホッケーやバスケットボール、バレーボールあるいはクリケットなどがプロ化されている)、スポーツを種目別にとらえることなくプロ・スポーツ興行という広い視点で見れば、競争相手は存在するということも1つの考慮要素となり得る。ただ、欧州におけるサッカーというスポーツの占める地位に鑑みれば、この点は、あまり重視されてはいないようである。むしろ、サッカーという欧州に共通の文化的公共財にEU市民およびEUそのものの統合を促進する触媒としての役割を期待するEU当局からすれば、EU域内でのサッカーの衰退を惹起するような政策の展開には消極的にならざるを得ず、競争法の適用によってそのような方向へと舵を切ることには躊躇を覚えることになる。そのために、経済的側面だけでなく、サッカーの持つもう1つの特徴、すなわち公共性の側面からの独自性の検討が必要とされる。

サッカーに固有のルールとしての 「ホームタウン制」

 欧州に共通の文化的公共財として、サッカーというスポーツの持続的発展を維持し、その公共的活動を広く普及させる目的で設置されたUEFAは、EUの組織法的視点で見れば1つの私的団体である。その点で、UEFAは、1つの正当な目的の下に結成された団体として、EUに対して結社の自由を主張し得る基本権主体としての地位を有する(ヨーロッパ人権条約11条およびEU基本権憲章12条)。EUは、その競争法を執行しなければならないと同時に、EUの機関そのものは基本権侵害行為を禁止されている。したがって、もしUEFAのルールが結社としての団体固有のものであるとすれば、それの否定は、団体としてのUEFAの存立を脅かす結社の自由の侵害行為になる可能性も否定できない。

 結社の自由は、団体に、いわば当該団体の存立にとって必要不可欠な核心的決定の自由を保障する。すなわち、団体は、国家そしてEUに対して、独自の組織、意思決定手続、業務の遂行についての自己決定権を主張し得るのである。そして、その核心的決定は、通常の場合、当該団体の基本的決定として規則・規程等の一定のルールの形式で表示される。スポーツ団体では、多くの場合、当該スポーツのルールは固有のものとして国家等の公権力主体の干渉から免れる。もちろん、当該ルールが公序良俗に反するようなもの(競争法違反もその内容を形成する)である場合には無効になるが、その判定は、当該団体の存立目的や競技の公正さの確保という観点からの社会的許容性に基づいて行われる。「ホームタウン制」そのものはサッカーという競技ルールでないことはいうまでもない。そのために、ここでは「ホームタウン制」というルールが、果たしてサッカーに固有の組織ルールとしてEUの干渉を受けないものといえるのか否かの判断が求められる。

 この点で、確かに「ホームタウン制」は競争制限的要因を孕んではいるものの、文化的公共財としてのサッカーというスポーツの持続的発展のためには必要なルールということができる。その否定は、まさに一定の地域でのサッカー文化の衰退を惹起させてしまう可能性を秘めている。確かに、自由な競争の実現によるEU域内の経済的発展の重要性は否定できないが、サッカーというスポーツのある意味での消費者の利益、すなわちサポーターやサッカーというスポーツを愛する市民の利益を考慮すれば、「ホームタウン制」は、サッカーというスポーツに固有のルールであって、その維持は、欧州統合の触媒としての文化的公共財としてのサッカーの重要性に鑑みて、もはや否定できないものになっているといえるのである。

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