y-knotシリーズ

一般の方向け

2026/2/6 最終更新

これからの福祉政策 各章の概要

 

第Ⅰ部 福祉政策の基礎理論

第1章 福祉政策とは何か

本章では,本書のタイトルにある「福祉政策」とは何かを解説する。本書では,「社会福祉政策」とはいわず,「福祉政策」としている。その理由は,今日の福祉問題は,就労や住宅,教育など,これまでの既存の社会福祉の範囲を超えた対応が求められてきていることにある。それを理解するために,第1に,福祉政策の中心的課題である「社会福祉」とは何か,また,なぜ社会福祉が必要なのかを検討する。第2に,公共政策,社会政策,社会福祉政策と対比しながら福祉政策とは何かを明らかにする。第3に,福祉政策をローカルの視点から見る意義について解説する。

 

第2章 福祉政策の歴史

この章は世界と日本の福祉政策の歴史を振り返ることにより,現代の福祉政策の背景を確認することを目的とする。福祉政策を運営するための思想や理論を支える各種の概念は,歴史の中で作られてきた。本章を読み解き,それらの概念の知識を得ることで,現代の福祉政策の仕組みを理解する一助となるだろう。

 

第3章 社会問題の変化

この第3章では,福祉政策が対象とする社会問題と,その社会問題が生み出すニーズがどのように変化してきたかについて扱う。ここでのキーワードは,ニーズの多様化である。

第2章においては,福祉政策の形成史についてまとめた。福祉政策の出発点においては,産業社会の発達に伴って発生する貧困への対策が大きな課題であった。しかし,時代の進展とともに,福祉政策の対象は拡大した。その背景には,貧困以外の多くの社会問題が認識されるようになったことがある。

本章では,第1節において,福祉政策を形成する中心となってきた政府が,どのようにこうした変化を認識していたかを確認する。それは,社会問題とその問題の生み出すニーズの多様化を認めるようになるものだった。次に,その社会問題は具体的にどのようなものであるかを政府の報告書を参照しながら確認する。しかし,政府の問題整理の方法に従うだけでは現代の社会問題が十分に見えてこないので,示された諸論点を適宜検討しなおすことにする。本章では,貧困と社会的排除(社会的孤立〔孤独死・自殺等〕を含める),若年層の不安定問題,高齢化に伴う問題(単身高齢低所得者,ヤングケアラー)といった項目を扱う。続く第2節において,それぞれについて解説する。
さらに第3節では,こうして多様化した社会問題の生み出すニーズにどのように対応するのかを指し示す,理論や思想について紹介する。ここでは,ロールズとセンを取り上げる。彼らの理論や思想を紹介することで,福祉政策の進むべき方向性がいっそう明らかなものとなるだろう。

 

第Ⅱ部 福祉政策の政策過程

 

第4章 政策手段:普遍主義と選別主義を中心に

本章では,福祉政策を実現するための政策手段について解説する。そのために,第1に,政策手段について概説をしたうえで,第2に,福祉政策の手段を考えるにあたって福祉政策のあり方に関する論点を取り上げる。第3に,その論点の背景になっている普遍主義と選別主義の考え方と,それに関連する政策理念について検討する。

 

第5章 福祉政策と政策過程

1980年代,日本の高度経済成長が陰りを見せる中,日本の人口の少子高齢化など福祉課題が大きくなる中で,1990 年の社会福祉関連八法改正で在宅福祉サービスが整備され,措置権限が町村に移譲され,老人保健福祉計画策定が義務化されるなど,社会福祉サービスの市町村の役割が拡大する流れができた。2000 年の社会福祉法改正で地域福祉の推進が規定され,地域包括ケアや地域共生社会など地方自治体における福祉政策の展開が焦点化してきている。そのため,地方自治体がどのように福祉政策を策定していくのかが重要になっている。本章では,第1に,政策過程のプロセスを順を追って検討したうえで,第2に,政策過程に関わる主な理論を紹介する。そして,第3に,政策過程の具体的事例を見ておきたい。

 

第6章 福祉政策とガバナンスの変化

第6章では,福祉政策策定や運営の背景となる社会環境・制度環境の変遷について扱う。福祉政策を取り巻く環境は,観点によって見え方が異なってくる。ここでは,①社会福祉行政という特定の領域を超えた社会全体の統治形態の流れ,②行政技術の展開,③中央・地方関係の変化,の3つを扱う。それぞれについてそれぞれの時代に議論が積み重ねられてきたが,議論を行う目的が異なっている。①は国家による統治形態への批判に主眼がある。②や③は実際の行政運営に採用される現実的な方法論を論じるためのものである。そのため,時代区分を設けて,それぞれを対応させるのは難しい。ここでは一応の対応関係を示すが,それは緩やかなものであることに留意してほしい。しかしながら,対応関係が不明確でも,一緒にこうした変化の流れを確認することには意義がある。ある観点からだけでは見えてこなかった問題点が,別の観点からは明らかとなることがあるからである。

第7章 福祉政策の計画と評価

第Ⅱ部では,福祉政策の政策過程を分析するための各種概念や理論について確認してきた。最後に位置する本章では,もっとも具体的な政策過程の議論を扱うことになる。それは,福祉政策の計画と評価に関する議論である。現代の政策過程においては,「計画」の形で政策の方向性を示し,実施・運営した後に「評価」を行うというプロセスが明確である。このプロセスこそが,政策を客観的なものとするEBPM(evidence-based policy making:証拠に基づく政策立案)を確立するものである。よって,計画と評価の確認こそが,政策課程を理解する際のポイントとなる。以下それぞれを説明していく。

 

第Ⅲ部 福祉政策の実施体制

第8章 福祉政策の実施体制1:ローカル・ガバメントの形態変化

第Ⅲ部では,福祉政策の実施体制の説明を行う。本章はその最初なので,まずは福祉政策を実施する機関や団体の種類や置かれた状況の概要について説明したい。

 

第9章 福祉政策の実施体制2:公私関係論の変化

本章では,福祉政策の公私関係論の変化を歴史的に概観していく。公私関係論について考えるということは,福祉政策における行政の役割と民間の役割,また,その協働のあり方について検討するということである。第4章でティトマスの社会福祉の残余的福祉モデルと制度的再分配モデルについて紹介した。残余的福祉モデルは市場や家族が生活問題に対応できないときに公的な福祉が対応するという考え方であった。まずは市場や家族から率先して対応が求められ,行政の対応は補完的な位置づけとなる。こうして,公的な福祉の利用が制限され,自助努力が強く求められ,社会権が弱いという特徴をもつ。

 

第10章 相談支援業務の発展:ソーシャルワーク業務へ

社会福祉行政を担う地方自治体の業務では,「相談支援」の比重が増してきた。相談支援とは,単なる窓口相談のことではなく,ソーシャルワークを典型とする専門的相談のことである。そうした意味では,ソーシャルワーク業務といってもいいだろう。とはいえ,この相談支援は一般の理解も進んでおらず,行政庁内でも十分な地位を確立したとはいえない。今後は業務を周知し,理解を進めていくことが求められている。本章では,まずは相談支援業務が重視されるようになった経緯についてまとめる。その後,相談支援業務とはいかなるものか,その特質について考察する。

 

第11章 ローカル・ガバメントの専門性・裁量性

本章では,福祉政策を担うアクターに求められる専門性について扱う。福祉政策実施の中心となるのは,自治体の職員である。自治体に求められる職務は大きく変化したが,変化に対応するように職員体制が変更されたかというと,そうではない。地域の福祉ニーズに適切な対応を行うには,専門性が求められるが,行政庁内にそれを確保する体制はできていない。ローカル・ガバナンス(協治)の時代となってからは,福祉政策は行政庁内で閉じた形で実施されるものではなくなった。行政庁外との連携・協働が求められる時代である。こうした時代には,外部に開かれた専門性が必要である。庁内だけで通用する専門性からの脱却も望まれている。行政職員が専門性を発揮するために,行政職員の理念型(典型的な姿)においても変化が迫られている。従来は,不正を働くことを勘繰られるストリートレベルの官僚として捉えられていた公務員像は,政策起業家としての公務員像に刷新されている。

 

第12章 福祉政策と自治体財政

本章では福祉政策の財政の問題を扱う。福祉政策は国全体として行われるものも多いので,国庫を検討することも重要であるが,本書は地方自治体の政策運営のあり方に多くの紙幅を割いているため,この章では主に地方自治体の財政について扱う。

 

第Ⅳ部 福祉政策の実際

第13章 大都市自治体の福祉政策:大阪市の生活保護

本章では,大都市の福祉政策運営の特徴を取り上げる。事例とするのは大阪市である。大阪市は,東京都の特別区まで含めると,日本で3番目に人口が多い自治体であり,西日本の中核をなす都市である。また,戦後高度経済成長期を経た後に産業の衰退と人口減少を経験したため,社会福祉行政に関連してさまざまな課題に対処する必要に迫られた経験を蓄積してきた都市でもある。そうした意味では,大都市の福祉政策について考察する際の典型例とする資格を備えているといってよいだろう。

 

第14章 中小自治体の福祉政策:豊中市・野洲市の生活困窮者支援

本章では,自治体の大多数を占める中小自治体の取組みとして,大阪府豊中市と滋賀県野洲市の生活困窮者自立支援制度がどのように実施されているのかを検討する。まず,中小自治体の福祉政策を見る視点について解説したあと,豊中市と野洲市の生活困窮者自立支援制度が実施される前と後の取組みについて見ていきたい。両自治体とも,全国的にも特徴のある自治体として広く知られている。それだけ興味深い取組みがあるということであるが,どのように取り組んでいるのかを具体的に見ていきたい。

 

第15章 福祉政策の展望

本章は,これまでの福祉政策についての説明を振り返り,残された課題について検討する。今後の課題として方向性や解決策がいまだ明らかでないものも多いため,ここでは問題の存在を指摘するだけにとどまるものもある。はじめにでも触れたが,本書各章にて適宜扱った福祉政策の現状分析やその改善点についての今後の課題を検討し,将来展望をこの最終章で行いたい。まずは,ミクロな制度論から始め,次第にマクロな視点に移っていくことにする。