ジャズの「国籍」とは?
寿司や着物は日本文化,ハンバーガーはアメリカ文化,カレーはインド文化,フラメンコはスペイン文化などとよくいいます。人のように,文化も「国籍」を持っているのでしょうか。
音楽文化のひとつ,ジャズを見てみましょう。ジャズといえば,アメリカ文化であり,そのなかでもアフリカ系に担われた「黒人文化」だと思われていることでしょうか。ところがまず,その発祥を見ると,事実は少々複雑なようです。
ジャズが生まれたのは19世紀末から20世紀初頭のアメリカ南部ミシシッピー川河口のニューオリンズ。フランスが建設したその街で暮らしていた白人と黒人の間に生まれた「クレオール」が,自らのヨーロッパ音楽,黒人霊歌やブルースなどアメリカ南部のアフリカ音楽,カリブ経由のアフリカ音楽,地元のマーチ音楽などからジャズを編み出したといわれています。ジャズはその発祥から多文化的なのです。
その後,ジャズの中心はアメリカを北上しシカゴへ,そしてニューヨークへ移動します。同時期に中西部のカンザスシティや,西海岸のロサンゼルスやサンフランシスコでもジャズが盛んになりました。なぜジャズが広まったのでしょうか。主に人々が仕事を求めて国内移動をしたためです。
その過程でジャズは,スウィング,ビバップ,ウエストコーストジャズ,ハードバップ,モード,フリーなど新しいスタイルを獲得していきました。そのジャズの変化は,アフリカ系の黒人だけが担ったのではありません。たとえばウエストコーストジャズの中心となったのは,白人系ミュージシャンでした。
ジャズはアメリカを飛び越え,いわば「中心」から「周辺」へとグローバル化もしていきました。たとえば,東京では数多くのジャズライブが夜な夜な行われており,少なからぬジャズ喫茶でも楽しめます。日本だけではありません。私の乏しい経験のなかでも,ロンドン,メルボルン,ワルシャワ,北京,ソウルで聴いたライブ演奏は,素晴らしいものでした。19世紀末のニューオリンズの人々は,世界でこれほどジャズが愛されるとは想像できなかったことでしょう。
ジャズがアメリカ南部で生まれたこと,アフリカ系黒人が主な担い手となったことは間違いないでしょう。しかし,そんな「国籍」からはみ出したことが,ジャズをさらに魅力的なものにしているのです。