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書斎の窓

創業140周年を迎えて

 

有斐閣 代表取締役社長 江草貞治〔Egusa Sadaharu〕

 2017年1月をもちまして、小社は創業140年目を迎えました。

 社の歴史をふり返りますと関東大震災や太平洋戦争、戦後ある時期に経営の苦しい時代もありましたが、ご愛顧いただきました読者の皆様、ご執筆いただきました先生方に支えられて今日までたどり着くことができました。心より御礼申し上げます。

 私が社長に就任して10年ということになりますが、このわずかの間に出版を取り巻く環境は激変いたしました。かつては大量の出版物を全国に確実に届けるために整備された流通網や、全国津々浦々の書店が相応の利益を維持しながら多品種の出版物を店頭に並べることのできる取引システムが極めて有効に機能し、戦後の復興から現代の経済発展への下支えになっていました。しかし近時、情報流通はICTの急速な発展により変革を遂げ、今や前述の出版・流通システムは時代遅れになりつつあるようです。また、小社の主たる活動領域である大学や大学院における研究・教育環境も様変わりしてきており、改めて学問の世界における出版とは何か、そこにおける我々の役割は何かということを問い直さざるを得ない状況になっております。140年の歴史の中でもこれほど急激かつ多岐にわたる変化は、それこそ創業以来と言っても過言ではありません。

 

 創業者・江草斧太郎は自身が学問を好んでいたため、世が世であれば、研究者になって某かの成果を残したかもしれませんし、あるいは教育者として過ごしていたかもしれません。明治維新により研究の道に進むことは叶いませんでしたが、学問への情熱を若き書生たちに注ぎ、彼らの成長を支える縁の下の力持ちとして書店・出版業に邁進いたしました。

 当時の時代背景をみても、列強諸国に追いつくために西欧の学問を取り入れ、印刷技術も木版から活版へ、流通も鉄道による全国流通網が引かれるなどの、まさにイノベーションの真っ直中での創業でした。

 

 現代における環境の変化も、創業者の思いに立ち返れば、当時のイノベーションに匹敵、あるいはそれ以上の状況であると思います。私たちは今こそ「新創業」と位置づけて、新しい取り組みと共に学問の世界における伴走者として使命を全うしたいと考えております。今後ともご愛読、ご指導賜りますようお願い申し上げます。

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