y-knotシリーズ

一般の方向け

2026/4/27 最終更新

4章p.105 web教材⑫

脳内ネットワークの競合と協調

 

感情制御の脳科学をさらに学びたい人には,越野・苧阪・苧阪(2013)の論文と,入門的な解説記事「怒りの脳科学:怒りの仕組みとその付き合い方」が参考になります。越野らの論文は,脳のはたらきを「この場所がこの機能を担う」とみるだけでなく,複数の領域がネットワークとして競合したり協調したりしながら認知や感情制御を支えている,という現代的な見方を学ぶうえで有用です。とくに,デフォルトモード・ネットワーク(DMN)とワーキングメモリ・ネットワーク(WMN)の関係を通して,「感情をうまく調整する」とは単一の脳部位の問題ではなく,複数のネットワークの相互作用として理解すべきことがわかります。

 

このような研究のおもしろさは,日常生活で経験する「考えごとにとらわれる」「気持ちを切り替える」「怒りを抑える」といった身近な現象を,脳内ネットワークのはたらきとして捉え直せる点にあります。一方で,難しさもあります。脳科学では,一つの領域が一つの機能だけを担うわけではなく,多くの領域が複数のネットワークにまたがって働くため,「この領域が感情制御の中枢である」と単純には言えません。まさにその複雑さこそが,感情科学研究の魅力でもあります。

 

また,怒りに関する入門記事では,怒りに関わる脳領域として扁桃体や腹内側前頭前野が紹介され,扁桃体が怒りに関連する情報の処理に関わり,腹内側前頭前野がその反応のコントロールに関わる可能性が説明されています。さらに,マインドフルネス瞑想や認知的再評価によって,こうした制御に関わる前頭前野のはたらきが高まる可能性も紹介されており,本書で学ぶ感情制御の理論と日常的な実践とを結びつけて考える手がかりになります。

 

もしこの分野に関心があれば、まず本書の4章と5章を読んでみましょう。その後、「怒りの脳科学:怒りの仕組みとその付き合い方」にある身近な例から理解し,越野ら(2013)の論文に進むとよいでしょう。論文では,専門用語や研究法に最初は戸惑うかもしれませんが,「脳のどの場所か」ではなく「どのネットワークがどのように協調・競合するか」という視点を意識して読むと,感情科学の考え方が見えてきます。学部生であれば、すべてを完全に理解しようとするよりも,感情制御を脳内ネットワークの動的な相互作用として考えるという発想に触れることが,次の学びへの大切な一歩になります。

 

【有光興記】

(参考資料)