『感情・パーソナリティの心理学:ままならなさを理解するために』
【目 次】
序 章 ままならない私とあなたを理解するために
第Ⅰ部 感情・パーソナリティのしくみ
第1章 感情を科学する──3つの伝統
第2章 パーソナリティを科学する──探究の歴史
第3章 感情・パーソナリティの個人差──測定・検査・尺度
第4章 感情の生物学的基盤と機能
第5章 感情・パーソナリティの基盤
第6章 感情・パーソナリティの生涯発達──養育,環境適応
第7章 感情・パーソナリティと社会的適応──進化,適応,障害
第Ⅱ部 ままならなさをのりこなす
第8章 なぜいつもこう感じてしまうのか?──ままならない感情とその制御
第9章 なぜいつもこうなってしまうのか?──ままならない行動とその制御
第10章 パーソナリティは変えられるのか?──パーソナリティの変容方法
終 章 感情・パーソナリティ心理学の目指すものとは──ウェルビーイング,健康,パフォーマンス
【第1章 感情を科学する──3つの伝統】
Chapter structure 1章の構成

1章のまとめ
こうして見ると,「感情主義」はどれか1つの理論の勝利ではないということがわかります。感じ・気持ち伝統は,概念化とラベリング,評価伝統は「評価→反応」の因果関係,動機づけ伝統は「即時の行為準備」のアフェクト・プログラムの利点から,学際的フロンティアで相補的に使われています。実際,感情に固有の生理・脳・表情のパターンを示す証拠は乏しく(Mauss et al., 2005;Lindquist et al., 2012;Siegel et al., 2018),感情は評価,動機づけ,身体生理,運動,感じ・気持ちという複数の構成要素から捉え,文脈や個人差を織り込んで複数の理論に依拠して読み解くのが現実的です。 総括すれば,感情主義の到来とは,3つの伝統がそれぞれの強み――言語による構成中心,評価中心,即応行動中心――を武器に,科学と社会実装の両輪を回し始めたことを意味します。以降の章でも,感情の理論的発展を支える生理学的基盤(➡第4章),遺伝(➡第5章),社会的適応(➡第7章),制御(➡第8,9章),ウェルビーイング(➡終章)などに関する科学的証拠の数々を楽しんでください。
【第2章 パーソナリティを科学する──探究の歴史】
Chapter structure 2章の構成
2章のまとめ
本章ではパーソナリティをめぐる科学者たちの探求の歴史を紹介しました。一口にパーソナリティ研究や理論といっても,その中には「パーソナリティ認知の研究」「行動や適性の予測因子の研究」「環境や状況が人の変化に与える影響の研究」といった異なる研究目的が混在していることに注意する必要があります。パーソナリティという目に見えにくいものを,どのような切り口から説明したり記述したりするべきかという試行錯誤が,これまでのパーソナリティをめぐる探求の歴史であったといえます。
【第3章 感情・パーソナリティの個人差──測定・検査・尺度】
Chapter structure 3章の構成

3章のまとめ
尺度や検査の開発は,目に見えない心の特徴をなんとかしてその一面だけでも知りたいと願う切実な思いを動機としています。しかし,その測定結果は時として過度に決定論的なものとみなされてしまい,差別や偏見の理由として悪用されることがあります。本章を学んだみなさんには,測定の信頼性・妥当性を慎重かつ正確に理解する姿勢を身につけてほしいと願っています。
【第4章 感情の生物学的基盤と機能】
Chapter structure 4章の構成 
4章のまとめ
本章では,感情をどこで感じ,どう伝えているのかを説明してきました。私たちの身体の中では,刻一刻と変化する環境に適応するために脳が絶えず「身体予算」をやりくりし,内分泌系や自律神経系を予測的にコントロールすることで,最適な身体状態をつくりだしています。こうして構成された「行為準備状態」としての感情は,表情や声のトーン,身振り,そして言葉を通じて周囲へと伝えられます。 感情を感じ,それを分かち合うことは,他者とともに生き,つながりを深め,社会の中で自分たちの居場所を確保するための,人間にとって最も必要で適応的な知恵なのです。
【第5章 感情・パーソナリティの基盤】
Chapter structure 5章の構成

5章のまとめ
本章では,感情とパーソナリティは遺伝だけで決まらず,環境との相互作用で変化することを確認しました。知能や創造性のように先天的と思われがちな能力も,少なくとも一部は,経験と学習によって望ましい方向へ変容しうることが示されています。生物学的基盤としてはクロニンジャーの気質・性格モデルを紹介し,その働きを脳内のネットワークのSN(重要度検出) ―DMN(内省・意味づけ) ―CEN(選択・実行)の連携という枠組みから概観しました。 私たちは経験を重ねる中で,「この状況ではこうなるはずだ」という脳内の予測(解釈のパターン)を常に更新しています。状況に合わせてこれら3 つのネットワークを柔軟に切り替えられるようになると,より適応的な行動が生まれやすくなります。逆に不適応なパターンは,これらの過活動・低活動や切替えのアンバランスとして理解できる場合があります。第8 章では,この枠組みを念頭におきながら「ままならない行動」とその制御法を扱っていきます。
【第6章 感情・パーソナリティの生涯発達──養育,環境適応】
Chapter structure 6章の構成

6章のまとめ
パーソナリティ研究の黎明期から,オールポートはパーソナリティの研究方法として,個性記述的方法と法則定立的方法という2種類の切り口の重要性に言及していました(Allport, 1961)。つまり,パーソナリティを深く理解するためには質的研究と量的研究の双方の視点が欠かせないということです。最後に,双方の視点を包含した統一的なパーソナリティ研究の1 つとして,マクアダムスによるパーソナリティ発達の3 層モデル(McAdams & Pals, 2006;図6-6)を紹介します。第1層は個人特性のレベルであり,すでに特性論的なパーソナリティの諸研究が数多く行われてきました。第2層は適応方略のレベルであり,各々の個人特性(個人差)を活用してうまく社会生活に適応したり,反対に特性ゆえにままならなさが生じたりする現象を捉えています。多くのパーソナリティの定義や研究目的が標榜している「適応」とはこのレベルのことです。最後の第3 層は,ナラティブ(語り)のレベルであり,人生の適応も不適応もすべて含めてどのように受けとめて,どう自己という物語(ライフストーリー)を紡ぐかというレベルを捉えるものです。客観的には似たような出来事を経験しても,人によって受けとめ方が180度異なるということがありえます。これは不運や苦境に陥る中で,それでも人生に生きる意味を見出して前向きなライフストーリー (人生の自己物語)を生きている人と,妬み嫉そねみにまみれて愚痴っぽい後ろ向きの自己物語を生きている人との違いを捉えるモデルといえるでしょう。
【第7章 感情・パーソナリティと社会的適応──進化,適応,障害】
Chapter structure 7章の構成

7章のまとめ
本章では,感情とパーソナリティの適応と不適応を進化論の立場から論じました。まず,ダーウィンの進化論における感情の機能の説明を行い,恥の表出を題材に感情の社会的機能を進化的観点から位置づけました。さらに,感情の社会的機能の個人差を生み出す要因を見て,個人差の例として情動知能を紹介しました。 ついで,パーソナリティがどのように生存・繁殖戦略と関連するのか,本来は適応的であるはずの私たちの社会的適応の仕組みが過剰・不足・誤作動することで生じる感情とパーソナリティの不適応について生活史理論とFSD モデルから説明しました。 日常生活の中で,あなたのパーソナリティや感情がどのように機能しているかを観察し,そのあらわれ方に育った環境や現在の文化規範,早い・遅い生活史戦略がどう影響しているのかを考えてみると,自分自身の進化的適応の現在地を理解する手がかりになるでしょう。
【第8章 なぜいつもこう感じてしまうのか?──ままならない感情とその制御】
Chapter structure 8章の構成

8章のまとめ
本章では,ままならない感情とその制御について説明してきました。感情には適応的な機能がありますが,制御をしないとうまく適応できません。感情を制御するための方略には,原因焦点型と反応焦点型があり,それぞれの方略には一長一短がありました。感情の抑制や反すうは,かえってネガティブな感情を持続させてしまうなど,よかれと思って制御方略を使っているのに実際は機能しないことがあるとわかりました。感情を制御しようとあくせくせず,むしろそのまま受け入れるマインドフルネスによっても結果的に感情は制御できます。感情をうまくコントロールするのは難しく,制御方略もこれを使えばよいという方略が決まっているわけではなく,ままならないものだとわかっていただけたでしょうか。 感情制御のスタイルには脳神経活動に裏づけされた個人差があり,各スタイルにはメリットとデメリットがありました。仮にポジティブ感情を経験しやすかったとしても,過剰になればそれを制御する必要性がでてきます。文脈の変化に気づきやすければそれだけ状況に応じた行動ができますが,恐怖体験をした状況と似た状況に気づきやすくなって恐怖をより感じてしまうというデメリットもあります。私たちの感情制御は,状況に応じて柔軟に変化させることができれば有効に作用させることができそうです。
【第9章 なぜいつもこうなってしまうのか?──ままならない行動とその制御】
Chapter structure 9章の構成

9章のまとめ
本章では,社会的・対人的問題に関わる「病的パーソナリティ特性」と「ダークトライアド」,そして精神病理の次元的アプローチであるHiTOP モデルについて概観しました。これらの特性に由来する「ままならない」行動傾向は,文脈(状況,役割,課題)によっては適応的に機能する側面ももちあわせています。 ここで重要なのは,病的パーソナリティ特性もダークトライアドも,パーソナリティそれ自体に対しては価値判断としての良い/悪いはないということです。「精神病理」としての「異常」は,あくまでもある基準点(平均値など)からの逸脱や,治療方針決定のための診断ラベルです。個人にレッテルを貼り排斥するための道具ではないのです。
【第10章 パーソナリティは変えられるのか?──パーソナリティの変容方法】
Chapter structure 10章の構成

10章のまとめ
最後に,本章で紹介しているようなパーソナリティの変容方法は,あくまで一定期間の介入を受けて変容させたという研究にもとづくものであり(Bleidorn et al., 2021),すべての人に有効とは限りません。本に書かれていることを実践しても,思うような変化が感じられないこともありますし,「変わった」と思っても一時的な変化にとどまることもあるでしょう。 パーソナリティには,自分の意思だけではどうにもならない「ままならない部分」も含まれています。「変えにくい部分」を抱えながら,「変えられる部分」に取り組みながら,自分なりに納得できる生き方を模索していくという視点が,大切になるはずです。


