
一般の方向け
2023/2/7 最終更新
心理学スタディメイト Chapter structures
第1章
心理学へのいざない
- ヴントは「心理学はあらゆる精神科学の基礎である」といった。その意味はどういうことだったか?
- 「科学の知と臨床の知」を対比させる考えがある。それぞれの特徴は何だろうか? これらは対立する立場なのだろうか?
- 心理学とキャリアを考える。「学んだことを実地に役立てる」ことは重要だが,狭すぎる意味に捉えられていないだろうか?
- 心理学がカバーする領域はあまりにも幅広い。どういう勉強をしたらよいだろうか?
第2章
測定・統計――心のゆらぎを数値化する
- 科学としての心理学は心を数字で表そうとする。そもそも不可能なことではないだろうか? 先人はどういう工夫をしただろうか?
- 心理測定や心理統計の分野にはたくさんの数式が出てくる。勉強につまずくことも多い。しかし,無味乾燥な勉強ではない。測定や統計は人間の行為である。そこには心のはたらきがある。それを知れば勉強も楽しくなるだろう。
- 「4種類の尺度」(名義尺度,序数尺度,間隔尺度,比例尺度)を使い分ける必要がある。その背景を知れば適切な使い分けができるようになる。
- 近代の統計学は「偶然」の概念に支えられている。私たちには「偶然」を受け入れがたい心のはたらきがあるようだ。そのことに気づくのが統計の勉強の第一歩ではなかろうか。
- 日常生活ではいろいろな数字を比べる場面が多い。だが,そもそも比べることに意味のある数字なのだろうか? 少し立ち止まって考えてみよう。
第3章
感覚と知覚――知っているはずの世界の知らない側面
- 感覚と知覚は心の素材といわれる。それはどういう意味だろうか?
- 私たちは世界をいかに認識するか? これは哲学に根差す深いテーマだった。現代の科学的な心理学や神経科学もその延長にある。
- 私たちは「心の目」で世界をみている。知覚心理学で重要な閾値,恒常性,ゲシュタルトといった概念や現象は実験心理学の世界にとどまらず,日常生活と深い関わりをもつ。
- 大学での感覚や知覚の勉強は視覚に偏っている。この流れにちょっとだけ釘をさしたい。臨床的にも重要な「痛み」について,とくに一節設けて考える。
第4章
認知――世界はアタマのなかにある?
- 行動主義の時代には「心のなか」すなわち「マインド」について語ることは科学的ではないと考えらえた。その考えにも一理はある。けれども「心のなか」を可視化する試みが成功し,心理学は「マインド」について語る素地を取り戻した。
- 今日「認知心理学」あるいは「認知科学」として論じられるテーマはあまりに幅広い。本書ではいくつかのトピックを取り上げざるを得ない。
- 注意――私たちは漫然と世界を捉えるわけではない。すなわち注意には「バイアス」がある。これは臨床領域でも重要な問題である。
- 思考――私たちのアタマには意識に上らない「意味のネットワーク」がある。これはフロイトが気づいていたことだった。今日の目による新たな展開が期待される。
- 記憶――記憶は磁気ディスクのような過去の「記録」ではなく,さまざまに変容する。あなたの「思い出」は作られたものかも知れない。
- 意思決定――「あれか? これか?」という場面で人間はときに不合理な判断をする。そこに人間らしさがある。しかし合理的とはどういうことだろうか? ときに不合理とみえることも実は合理的と考えられないか?
第5章
学習――無常を科学する
- 学習心理学はパヴロフやソーンダイクの動物行動研究に始まると思われがちである。だからその原理も人間的ではないと思われることもある。しかしそのルーツは「観念の連合」というイギリスの哲学である。
- ただし学習心理学は「訓練者」と「被訓練者」の関わりを想定している。したがってある言葉や概念が訓練者による操作を表しているのか,被訓練者の側に起こった現象を表しているのかを厳密に使い分ける必要がある。同じ言葉が両方に使われることもあるから注意が必要である。
- 学習心理学と行動主義の親和性が高かった理由は,「説明原理をやたらに増やさない」という科学研究の潮流に従ったからである。これは「オッカムの剃刀」の原理と呼ばれて,今でも重要な潮流である。
- 学習心理学は「行動の統制」と関わっている。それは多くの著述家に管理社会が透徹した「ディストピア」を空想させた。さて学習心理学は管理社会を正当化するのだろうか?
- 学習心理学は生物学や工学からのインパクトを受けて変わりつつある。これからの展開には心理学の枠を超えるコラボが必要である。
第6章
言語――わからないのに使いこなせる不思議
- 言語について学ぶ意義――言語の理解は他者理解のカギである。
- 心理学の基礎知識として言語発達の過程を押さえておこう。けれども発話にせよ書字にせよ,身体の発育が前提である。心理の理解には身体性の理解が必要という一例。
- 言語学の三大テーマは意味論,統語論,語用論。それぞれに沿って若干心理学的な解説を試みる。
- 意味論――アタマのなかには辞書がある。「メンタルレキシコン」という。言語の意味を理解するには,この辞書を検索する。しかし分節がわからなければ検索できない。その理論モデルがいくつかある。
- 統語論――単語を並べて文を作る。そこにルールがある。その基礎は何だろうか? 脳のなかに基本的な文の構造がたくわえられているのだろうか?
- 語用論――同じ意味の文でも場面によっていろいろな使い分けをする。また,文になっていない「叫び」のようなものでも雄弁な意味をもつ。スキナーが「言語」といわず「言語行動」といった真意をさぐりながら言葉の使い方を考えよう。
第7章
感情――ゆらぐ心のチューニング
- 古来,「人のあり方」を説く哲学や思想は感情の地位を低くみてきた。しかし,近年になって感情の豊かさが再認識され,感情の研究は心理学の主要なテーマになった。この復権はどうやって始まったのだろうか?
- 感情研究の難しさ――復権はしたものの,とりわけ実験心理学的な感情研究はなかなか思うようには進まない。そこにどんな難しさがあるのだろうか?
- 感情と身体――代表的な感情理論(ジェームズ-ランゲ説,キャノン-バード説,シャクターとシンガーの二要因説)をたどり,特徴や限界を考える。身体との関係に着目すると,単なる学説の羅列ではなく,その深い意味がみえてくるだろう。
- 感情と認知――このテーマも単なる学説史にとどめず,感情は意図的にコントロールできるのだろうか? という観点でアプローチしてみる。
第8章
人格――個性研究古今東西
- 心理学の根底には「自分と違う人」への興味がある。「あなたのことをもっとよく知りたい」この動機はただの興味にとどまらず,多様性への開眼,共生社会実現の第一歩である。
- 類型論――人格をいくつかのタイプに分ける。この考えは精神医学から生まれた。そこには精神医学だからこその特徴と限界があった。
- 特性論――人格をいくつかの成分が集合したプロフィールとして捉える。この考えは統計から生まれた。統計ならではの特徴と限界がある。現在の代表的な特性論は「ビッグ・ファイブ」,この背景にも触れる。
- 人格の形成と生物学――人格論は同義反復に陥りがちである。この限界を打破するのは人格形成の生物学的な背景を研究することである。遺伝的素因,成育歴などが神経系に与える影響を調べる研究に新たな展開のきざしがある。
- 人格論の根本は「個人差はノイズではない」と認識することにある。人を「平均値プラスマイナス偏差」でみてはいけない。個性の尊重とはこういうことではないか?
第9章
集団・社会――「引き」の構図で捉える世の中
- 社会のなかの私たち――およそあらゆる心理現象が他者との関係性のなかで成り立つ。その意味ではすべての心理学が社会心理学を目指すといってもよかろう。
- 社会心理学はこうやって勉強しよう。たくさんの概念や用語があるから,羅列的に覚えるのは大変で,身につかない。ボトムアップとトップダウンという2つの勉強のやり方を提案する。こうすれば社会心理学が身近なものに感じられるはず。
- ボトムアップ――知覚や学習といった基礎心理学の素養があれば,そこで学んだことを社会現象に拡張してみる。
- トップダウン――身近な社会現象に興味があれば,その現象を心理学の基礎に還元してみる。
- 混迷と抗争の現代社会。差別や偏見,誹謗や中傷の時代。世の中と切り結ぶには今こそ社会心理学が必要だ。
第10章
発達――「生き様」の科学
- 発達心理を学ぶときに,発達はまずもって生物学的な現象であることを認識していただきたい。「誕生」は個体の生活にとって出発点ではなく通過点の1つである。
- 精神発達への興味は古くからあった。近代日本でも子どもの養育への関心が高かった。
- ピアジェの認知発達論を押さえよう。だがピアジェの本当の興味はどこにあったのだろうか? ピアジェを単なる発達心理学者と捉えるのは一面的に過ぎるようだ。
- 発達の社会性を重視したヴィゴツキー――その発想の源泉は意外にも社会主義的な世界観と関係があった。
- 生涯発達――発達はある時期に完成して終わるプロセスだとは考えられない。超高齢社会となった今,とりわけ老年期が重要である。「サクセスフル・エイジング」だけで終わりにはできない実情がある。
第11章
体の話――体は心の入れ物か?
- 心理学には身体の構造,機能,病態への理解が不可欠である。いきなりそういわれても何のことかよくわからないかもしれないので,まず心と身体の深い関係について考えよう。
- 医学,生理学の専門家にとどまらず,「普通の」人々にもある程度の身体の知識が必要である。「患者参画型医療」の時代が始まったことがそれを示している。
- そうはいっても身体生理の勉強は難しい。慣れない言葉に難しそうな概念。それをアタマに入れるにはどうすればよいだろうか?
- 1つの目安として,誰もが受ける「健康診断」の結果がわかることを目標にしてみよう。そこから世界が広がり,いろいろな臓器の役割,その病態などに関心と興味を拡充させることができる。
- 医療と心理の関わりを考える――先進的な医療機関では,身体医療が目的でも「心に訴えかける」さまざまな試みが始まっている。その一端を紹介する。
第12章
脳と神経――「わたし」はニューロンの集積か?
- 脳と心――私たちはなぜ脳の話に興味をもつのか? 心のはたらきは脳のメカニズムで説明できるのだろうか?
- 「脳科学」が人気を集めるにつれて,残念ながら,まゆつばものの話もたくさん出てきた。専門家ではない私たちにも「脳神経科学リテラシー」が求められる。
- 脳の基本的な構造を理解する――脳の構造には動物の進化の歴史が刻まれている。
- 神経系のミクロなはたらきを理解する――神経細胞は化学物質でコミュニケーションをしている。
- 脳の勉強は「私とは何か」を考えさせてくれる――私たちの心理や行動が詳細な神経科学で説明でき,予測できたら,私たちの自由はどこにあるのだろうか? はたして脳は私たちの行動を中央集権的にコントロールしているのだろうか?
第13章
精神医学――見えない心にメスを入れる
- 精神医学と心理学――近いようで遠い。
- 心理学は「了解可能性」を広げる――幻覚の研究に例をとって考えてみる。
- 精神医学と神経科学――生物学的な精神医学は精神疾患の薬物療法という道を開いた。しかしこれには批判もある。丁寧な臨床が求められる一方で,理想的な臨床活動は現実的に難しいという限界もある。
- 精神医学と社会――精神疾患がどのように処遇されてきたかは社会のあり方と深く関わっている。精神医療の現実にも目を向けなければいけない。心理学を学んだ目で精神医療と向き合うヒントはどこにあるだろうか?
第14章
心の生物学――生物の機能としての心
- 心理学はなぜ人間以外の動物も研究してきたのだろうか?
- 進化論の影響を受けて「動物の知性」という研究が始まった。これには紆余曲折があった。初期には「いろいろな動物の知的な能力を比較する」という比較心理学が勃興した。だが,「比べて意味のあることを比べているのか?」という問題がここにもつきまとっていた。
- そこに,種固有の行動を重んじるエソロジー(動物行動学)が大きなインパクトを与えた。これはさらに社会生物学へと発展した。
- それと並行して「進化心理学」が生まれた。進化心理学は私たちの心と行動のあり方を深く考えさせてくれる。
第15章
科学とヒューマニズム――心を見つめる2つの目
- 最後になるが最も重要な課題として「研究の倫理」について述べる。研究の倫理は単なる「心構え」ではなく研究者が実践しなくてはならない指針である。
- ティンバーゲンの4つの問い――動物行動学が答えを探すべき課題として提唱されたが,心理学一般に拡張できる。行動の因果関係(なぜ,ある種の行動をするかというメカニズム),行動の生存価(その行動をすることによって何がもたらされるか?),行動の個体発生(どういう経過でその行動をするようになったか?),行動の進化(その行動にはどのような生存価があるか?)
- ダーウィンの6つの路線――どういう研究をすればこうした問いかけに答えることができるか? 発達心理,臨床心理,実験心理,芸術心理,民族心理,動物心理の6つ。クラシックだが重要。
- 観察がすべての基本である。
- 専門家とは「考えすぎ」をしない人たちである。
- 心理学の左手は科学の精神,右手は他者への愛。