Chapter structure
Quiz
Q12.1 WHOが新型コロナウイルス感染症(COVID–19)のパンデミックを宣言したのはいつか。
a. 2018年 b. 2019年 c. 2020年 d. 2021年
Q12.2 WHOが年次報告書で「感染症のグローバルな危機の瀬戸際に立たされている」と警告したのはいつか。
a. 1985年 b. 1996年 c. 2002年 d. 2016年
Q12.3 2021年の「第6期 科学技術・イノベーション戦略」がパンデミック後に移行を目指すとした社会像は次のどれか。
a. 情報化社会 b. 高度情報社会 c. 高度情報通信社会
d. IT社会 e. ネットワーク社会 f. スマートフォン社会
g. データ主導型社会 h. Society 5.0 i. メタバース
j. Web 3.0 k. e-Japan l. 電子立国
関連資料
1 感染症とウイルスの可視化
【新興感染症と人の移動,気候変動】→p.281
The World Health Care Report 1996: Fighting Disease Fostering Development
WHOは1996年の年次報告書で世界的な新興感染症の流行に対して警告を発していた。実際に新型コロナウイルス以前にも,90年代以降,O-157やエボラ出血熱,SARSなどの流行が繰り返されていた。人の移動の活発化や気候変動が新たな感染症を発生させ,深刻なパンデミックを引き起こす可能性は,90年代半ばには予見されていたのである。やみくもなグローバル化と気候変動に対する根本的な対策を行わない限り,新興感染症は発生し続けるだろう。WHOのウェブサイトから報告書の英語版と日本語版をダウンロードすることができる。
ビル・ゲイツ: もし次の疫病大流行(アウトブレイク)が来たら?私たちの準備はまだ出来ていない(2015年)

マイクロソフトの創設者であるビル・ゲイツは,感染症の流行の危険性を訴え,その予防のために長年尽力してきたことで知られる。2015年のTEDでの講演でゲイツは「もし1000万人以上の人々が次の数十年でなくなるような災害があるとすれば,それは戦争というよりはむしろ感染性の高いウイルスが原因の可能性が大いにある」と述べている。先述したように,1990年代半ばにはその危険性は広く認識されており,ゲイツのプレゼンテーションからも対策の必要性がすでに十分に議論されていたことがわかる。しかし2022年9月時点で,全世界で新型コロナウイルスの感染者数は6億人以上,死者数は650万人を超えた。
【ウイルスを可視化する】→p.283
SARS-CoV-2 (CDC/ Alissa Eckert, MSMI; Dan Higgins, MAMS) 2020
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のアリッサ・エッカートとダン・ヒギンズを中心に制作された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の3D着色モデル。2人はともに医学と美術・デザインの双方の専門教育を受けた医学イラストレーションの専門家で,1枚の図像のなかに,科学的な正確さと効果的な情報伝達,啓蒙と予防のための知識と技術が詰め込まれている。
ピーテル・ブリューゲル『死の勝利』1562年頃
14世紀半ばにペスト(黒死病)がヨーロッパ全土に流行した際には,姿の見えないこの疫病が死神や骸骨の形で絵画に描かれている。ピーテル・ブリューゲルの『死の勝利』もそうした絵画の1つで,ペストの蔓延が,おびただしい数の骸骨が生者に襲いかかるさまとして描かれている。一説にはこのときのペストのパンデミックにより,ヨーロッパの人口の半数近くが亡くなったともいわれる。
日本では2020年の緊急事態宣言の期間中に,江戸時代の疫病よけの妖怪アマビエの絵が,SNSを中心に拡散され,さまざまな二次創作やグッズ制作が行われた。厚生労働省はとくに若者向けの「STOP!感染拡大」キャンペーンのロゴにアマビエを採用,SNSでの広報と予防の呼びかけに活用した。
【公衆衛生と感染状況の可視化】→p.285
ジョンズホプキンス大学のCOVID-19ダッシュボードでは,世界各地の感染者数,死者数,ワクチン接種者数などのデータを随時更新するだけでなく,感染や防疫に関連するさまざまなデータの提供と視覚化を行っている。また批判的データ分析のためのツールや視点を提供していることも大きな特徴で,年齢,人種,エスニシティ,ジェンダーなど人口統計学的な視点から見た被害やワクチン接種の不均衡についての情報も得ることができる。
WHO Coronavirus (COVID-19) Dashboard
WHOのダッシュボードはデータ視覚化のデザインが明確で,文化差を超えて理解しやすいよう工夫がなされている。また国や地域ごとに,マスク着用,学校やビジネスの継続度,国内・国外旅行の制限などの状況を視覚化して表示することが可能である。
2 気候変動とサプライチェーン
【サプライチェーンの混乱】→p.289
トヨタ 半導体不足で初めて国内工場を一時停止(2021年5月19日)

コロナ禍でのサプライチェーンの混乱は世界的な半導体の供給不足を招き,各地で電子部品や工業製品の工場の稼働が一時停止することになった。スマートフォンの部品や製造工場だけでなく,日本ではトヨタをはじめ各社の自動車工場が停止する事態になった。
Why Global Supply Chains May Never Be the Same | A WSJ Documentary(2022年)

世界規模で構築されたサプライチェーンは,コロナ禍においてまさに連鎖反応(チェーンリアクション)により大きな変動を引き起こす。それはワンクリックで家に商品が届く生活が,いかに人間による労働と機械やアルゴリズムによる自動化が組み合わされた複雑なシステムによって可能になっているかを明るみに出した。ラストワンマイルの配送業者やAmazonの配送センターでの労働はこの巨大なシステムに合わせて迅速に動く産業用アスリートのような存在になっている。
Then and now: Pandemic clears the air(BBC,2021年1月1日)
大気環境がロックダウンで改善、世界の84%(CNN,2021年3月16日)
皮肉なことに,2020年には世界各地でのロックダウンの実施や,工場の封鎖,人流と物流の抑制などによって世界の8割以上の国で大気環境が改善したと報告された。BBCの記事では,パンデミック以前の19年8月と以後の20年4月のデリーの大気の変化を比較することができる。
【電力消費とデータセンター】→p.291
Google Data Centers Dublin, Ireland
Googleのヨーロッパ本部はアイルランドのダブリンに置かれている。英語圏で教育水準が高く,税制の優遇措置があるだけでなく,電力を消費し熱を発するデータセンターに適した寒冷な気候と十分な電力が確保できることもその理由の1つである。Google Datacentersのサイトでは,自社のデータセンターについて情報公開を行っており,ダブリンのデータセンターについても解説されている。
【感染症とプラットフォームの拡大】→p.292
米巨大IT5社,10~12月期最高益 コロナでのデジタル化追い風(2021年2月3日)

「コロナでこぼれ落ちた」家も仕事も失った若者の貧困【news23】(2021年2月17日)

新型コロナウイルスの感染拡大は,もともと不安定な立場にあった人々をさらに困難な状況に陥れることになった。またテレワークへの対応が比較的容易な職種と,対応の難しい職種やエッセンシャルワーカーの間に大きなリスクの格差を生み出した。その一方でオンライン事業を中心とするプラットフォーム企業は,コロナ禍で行き場を失った投資を呼び込みながら拡大し,2020年にはGAFAMの純利益は揃って過去最高を記録することになる。しかしアメリカのゼロ金利政策と量的緩和策が終了し,22年には段階的に利上げが行われたこともあり,コロナ禍中の空前の株高は失速することになる。
【ギグワークとコンテンツ・モデレーション】→p.294
‘It’s the worst job and no-one cares’ – BBC Stories

ソーシャルメディアの影響力が大きくなるなかで見逃されているのが「コンテンツ・モデレーション」と呼ばれる労働である。ソーシャルメディアに溢れる有害なコンテンツを実際に目で見て削除するか否かを決めるその仕事は,普段私たちの目には見えない。BBCは1人のコンテンツ・モデレーターへのインタビューをとおしてその過酷な実態の一部を明らかにしている。
3 新しい日常と失われた日常
【非接触の光景】→p.295
感覚ピエロ『感染源』OFFICIAL MUSIC VIDEO(2020年)

新型コロナウイルスの感染拡大は,多様な人々が集まる都市という場所を最もリスクの高い空間に変えた。「全員容疑者です」「周りが全員ウイルスに見えている」という歌詞は,感染初期に広がった疑心暗鬼の心情を率直に浮かび上がらせている。それはいつも見ていた光景が急速に不可解で異なるものに見えていくような経験でもあった。『感染源』のMVは2020年3月10日の渋谷を記録している。それは新型コロナウイルス対策の特別措置法が成立し,緊急事態宣言が発出されることが決まる3日前である。
“非接触”「個室」ビジネス続々,あの「スタバ」も初めて導入(2020年7月29日)

コロナ禍で日常に浸透し始めたのが「非接触」の光景である。三密の回避と社会的距離の保持の徹底は,個室やパーティションで区切られた空間や,1人でスクリーンに向き合う時間を増殖させた。感染拡大期には,他者との接触やコミュニケーションが最も危険な行為になるというディストピア小説のような世界が急速に現実化していった。
The whole working-from-home thing — Apple(2020年)

急速な在宅ワーク(Working From Home)もコロナ禍で広がった光景である。ZoomやTeamsといった遠隔会議ツールも一気に浸透した。急速に拡大した在宅ワークは,安全を確保しながら遠隔で業務を進めるためのさまざまな模索につながった一方で,家庭生活を混乱させ,思わぬトラブルも生むことになった。コロナ禍で進んだ在宅ワークのさまざまな試みは,どこまでを遠隔で行い,またどこまで対面やオフィスでの共同作業を行うべきか,その境界を見極めるための大規模な社会実験にもなったといえるかもしれない。
twenty one pilots – Level of Concern (Official Video) (2020年)

The 1975 – Me & You Together Song (YouTube Session)(2020年)

感染拡大期に要請された接触の回避や社会的距離の保持は,他者との物理的,心理的,社会的な距離感をさまざまな形で変容させた。その影響は,MVの表現にも見ることができる。2020年4月の『Level of Concern』のMVではUSBを郵送でやりとりしながら自宅でMVの制作を進める様子が,同年5月の『Me & You Together Song』では同じ場所で演奏ができず,別々に撮影され距離を置いた演奏がそのままセッション動画として公開されている。
赤い公園 「yumeutsutsu」Music Video (2020年)

星野源 – 折り合い (Official Video) (2020年)

コロナ禍の影響は何気ないMVや楽曲の表現にも,その痕跡をとどめている。2020年4月の緊急事態宣言の直後に公開された「yumeutsutsu」の「何が何でもまた会おう」という歌詞は,先が見えない状況に対する強い励ましであったし,期間中に制作された「折り合い」の「こんな時さえも」という歌詞は,それが変わらぬ日常の光景のようで,コロナ禍の非日常での出来事であることを確かに示している。
【ストリーミングの伸長と映画館の苦境】→p.296
“ミニシアターブーム”をけん引 岩波ホールまもなく閉館 2022

1968年に東京・神保町に開館した岩波ホールは,世界各国の映画を紹介する歴史ある名画座だったが,コロナ禍による経営悪化で2022年に閉館となった。その一方で同年には下北沢にシモキタエキマエシネマK2,清澄白河に新たなミニシアターstrangerが開館した。1980年代からの文化を引き継ぎつつ,新しい映画館と映画文化を生み出す試みが始まっている。
新型コロナウイルスの感染拡大と映画館の営業自粛は,とくに経営基盤が脆弱だったミニシアターに深刻な被害をもたらした。有志の呼びかけ人,賛同者によりはじめられた「SAVE the CINEMA」プロジェクトは,change.orgによって集められた署名とともに,政府や関係省庁へミニシアター支援のための要望書を提出。連携団体であるミニシアター・エイド基金は大規模なクラウドファンディングを行った。
再生のはじまり|Netflix 60秒CM(2020年)

映画館が苦境に陥るなか,NetflixやアマゾンプライムビデオなどSVODの契約者数は増加し,2021年にNetflixは過去最高の売上高を記録,同年に配信された韓国ドラマ「イカゲーム」も過去最高の視聴回数を記録した。NetflixのCM「再生のはじまり」は,世界のすべてが止まったかに見えたコロナ禍において,止まることない人間の想像力とエンターテインメントの再生を訴えた。実際,外出が制限されていた孤独な時間の多くを,SVODでドラマや映画を見ることに費やしていた人は少なくない。
【メガヒットの誕生】→p.297
2020年の映画興行収入 コロナの影響で過去最低の1432億円

『鬼滅の刃』興行収入324億円超 「千と千尋」抜き歴代1位に【Nスタ】(2020年12月28日)

増加傾向にあった映画の興行収入は,コロナ禍の2020年に新作映画の公開や製作の中止,緊急事態宣言での映画館の営業自粛が相次ぎ,過去最低を記録した。一方,緊急事態宣言とまん延防止措置が解除された10月に公開された劇場版『鬼滅の刃』は歴代1位の興行収入を達成する。作品の人気や公開のタイミングに加え,コロナ禍で製作を継続できたアニメーションと,軒並み中止や自粛に追い込まれた実写映画との間で明暗が分かれた結果となった。
【オンラインライブの展開】→p.299
ポカリスエット新CM『NEO合唱』(2020年)

コロナ禍により卒業式や入学式など学校行事がことごとく中止された2020年。ポカリスエット「NEO合唱編」のCMは,コロナ禍で集まって歌うことができなくなった時代に,スマートフォンによる自撮りを使って合唱を行う。こうしたリモートによる歌や演奏のさまざまな形式が生まれたことも,コロナ時代の音楽の特徴であった。
嵐 – Love Situation (アラフェス2020 at 国立競技場) [Official Live Video]

嵐は2020年に国立競技場で大規模な無観客配信ライブを開催した。ほとんどのライブが中止に追い込まれていた時期に実施されたこのオンラインライブの総視聴数は1千万回を超えたともいわれ,通常のライブツアーで収容可能な人数をはるかに超える参加者と収益を達成している。映像では今となっては奇妙な広大な会場での無観客でのライブの様子が記録されている。
Behind The Scenes – Perfume Imaginary Museum “Time Warp”(2020年)

2020年の東京ドーム公演最終日を中止せざるを得なかったPerfumeは,オンライン配信パフォーマンス「Time Warp」を行い,仮想世界のみでのライブの可能性を追求した。Behind the Sceneではオンラインライブに使用されている技術や,これまでの公演で行ってきた試みとの関係が解説されている。
サカナクション / ショック! -Music Live Video-(2020年)

サカナクションはコロナ禍での経験を踏まえて,オンラインと実際のライブとを横断するプロジェクト「アダプト」を開催する。巨大な舞台装置を設置し,音楽だけにとどまらず,演劇と音楽,パフォーマンスと配信,映像表現を総合するような新たなライブの形式が模索された。『ショック!』のMVは実際に行われた配信ライブの映像をそのままMVにしている。
【オンライン化と失われた日常】→p.301
THE SCOTTS, Travis Scott, Kid Cudi – THE SCOTTS (FORTNITE ASTRONOMICAL EVENT)(2020年)

トラヴィス・スコットはオンラインゲーム「フォートナイト」でライブ「Astronomical」を開催した。ゲーム空間で参加者は自分のアバターを操作し移動しながら,次々と変わる世界のなかでライブを体験する。こうした双方向的な操作性も,ゲーム空間ならではのライブ経験といえるだろう。
あつまれ どうぶつの森 [E3 2019 出展映像](Nintedo Direct,2019年)

『あつまれ どうぶつの森』のようなコミュニケーション指向のソーシャルゲームは,コロナ禍で失われた日常生活や他者との気軽なコミュニケーションを代替する役割を果たしたといわれる。ウイルスが猛威をふるったステイホーム期間中にゲームの世界に退避し,移住先の無人島で動物たちとののんびりした生活にのめり込んでいった人も少なくない。また集会が制限される中で,年中行事やライフイベントをソーシャルゲームで開催することも行われた。
【バーチャルシティの構築】→p.302
THE SKY IS THE LIMIT/足利スクランブルシティスタジオ

株式会社ギークピクチュアズは,実在の場所を360度CGによって再現する「デジタル・リアリティ・ロケーション」を提供し,バーチャルプロダクションなどで利用可能にした。また2020年に渋谷スクランブル交差点を再現した足利スクランブルシティスタジオを開設し,バーチャルプロダクションと組み合わせることで,これまで撮影困難だったシチュエーションでの撮影を可能にした。
BiSH / スーパーヒーローミュージック [OFFiCiAL ViDEO] (2020年)

乃木坂46 『Wilderness world』(2021年)

『今際の国のアリス』メイキング映像(2020年)

BiSHの「スーパーヒーローミュージック」と乃木坂46の『Wilderness world』のMVは上述の足利スクランブルシティスタジオでの撮影とバーチャルプロダクションを組み合わせて制作されている。こうしたバーチャルプロダクションの本格的な応用も,コロナ禍の撮影困難な状況でよりいっそう進んだ技術の1つといえるだろう。ネットフリックスオリジナル『今際の国のアリス』の渋谷のシーンも同様に撮影された。
about Virtual Shibuya/バーチャル渋谷紹介動画(2021年)

バーチャル渋谷 au5G ハロウィーンフェス(2021年)

KDDI,渋谷未来デザイン,渋谷区観光協会を中心とする「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」は,2020 年 5 月に渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」を立ち上げた。20年にはコロナ禍で開催できなくなったハロウィンなどのイベントはこの仮想空間の中で行われることになる。感染者数が落ち着いた22年には,2年ぶりに制限なしで渋谷ハロウィンが開催され,海外からの旅行客を含む多くの人々が集まった。
【ロスト・イン・パンデミック】→p.303
BTS – “Permission to Dance” performed at the United Nations General Assembly | SDGs | Official Video(2021年)

2021年にBTSは「未来の世代と文化のための大統領特使」に任命され,国連総会でスピーチを行った。BTSは,コロナで失われたものに対する哀悼が必要だとしたうえで,いまの10代20代は「コロナ・ロスト・ジェネレーション」ではなく,「ウェルカム・ジェネレーション」だと呼びかけている。これからの変化に怖気づくのではなく,変化を歓迎し,これからを歩いていく世代だからだ。国連議場で行われた「Permission to Dance」のライブでは,自由に踊ることができなくなった時代を超えて,もう一度踊り続けることを「踊ることに許可はいらない」という歌詞に託して歌っている。
カロリーメイト web movie | 「入学から,この世界だった僕たちへ。」篇 (Full Ver.)(2022年)

『#青春タイムトリップ』| Vaundy×ドコモ 青春応援ムービー(2023年)

パンデミックの長期化と先の見えない行動制限の日々は,日常生活の細部にまで,見えない領域にまでさまざまな変化をもたらした。気づけば常にマスクで覆われた非日常の世界のほうが,日常にすり替わっていった。2022年にはパンデミックは3年目に入り,この間に中学や高校生活のほとんどをコロナ禍の制限のなかで過ごした世代が生まれた。「自分たちにはコロナのない学生時代がないのではない,コロナ禍で過ごした学生時代があるのだ」この言葉が切実に響く世代が,20年代以降の文化を形作っていくことになる。
WHOテドロス事務局長 パンデミック「終息視野に」(2022年9月15日)

2022年9月にWHOのテドロス・アダノム事務局長は,全世界での死者数が20年3月以来最低になったことを受け,新型コロナウイルスのパンデミックが終息が視野に入ったと宣言した。日本でも旅行やイベントなどの制限が緩和され,徐々に平常化に向かっていく。しかしながら,そもそも何をもって「終息」したといえるか,その基準は明確ではない。今回のパンデミックとその影響の全貌が見通せるようになるまでには,まだ長い時間が必要となるだろう。
新規感染者数と死者数の推移(2022年9月15日まで)
【PLAYBACK:感染拡大初期 2020年前半を時系列で振り返る】
中国で原因不明のウイルス性肺炎が・・・当局はSARS否定(2020年1月6日)

武漢市で発見された「原因不明のウイルス性肺炎」は,当初,2003年頃に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の病原であるSARSコロナウイルス(SARS-CoV)によるものではないかと疑われた。しかし20年1月にWHOは今回の感染拡大の病原はSARS-CoVとは異なる新型の2019-nCoVによるものと暫定的に命名し,2月に国際ウイルス分類委員会はその正式名称をSARS-CoV-2と定めた。名称からもわかるように,新型コロナウイルスは,SARS-CoVやMARS-CoVと同じコロナウイルス科に属する多数のウイルスのうちの1つである。
新型コロナ WHO“パンデミック”表明(2020年3月12日)

「パンデミックが加速している」わずか4日で10万人(2020年3月24日)

2020年3月11日にWHOは新型コロナウイルスの感染拡大はパンデミックであると表明した。この時点で全世界の感染者数は約12万人であった。3月23日にWHOは,新型コロナウィルスの最初の感染者数が10万人に達するまでに2ヶ月以上かかったのに対し,直近の10万人はわずか4日間で増加したと指摘した。世界中での急速な感染拡大を受け,この頃から東京オリンピックの開催是非が本格的に議論されるようになる。
安倍総理 7都府県に緊急事態を宣言 ノーカット(2020年4月7日)

2020年4月7日には感染の急速な拡大と医療体制の切迫により,日本でも「緊急事態宣言」が発出された。海外の各国で実施されたような強硬な都市封鎖ではなく,社会経済活動をなるべく維持しながら,外出自粛要請と個々人の努力による行動変容が求められた。この曖昧とも柔軟ともいえる政府の対処方針は,激しい賛否両論の意見に晒されることになる。
新型コロナウイルスの6カ月 「パンデミックは加速」(2020年6月27日)

BBCがまとめた新型コロナウィルス感染拡大初期の6ヶ月の記録。当初,感染の中心となった中国・武漢市からアジア諸国,欧州,南北アメリカ,そして世界中へと瞬く間に感染が拡大した。2020年4月には世界の死者数は10万人,6月には40万人を超えた。世界同時的な危機のさなかで,各国政府の対応の違いや,行動制限やワクチン接種に対する個々の見解の相違があぶり出されることになった。WHOのアダノム事務局長は20年6月の時点で,今回のパンデミックの影響は今後何十年も続くだろうと述べている。
参考文献
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