Chapter structure
Quiz
Q2.1 Googleが設立されたのはいつか。
a. 1981年 b. 1998年 c. 2005年 d. 2012年
Q2.2 2019年に排出された世界の電子廃棄物の総重量は次のどれか。
a. 5.3万トン b. 53万トン c. 530万トン d. 5300万トン
Q2.3 iPhone 12 Proに使用されている鉱物・資源を次のなかからすべて選択すること。
a. プラスチック b. タングステン c. スズ d. レアアース(希土類元素)
関連資料
1 ソフトウェアスタディーズ
【ソフトウェア時代のメディア】→p.26
This is the new Google Earth (2017年)

3D表示機能を強化した2017年の新しいGoogle EarthのCM。Google Earthは日々刻々と更新され,わたしたちは常に新しい地球の眺めを経験する。2016年にはGoogle Earth VRの機能が追加された。Google Earthの開発は単なる地図や地球儀のソフトウェア化ではなく,新しいメディア・ハイブリッドの創造であり,さまざまな機能を追加しながら,次第にもう1つのバーチャルな地球の構築に向かっているように見える。
Exploring Timelapse in Google Earth (2021年)

2021年には,1984年から現在までの地球の変化をGoogle Earthで観察することができるTimelapseの機能が追加された。過去37年間に撮影された2400万枚の衛星写真を使い,地球の経年変化を観察することができる。Google Earthは3Dから時間軸を加えた4Dに進化し,変化し続ける地球の姿を記録するタイムマシンのように機能している。絶えず変化するハイブリッド・メディアとしてのGoogle Earthは,もはや地球のシミュレーション以上の何ものかになっているといえるだろう。Timelapseは,NASAとアメリカ地質調査所のランドサットプログラム,EUのコペルニクスプログラムなどとの共同開発の成果であり,今後10年間毎年新しい画像が追加されていく予定だという。
Google Earth Engine: A planetary-scale platform for Earth science data & analysis
Google Timelapseは2010年からはじまったGoogle Earth Engineのプロジェクトから生まれた。Earth Engineは40年分の衛星画像と降水量など600の気候データ,観測データを組み合わせて分析可能なプラットフォームで,気候変動など惑星規模の課題解決と発見のためのツールを提供することを目的としている。
Meet Earth Engine

The World is Your Canvas | Adobe Photoshop (2021年)

Illustrating Your Imagination | Adobe Photoshop (2021年)

Set Your Imagination Free – Illustrator is Now on the iPad | Adobe Creative Cloud (2020年)

ソフトウェアがつくりだす新しい創造性。コンピュータの開発は軍事技術から始まり,その応用の方向性として,企業向けの効率的な計算機械としての開発が,もう一方で個人向けのコミュニケーションや創造を支援する機械としての開発があったといえる。後者の方向性を体現していたのがアラン・ケイによるダイナブック構想であった。ケイが構想したパーソナルコンピュータが実現し,さらにはスマートフォンを手にした私たちは,ソフトウェアが生み出す新しい創造性をどのように拡張していくことができるだろうか。
【検索とリコメンデーション機能】→p.29
How Google Search Works (in 5 minutes)

検索のアルゴリズムがどのように機能しているかを,Google自身が解説した動画。ページ間のリンクの構造によって信頼性を測定し,ユーザーの検索履歴や位置情報,ページの更新日など何百もの要素を組み合わせて検索結果のランキングを行なっている。こうしたアルゴリズムによる検索ランクの自動化は,何億ものページから必要な情報を見つけ出すために不可欠なものだが,その一方であくまでGoogleのランクは可能性の1つであり,そこから除外され見えにくくなっているページが膨大にあることも忘れてはならない。
Entertainment. Now on TikTok. (TikTok UK,2021年)

人類のエンターテインメントの歴史を1分にまとめ,その先にTikTokを位置づけるCM。石器時代の昔から,音楽,演劇,映画,アニメーションとさまざまな形式で人々はエンターテインメントを求め,楽しんできた。その「いま」の形態こそがTikTokであるというわけである。
Meet Your X きみが次に好きなもの篇 (2020年)

TikTokは多彩な動画によって,何気ない日常を面白いものに変えてくれる。その一方で,TikTok(のアルゴリズム)は次々とおすすめの動画を表示することで,「きみが次に好きなもの」を予測し表示し,作りだす。わたしたちはTikTokを使うことで,TikTokとともに,未来の自分の嗜好を創り出しているといえるだろう。そのときはたして,私たちは未来を選んでいるのだろうか,それとも選ばされているのだろうか。
How TikTok’s Algorithm Figures You Out | WSJ(2021年)

TikTokは最も急速に成長したSNSとなったが,その基盤となっているのはByteDance社によって開発された強力なアルゴリズムである。TikTokで再生される動画の90-95%はアルゴリズムによって自動的に提示されている。WSJはbotを使った実験により,いかにTikTokがユーザーを特定の沼にはめて動画の視聴を止められなくするかを明らかにしている。解説でも指摘されているとおり,そのとき表示されるのは,私たちが本当に好きな動画ではなく,私たちが最も反応しやすく,プラットフォームにとどまる可能性が高い動画であり,それはしばしば極端で偏った底なし沼を形成している。
【個人情報の保護とアルゴリズムの規制】→p.32
The problem with banning TikTok(2020年)

多くのソーシャルメディアはユーザー同士のweb上の関係(ソーシャルグラフ)に基づき表示するコンテンツを決定している。これに対しTikTokはユーザーの関心・嗜好を精密に測定してそれに近いコンテンツを表示する(インタレストグラフ)。TikTokは最も早くユーザー数10億人を獲得したソーシャルメディアになったが,多くの国で安全保障上の懸念を引き起こすことになった。それは,オープンで自由なインターネットという理念を守ることができるか,というより大きな問いを喚起している。
EP000: Operation Aurora | HACKING GOOGLE(2022年)

きわめて高度できわめて複雑なシステムとなった現在のコンピュータとインターネットの仕組みを理解し,企業や政府によってブラックボックス化された内部構造を見るためには,究極的には人はハッカーになる,あるいはハッカーと同等の能力を得る必要があるといえるかもしれない。Googleが説明するように,ハッカーを止めることができる唯一の方法はハッカーのように考えることなのだ。「Hacking Google」は2009年に起きたGoogleへの大規模なハッキングの事例を通じて,現在のサイバーセキュリティと安全保障の問題を考えさせる。
Privacy on iPhone | Data Auction | Apple(2022年)

スマートフォンを使用するたびに個人データが広告の表示やサービスの活用のために取引されている(データオークション)ことを,ドラマ仕立てで描き出したAppleのCM。実際にはアルゴリズムによって自動化されたプロセスが,擬人化されることで理解しやすいように表現されている。
2 デジタルメディアの物質性
【メディアとインフラの物質性】→p.33
How Does the Internet Work? – Glad You Asked S1(2020年)

インターネットはどのように動いているのだろうか。多くの人は,インターネットはバーチャルな存在だと考えがちである。しかし実際のインターネットは非常に物理的な存在でもある。海底ケーブルやデータセンター,衛星や基地局などの物理的なインフラが複雑に組み合わされて初めて,インターネットは機能する。これほどまでに身近で,日常的な存在にもかかわらず,その実際の仕組みはブラックボックス化しており,私たちはごくわずかなことしか知らない。
TeleGeographyが提供しているデータをもとに,現在敷設されている海底ケーブルのネットワークを視覚化したマップ。日本も太平洋を横断する海底ケーブルの結節点の1つになっていることがわかる。
How The Internet Travels Across Oceans(2021年)

インターネット・トラフィックの99%は海底ケーブルを経由していると言われている。TECH VISIONの動画は,わたしたちの生活を成り立たせている重要なインフラであるにもかかわらず,普段意識されていない海底ケーブルの実態を伝える。現在では私たちの生活とそれを支えるメディア・インフラ,地球環境,さまざまな生物の織りなす生態系とが互いに不可分になっているのだ。あなたのネット接続が不安定になったとしたら,どこかの海底でケーブルがサメに襲われているかもしれない。
【クラウドとデータセンター】→p.35
Inside a Google data center(2014年)

インターネットの頭脳であり,エンジンであり,大量のコンピュータと電力,冷却装置を備えた巨大な建物であるGoogleデータセンターの内部の紹介動画。社員のうちでもごく限られた者しか入ることができないその建物は,世界中にあるデータセンターのネットワークの一部に過ぎない。現在ではデータセンターの建設自体が巨大なビジネスとなっており,またデータの保護やセキュリティの問題は一企業を超えた国家間の安全保障上の課題となっている。
Inside Amazon’s Massive Data Center(2021年)

謎に包まれたAmazonのデータセンターの内部の解説動画。現在ではAmazonのクラウドサービスであるAWSは企業全体の利益の6割を占めているとされる。AWSを支えるデータセンターの運営はAmazonにとっても年々重要性を増しており,きわめて厳しいセキュリティのほか,サーバーやそのための電子回路も内製し,独自の海底ケーブルを敷設するだけでなく,自社で変電所を開発することで最も効率のよいシステムを構築している。
Amazon Fulfillment Center Video Tour (2021年)

Amazon Fulfillment Center Tour with AWS (2021年)

Amazonの巨大配送センターであるフルフィルメントセンターの紹介動画。スタジアムや空港と同じ規模の巨大な倉庫は,人間と機械とロボット,そして機械学習が組み合わされたシステムによって機能している。その仕組みはきわめて精緻で効率的であるとともに,そこで働く人々の不安定で危険な労働環境がしばしば問題になっている。
【メディアの物質性と地球環境】→p.37
What’s In Your Apple iPhone

iPhone 12 Pro Teardown: 5G Comes at a Cost (2020年)

iPhoneのデザインは,Apple本社があるカリフォルニアで設計されている。しかしそれを構成する無数の素材や部品は世界中(40カ国以上)から集められており,そのためにきわめて複雑なサプライチェーンが構築されている。CNBCの動画ではiPhoneの部品が世界中から集められる過程を,iFixitの動画ではiPhone 12 Proの分解の過程と内部の仕組みを見ることができる。
What Does Apple Do With Old iPhones? (2021年)

古くなったiPhoneはどうなるのか? Appleは回収したiPhoneのうちまだ使えるものをメンテナンスした後,新興国で再販売している。また修理不能なiPhoneはデイジーと呼ばれる分解ロボットによって解体され,鉱物資源が抽出され,使用可能な無傷の部品は再利用される。またアルミニウムなど一部の素材は,新製品の原材料にリサイクルされる。古いiPhoneからさまざまな形で新たな価値を引き出そうとしているのだ。
【メディアと持続可能性】→p.40
Every product carbon neutral by 2030 | Apple

Apple 環境への取り組み
2021年にAppleは,30年までに,世界中のすべての製品を,設計から製造,出荷,使用,リサイクルまで含めて,カーボンニュートラルにすることを宣言した。iPhoneがレアメタルを含む鉱物資源に依存し,産業廃棄物の環境負荷が問題になっていたことへの対応を進めている。
【新しいメディア研究の課題】→p.42
Apple: Racial Equity and Justice Initiative(REJI)人種的公正と正義のためのイニシアティブ
Appleの人種的公正のための取り組みについては上記のウェブサイトに詳細が記載されている。メディア技術によって一時代を築いたビッグテックが,それが生み出した問題を自身の取り組みによって解決することができるか,それともまた別の対策が必要なのか問われている。
Diversità e inclusione | Apple(2021年)

「かつてないほど多様化した新世代のApple」が今後どこへ向かうか。型破りな創業者スティーブ・ジョブズの名前とともに語られ続けてきたAppleの次の段階は,超人的な個人ではなく,ダイバーシティと地球環境への地道な取り組みによってもたらされるといえるのかもしれない。
Shenzhen: The Silicon Valley of Hardware (Full Documentary) | Future Cities(2016年)

Inside Apple’s iPhone Factory In China(2021年)

中国広東省の深圳(シンセン)は,多くの企業の下請け工場や部品工場が立地し「世界の工場」と呼ばれてきたが,2010年代後半には生産の高度化と研究開発拠点の集積により「ハードウェアのシリコンバレー」と呼ばれるようになった。またiPhoneの半数は台湾企業の富士康(FOXCONN)の工場がある河南省鄭州市で製造されているといわれる。しかしその製造過程の多くは単純作業の繰り返しで,長時間労働や児童労働,工場労働者の自殺の問題が指摘されている。申し立てを受けてAppleは実態の調査と労働環境の改善を進めている。
Ryuichi Sakamoto + Daito Manabe “Sensing Streams”(2015年)

坂本龍一と真鍋大度による「センシング・ストリームズ--不可視、不可聴」は,人間が知覚できない電磁波をセンサーで感知し,可視化,可聴化する作品である。札幌の地下街であらかじめ記録された電磁波だけでなく,モエレ沼公園会場内の人々がスマートフォンを操作することで放射された電磁波が,リアルタイムで映像と音響を変化させていく。この作品は,わたしたちの社会生活の見えないインフラであり生態系の一部となった電磁波を可視化・可聴化する試みだといえるだろう。札幌国際芸術祭2014出品作品。
参考文献
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- 北野圭介編,2018,『マテリアル・セオリーズ――新たなる唯物論にむけて』人文書院
- マノヴィッチ,レフ,2013,堀潤之訳『ニューメディアの言語――デジタル時代のアート,デザイン,映画』みすず書房
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- マノヴィッチ,レフ,2014,大山真司訳「カルチュラル・ソフトウェアの発明─―アラン・ケイのユニバーサル・メディア・マシン」伊藤守・毛利嘉孝編『アフター・テレビジョン・スタディーズ』せりか書房
- マノヴィッチ,レフほか,2018,久保田晃弘・きりとりめでる訳・編著『インスタグラムと現代視覚文化論――レフ・マノヴィッチのカルチュラル・アナリティクスをめぐって』ビー・エヌ・エヌ新社
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