◎刑事訴訟法の一部改正(令和5・5・17法28)
1 公判期日等への出頭及び裁判の執行を確保するための規定の整備
(1) 公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設
保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が,召喚を受け正当な理由がなく公判期日に出頭しないときは,2年以下の拘禁刑に処することとした。(278条の2関係)
(2) 保釈又は勾留の執行停止をされている被告人の監督者制度の創設
裁判所は,保釈を許し,又は勾留の執行停止をする場合において,必要と認めるときは,適当と認める者を,その同意を得て監督者として選任することができることとし,監督者の責務,監督者が解任された場合における監督保証金の没取及び保釈等の取消し等に関して定めることとした。(98条の4,98条の8,98条の9等関係)
(3) 位置測定端末により保釈されている被告人の位置情報を取得する制度の創設
① 裁判所は,保釈を許す場合において,被告人が国外に逃亡することを防止するため,その位置及び当該位置に係る時刻を把握する必要があると認めるときは,被告人に対し,位置測定端末(人の身体に装着されるGPS端末)をその身体に装着することを命ずることができることとした。(98条の12第1項関係)
② 裁判所は,①による命令(位置測定端末装着命令)をするときは,飛行場又は港湾施設の周辺の区域その他の位置測定端末装着命令を受けた者が本邦から出国する際に立ち入ることとなる区域であって,当該者が所在してはならない区域(所在禁止区域)を定めることとした。(98条の12第2項関係)
③ 位置測定端末装着命令を受けた被告人が,裁判所の許可を受けないで,正当な理由がなく,所在禁止区域内に所在した場合等における保釈の取消し及び保証金の没取に関して定めることとした。(98条の18関係)
④ 裁判所は,位置測定端末装着命令を受けた被告人について,端末位置情報(位置測定端末の位置・時刻に関する情報)を表示して閲覧することができる機能等を有する電気通信設備において位置測定端末が所在禁止区域内に所在することの発生を確認したとき等に該当すると認めるときは,当該被告人を勾引することができることとし,ただし,明らかに勾引の必要がないと認めるときは,この限りでないこととした。(98条の19関係)
⑤ 裁判所,検察官,検察事務官又は司法警察職員等が端末位置情報を表示して閲覧することができる場合を定め,それ以外の場合には,端末位置情報の閲覧は,してはならないこととした。(98条の20,98条の22等関係)
(4) 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者等に係る出国制限制度の創設
拘禁刑以上の刑に処する判決(拘禁刑の全部の執行猶予の言渡しをしないものに限る。)の宣告を受けた者は,裁判所の許可を受けなければ本邦から出国してはならないこととし,許可を受けないで本邦から出国したとき等における保釈の取消し等及び保証金の没取に関して定めることとした。(342条の2及び342条の8関係)
2 犯罪被害者等の情報を保護するための規定の整備
(1) 逮捕手続における個人特定事項の秘匿措置
次に掲げる者の個人特定事項(氏名及び住所等、個人を特定させる事項)について,当該個人特定事項の記載がない逮捕状の抄本その他の逮捕状に代わるものを被疑者に示す措置をとることができる場合等を定めることとした。(201条の2関係)
① 次に掲げる事件の被害者
イ 刑法176条から179条まで又は181条の罪等に係る事件
ロ イに掲げる事件のほか,犯行の態様,被害の状況その他の事情により,被害者の個人特定事項が被疑者に知られることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるなどのおそれがあると認められる事件
② ①に掲げる者のほか,個人特定事項が被疑者に知られることにより名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるなどのおそれがあると認められる者
(2) 勾留手続における個人特定事項の秘匿措置
① (1)①又は②に掲げる者の個人特定事項について,当該個人特定事項の記載がない勾留状の抄本その他の勾留状に代わるものを被疑者に示す措置をとることができる場合等を定めることとした。(207条の2等関係)
② 裁判官は,被疑者の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるとき等に該当すると認めるときは,被疑者又は弁護人の請求により,①の措置に係る個人特定事項の全部又は一部を被疑者に通知する旨の裁判をしなければならないこととした。(207条の3関係)
(3) 起訴状における個人特定事項の秘匿措置
① 起訴状に記載された(1)①又は②に掲げる者と同様の者の個人特定事項について,当該個人特定事項の記載がない起訴状の抄本その他の起訴状の謄本に代わるもの(起訴状抄本等)を被告人に送達するとともに,弁護人に対し,起訴状に記載された個人特定事項のうち起訴状抄本等に記載がないものを被告人に知らせてはならない旨の条件を付して起訴状の謄本を送達する措置又は起訴状抄本等を送達する措置をとることができる場合等を定めることとした。(271条の2,271条の3等関係)
② 裁判所は,被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるとき等に該当すると認めるときは,被告人又は弁護人の請求により,①の措置に係る個人特定事項の全部又は一部を被告人に通知する旨の決定又は当該個人特定事項を被告人に知らせてはならない旨の条件を付して当該個人特定事項の全部又は一部を弁護人に通知する旨の決定をしなければならないこととした。(271条の5関係)
1(1)の改正は令和5年11月15日(令和5・11・10政320)に,2の改正は令和6年2月15日(令和5・11・10政320)に,1(2)の改正は令和6年5月15日(令和6・4・12政170)に,1(4)の改正は令和7年5月15日施行(令和7・4・11政176),1(3)の改正は令和10年5月16日までに施行される。
*この改正に伴い,刑法,民事訴訟法,非訟事件手続法,少年法等が改正された。