◆別冊の読み方・使い方
~現行の法律ではありません~
ポケット六法買ったら,緑色の冊子が付いてきたけれど,これは一体どう使うのかと思った方もいらっしゃることと存じます。
表紙に民法改正案,刑事訴訟法改正案と書いてありますとおり,あくまで「改正案」であり,現行法ではありません。
このように聞くと「法律を調べるための六法なのに,現行法でもないものを別冊にして付けてくるなんて,なんとも紛らわしい,けしからん。」とお怒りになる方もいらっしゃるかもしれませんが,その前にもう少しご辛抱いただき,おつきあいいただければと思います。
~なぜ掲載されているか~
別冊の表紙をめくっていただくと「まえがき」がございます。
そこには,「9月に閉会した第189回国会(通常国会)において継続審査となった法律案のうち、「民法の一部を改正する法律案(債権関係)」「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(取調べの可視化・司法取引の導入等)」による改正規定を織り込んだ民法と刑事訴訟法を別冊にまとめました」などと記載されていますが,平たく簡素に言い換えますと「昨年(2015年)の通常国会では成立しなかった改正案だけれども,今年の通常国会でも審査する=成立する可能性が残されていて,民法と刑事訴訟法という主要な法律の改正案なので,掲載しました」ということです。
つまり,ポケット六法刊行時点(2015年10月時点)で,刊行後に重大な改正が入るおそれがあったため,その場合にも備え,別冊として,改正後の規定を掲げたのです。
~その後の状況~
ここで「えーっと,では結局その後,今年の国会でその民法と刑事訴訟法の改正案は成立したのでしょうか(あるいは,改正案は成立するのでしょうか)」ということが気になると思います。
残念ながら,2016年4月末現在では,上記2つの改正案とも成立までには至っていません(報道などによりますと,刑事訴訟法の改正案は今年の通常国会で成立するのではないかとする見立てもありますが,国会運営は政治に左右されるため,確実なことは言えないというのが現状です。2016年6月追記:刑事訴訟法の改正案について5月24日に衆議院本会議にて可決,成立。6月3日付けの官報にて法律第54号として公布されました。民法の改正案については衆議院にて閉会中審査とされています)。
~結局,どう使うとよいのか~
この別冊の改正案は未だ成立していませんので,特別今すぐ役にたつものではないかもしれません。
ただ,「改正案」があるということは,現行法を修正しようという動きがあるということです。
なぜ改正しなければならないのか,どういった趣旨で新たな規定を定めようとしているのか,この別冊に掲載されている改正後の規定(民法で第○条の横に傍線が引いてあるもの)をパラパラと眺めながら,現行法の問題点を探ってみると逆に現行法への理解が深まるかもしれません。
また,さらに勉強を進めたい方向けですが,参照条文が現行法と比べどのように変化するかを調べてみると,体系的な学習に役立つかも知れません。(※民法のような主要法律を改正するときには,民法の規定の引用をするものや民法の例外規定を定める他の法律も改正する必要が出てくるときがあります。そのようなときには,「民法そのものの改正案」だけでなく,「整備法」という形で,「多数の関係法律を改正する改正案」も同時に国会に提出され,審議されます。今回の別冊民法の参照条文は,民法改正に伴う整備法による改正を反映しているので,現行法とは異なります)。
何にせよ,「へえ,民法と刑事訴訟法は,将来改正される可能性があるのだな~」くらい気楽にご覧いただければ幸いです(2016年6月追記:刑事訴訟法の改正案について5月24日に衆議院本会議にて可決,成立。6月3日付けの官報にて法律第54号として公布されました。民法の改正案については衆議院にて閉会中審査とされています)。

