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『金融のエッセンス』学習・読書ガイド

本書を読んで,もっと金融のことを学びたくなった人のための学習・文献ガイドです。
種類とテーマごとにまとめて案内します。

1.インターネット上での学習資料

インターネットでさまざまな情報が簡単に入手できる時代になりました。金融に関する知識を深めるためのサイトもありますので,大いに活用しましょう。

金融広報中央委員会 知るぽると
このサイトは子どもからお年寄りまで金融について知りたい人,学びたい人向けにさまざまな情報を提供しています。本書よりもさらに基礎的なことを深く知りたいという人はこちらのページの情報が役に立いつでしょう。
日本銀行
日本の中央銀行である日本銀行のサイトです。難しい金融用語も散見されますが,金融に関する統計などはこちらのサイトから入手できます。
財務省
財務省は国の財政(お金のやりくり)を担当する行政機関です。国債の発行や金融システムの危機管理に関する情報はこちらのサイトから入手できます。
東京証券取引所
証券の発行と流通する市場を運営する組織で,それ自体が株式会社です。証券市場で売買されている企業の情報や証券の価格の情報などが提供されています。
子ども向けの学習サイトも提供されています(→こちら)。

この他,銀行のサイトや金融情報のサイトもあります。わからない言葉もネットで検索すれば多くの情報が得られますが,インターネット上には曖昧な情報や不正確な情報もありますので,情報を鵜呑みにしないように注意しましょう。

2.読書ガイド

①金融全般について

金融の基本的な仕組みや制度についての標準的なテキストを紹介します。本書ではいわゆるマクロ経済学的な金融の仕組みについての議論を扱っていませんが,政府の金融政策などを理解したい皆さんは下記のテキストが頼りになるでしょう。

(1) 本書と同レベル
岩田規久男(2008)『テキストブック金融入門』東洋経済新報社。
平易な説明で金融の仕組みや金融政策について書かれています。本書では,マクロ政策については,ほとんど触れていませんが,デフレ対策やマクロ経済政策としての金融政策の役割が丁寧に記述されています。
(2) 本書の次に読む中級レベル
清水克俊(2008)『金融論入門』新世社。
数学に苦手意識がない人にはスッキリと読めるテキストです。
村瀬英彰(2006)『金融論』日本評論社。
金融システムの仕組みについて,本書よりもさらに詳しく書かれています。中~上級レベルです。本書と同じく,マクロ経済学的な議論は含まれていません。
(3) 上級レベル
福田慎一(2013)『金融論――市場と経済政策の有効性』有斐閣。
本書よりも高度な内容を扱っています。とくに,マクロ経済政策としての金融政策について多くの内容を含んでいます。
以下の2つは,伊藤元重・西村和雄編『応用ミクロ経済学』(東京大学出版会)という本の中にある2つの章です。いずれも情報の非対称性の視点から金融システムの仕組みや課題をまとめた優れた学術論文となっています。大学院レベルを目指す読者には一読をお勧めします。
  • 池尾和人(1989)「金融――金融仲介理論の新展開」
  • 倉沢資成(1989)「証券――企業金融理論とエイジェンシー・アプローチ」

②ファイナンス理論

本書の中で紹介した収益率や分散投資などをもっと深く学びたい人には,ファイナンス理論の本がおススメです。

(1) 読み物的に学べる
ピーター・L・バーンスタイン/青山護・山口勝業訳(2006)『証券投資の思想革命――ウォール街を変えたノーベル賞経済学者たち(普及版)』東洋経済新報社。
最新のファイナンス理論は高度に数学的ですが,この文献はほとんど数学を使っていない珍しい文献です。それでいて理論のエッセンスを見事に説明している素晴らしい文献です。
(2) 中級レベルでしっかりと
リチャード・ブリーリー = スチュワート・マイヤーズ=フランクリン・アレン/藤井眞理子・國枝繁樹監訳(2007)『コーポレート・ファイナンス(第8版)』上・下,日経BP社。
株式会社の財務の問題を扱った本ですが,個人投資家にとっても有益なファイナンス理論が丁寧に説明されています。本の厚さに圧倒されますが,練習問題等を自分で解いていくことで,ファイナンス理論の知識は着実に身につきます。

③経済史,経済制度,読み物

本書の中では,歴史的な事例もいくつか紹介しました。金融や経済の視点から歴史を見ると,高校までに学んだ歴史がまた違ってみえてきて面白いものです。また,資本主義という制度そのものについても,金融の視点から考えると違って見えてきます。金融・経済の歴史,資本主義という制度について,もっと知りたいという読者には以下の本がおススメです。

ダロン・アセモグル = ジェイムズ・A・ロビンソン/鬼澤忍訳(2013)『国家はなぜ衰退するのか――権力・繁栄・貧困の起源』(上・下)早川書房。
経済の成長が,経済的自由だけでなく,権力をテェックする司法やさまざまな制度に決定的に依存している点を,世界中の事例を用いて,明らかにしています。
ラグラム・ラジャン = ルイジ・ジンガレス/堀内昭義ほか訳(2006)『セイヴィング キャピタリズム』慶應義塾大学出版会。
資本主義をダイナミックに動かす資本市場や金融市場のメカニズムが,さまざまな歴史的事例を用いて丁寧に記述されています。社会を公平で効率的なものにするためには,既得権を守ろうとする力を,金融市場から排除しなければならないことが,説明されています。
竹森俊平(2008)『資本主義は嫌いですか――それでもマネーは世界を動かす』日本経済新聞出版社。
資本主義社会で,バブルや金融危機がどのようなメカニズムで発生するかについて,説明したうえで,資本主義には,こうした欠点があるにしても,資本主義に代わるべきシステムが存在しない以上,この仕組を上手に使わなければならないことが平易に語られています。

④金融取引の難しさ・不合理な投資家行動・行動ファイナンス

第3部で紹介した金融取引の難しさについてもっと知りたい読者は,以下の文献をおススメします。

池田 新介(2012)『自滅する選択――先延ばしで後悔しないための新しい経済学』東洋経済新報社。
第11章第1節で紹介した自己規律問題に関する研究成果を詳しく,そしてわかりやすく紹介しています。自己規律問題に関心のある読者にはおススメです。
バートン・マルキール/井手正介訳(2011)『ウォール街のランダム・ウォーカー――株式投資の不滅の真理(原著第10版)』日本経済新聞出版社。
この本は1973年に米国で出版されたロングセラーの名著です。改訂によって内容は少しずつ変わっていますが,投資家の不合理さや市場の実態をデータに基づいて客観的かつ丁寧に分析している点がとても新鮮で,世界中の読者の支持を集めています。
角田康夫(2011)『新版 行動ファイナンス』金融財政事情研究会。
行動ファイナンス研究を紹介する本として,2001年に日本で最初に出版された本の増補版。投資家の不合理な判断とそれが引き起こす市場現象をわかりやすく説明してくれています。
ハーシュ・シェフリン/鈴木 一功訳(2005)『行動ファイナンスと投資の心理学――ケースで考える欲望と恐怖の市場行動への影響』東洋経済新報社。
行動ファイナンス研究者によって2002年に書かれた一般向けの入門書の翻訳書。米国での研究事例が詳しく紹介されています。
ジェームス・モンティア/真壁 昭夫監訳(2005)『行動ファイナンスの実践――投資家心理が動かす金融市場を読む』ダイヤモンド社。
筆者の一人(川西)も翻訳に関わった行動ファイナンスの入門書。ファイナンス実務に携わる人間の視点から,行動ファイナンス理論を応用するためのヒントが多く書かれている。
加藤英明(2003)『行動ファイナンス――理論と実証』朝倉書店。
行動ファイナンスの実証研究に長く携わってきた著者による研究者向けの本。データ分析に興味のある読者におススメです。

⑤バブルの本

バブルの歴史については,テキスト223ページに紹介した下記の3つの文献がとても参考になります
バブルのメカニズムについては,次の2つの文献がとても参考になります。
ジョージ・A・アカロフ,ロバート・シラー著/山形 浩生訳(2009)『アニマルスピリット――人間の心理がマクロ経済を動かす』東洋経済新報社。
2人のノーベル賞経済学者,アカロフ(受賞2001年)とシラー(受賞2013年)による一般向けの行動経済学的なマクロ経済学の本です。バブルのメカニズムについても詳しく書かれています。
ロバート・シラー著/植草 一秀監訳(2001)『投機バブル 根拠なき熱狂――アメリカ株式市場,暴落の必然』ダイヤモンド社。
同じくシラーによる一般向けのバブルの本。バブルとその崩壊を予言したと言われる経済学者によるバブルの解説は一読に値します。

⑥国際金融論

本書では為替レートや国際分散投資について少し触れましたが,国債金融についてはほとんど扱っていません。国際間のお金の流れに興味のある読者は国際金融の教科書を読むと良いでしょう。

⑦金融+社会貢献,マイクロファイナンス

本書では最近の金融の流れとして,金融の力で社会的課題を解決しようとする動きについて紹介しました。そうした動きは広くソーシャル・ビジネスと呼ばれています。

ムハマド・ユヌス/猪熊弘子訳(2008)『貧困のない世界を創る――ソーシャル・ビジネスと新しい資本主義』早川書房。
グラミン銀行の創設者でもある経済学者ムハマド・ユヌスがソーシャルビジネスについて書いた本です。新しい経済の動きが見えてきます。
ディーン・カーラン = ジェイコブ・アペル/清川幸美訳(2013)『善意で貧困はなくせるのか?――貧乏人の行動経済学』みすず書房。
社会的課題を解決するために行われたさまざまな実験が紹介されています。ソーシャルビジネスを理解し,新しいビジネスを生むヒントがここにあります。