雑誌で変わる,
法学学習。

 法学教室2019年12月号第2特集「テキスト学習の進め方」では,若手弁護士3名が,学生時代「教科書」「判例学習用教材」「六法」などのテキストをどのように活用しながら夢を叶えていったのかを紹介しています。
 ここでは, 教科書とはちょっと違う「法律雑誌」をテーマに,その3名の先生方に学生時代,日々の学習や司法試験受験の際にどのように活用していたか,現在はどのように使っているか,ざっくばらんにお話いただきました。

  • 松村 彩(まつむら・あや)

    2016年弁護士登録。
    ノースブルー総合法律事務所所属。

  • 辻野真央(つじの・まお)

    2016年弁護士登録。
    長島・大野・常松法律事務所所属。

  • 土田悠太(つちだ・ゆうた)

    2016年弁護士登録。
    東京八丁堀法律事務所所属。

弁護士になってからの「法律雑誌」

(編集部)弁護士になった現在は,学生時代と比べてどのように法律雑誌を使っていますか?

土田 学生時代は演習問題を解く以外は,なんとなく手に取る程度でしたが,今は目的意識をもって利用するようになりました。あるテーマについて,こっちの雑誌ではこう書いてあるけど,あっちの雑誌にはこうかいってある,みたいに読み比べるようになりました。

松村 たしかに。基本的には自分の携わっている事件と似ている判例はないか,この事案の場合だと使える判例は何かっていう目的意識を持って使うことが多いです。たとえば,読みたい判例が載っている『判例時報』や『判例タイムズ』を見て,さらにそこで引用されている法律雑誌などの文献を芋づる式に読んで調べる。学生時代は今の勉強方法をどうしたら良いかな,っていう視点で読んでいたから,そういう意味では,読み方は変わりました。
あとは,例えば,『法学教室2019年8月号』の「〈特集2〉ポケットに労働法」を見ると,ストーリー形式で労働法が解説されていて,実務家になった今読んでも面白いなって思いますね。

辻野 実務家になっても,新しい発見が多いよね。

松村 司法試験の選択科目だと,倒産法なら倒産法だけ,労働法なら労働法だけに絞ってって勉強をすることも多い。働き始めてから,勉強していなかった分野はその都度勉強しているけど,自分が今まであまり学んでこなかった分野を学ぶ時に,法律雑誌を使うのは案外良いかもしれないと思います。

辻野 新しい法分野を学ぶときにやることは,学生のときとそんなに変わらないもんね。

松村 ゼロからのスタートだからね(笑)。

辻野 法律雑誌を使って手軽に,だけど正確な知識を学べるのは,実務家になった今でも変わらないメリットかもしれないよね。

土田 うんうん。

辻野 学生のときも,ゼミでは,雑誌を使いながら文献を芋づる式に調べたりしていたけど,そのときは何でこの規範が成り立っているのか,という目線で調べていました。だけど今は,自分が担当している案件に関して,どういう事実関係が重視されうるか,類似した事案だと裁判所にはどう評価され結論付けされうるのか,という事実関係の部分での境目に着目するようになりました。なので,関連判例ではこんな判断が出されました,という記事が雑誌で詳細に解説されていると,今持っている案件が有利なのか不利なのかっていうのが分かる。学生時代に学んだ事案・判例でも,その見方が変わってきたかもしれないですね。

松村 今まさに自分が担当している案件とは,直接は関係しないとしても,『判例時報』とかの目次だけでも目を通して,最新の判例でこんなのがあるんだとざっと眺めています。時間的に全部は読めないから,気になるものだけ,事案と判旨だけざっと見ることも多いです。

土田 たしかに。うちの事務所でも毎月法律雑誌の目次のコピーは回覧されているから,そこで気になったものを見ていますね。

松村 学生時代のころは,試験の直前に『重要判例解説』を読む以外は,正直最新の判例を常に追っていくという勉強はあまりしなかったです。だけど今は,なるべく最新の判例は網羅しておいたほうがいいなって思って,雑誌は一番手っ取り早く確認できる良い手段だと思います。

辻野 雑誌で取り上げられるレベルの判例なんだって思うと,実務家としても押さえておかなきゃな,っていう意識は強まるよね。

松村 たしかに。これは知っておいたほうがいい!ってなるよね。

土田 あとは,法律が改正されるときは,改正関係の記事が出るから,目次を見て気になるものを読んでいます。

松村 雑誌の目次を見るって,重要だよね。

辻野 授業がない分,自分一人で能動的に学んでいかないといけないからね。時間との兼ね合いで,じっくり学習するのが難しいときに雑誌の目次を見ることって意外と大事なのかもしれない。
…そうは言っても自分一人で能動的に学ぶっていうのは,なかなか難しいところもあるよね。事務所全体で,法律雑誌を使った勉強会とかやってる?

土田 うちの事務所では,月に1回,事務所のイベントとして勉強会があるよ。主に最高裁判例の報告をするという勉強会で,発表者になるときは,法律雑誌の評釈を読み比べたりして,その判例についてどのような見解があるかということを調べて報告してる。

松村 報告を聞いている人から,質問はあったりするの?

土田 先輩の先生から結構質問がある。

松村 じゃあ,ちゃんと勉強しておかないといけないんだ。

辻野 評釈もきちんと読み込んでおかないとね。

土田 そう,準備が大変で。「どの評釈が一番良いか」みたいなことも聞かれるので,いろいろ読み比べている。

辻野 調べている判例に関連する裁判例を見つけるのって,自分でやるのは意外と大変だから,法律雑誌に載っている評釈を読み込むのも大事になってくるよね。

(編集部)今振り返ってみて,学生時代に法律雑誌を「もっとこんなように使っていたら良かったなぁ」ということはありますか?

土田 演習問題が法律雑誌に載っていることを知ったのが,入学してだいぶ経った後だったし,毎月あることも知りませんでした。もっと早くからコツコツと問題を解いておけばよかったのかなと思います。知っていればもっと早く使っていたのに(笑)。

辻野 学生時代は補足的な資料としての位置付け,という印象を持っていませんでした。一歩進んだもの,実務家が読むものって意識が強かったから,初めからもっと自分に慣れ親しみのあるものとして考えてもよかったと思います。

松村 特集に目が行きがちだけど,実は後半のほうにも演習問題とか役立つコラムがたくさんある。特集とか前半のほうだけ一気に読んで満足した気分になってしまうけど,実は最後まで読むと役立つ情報がたくさんあるっていうのをもう少し意識して読めばよかったと思います。

辻野 たしかに,表紙の特集タイトルとかを見て最初は興味を惹かれると思う。とっつきはそれでいいと思うけど,ちゃんと目次を見て,1冊の中にどんな情報が載っているのか,自分に必要な情報は何なのか,ということを考えたうえで読むと良かったかも知れません。

土田 学生時代,「この科目を勉強しなきゃいけない」と思って本屋へいくとき,真っ先に向かうのはその科目の演習書のコーナーだったりして,なかなか法律雑誌を見に行かない。また,雑誌の表紙を見ただけで,これが司法試験の勉強に役立つのかということに,いまいちピンときていなかった面もありました。でも,今振り返ると,テキストより詳しくつっこんだことが書いてあることも多かったし,基本書や演習書を読んだだけでは分からなかったところを雑誌の記事で補うような勉強を最初からしていれば,分からないところを分からないまま進めるんじゃなくて,その都度ちゃんと理解をしたうえで,次のステップに進めることができたのかなって思います。

松村 大学に入学して,六法は持ちましょうとか,基本書はこれを指定します,判例百選はみんな持っていますよ,演習書はこれが良いらしいよ,というのは学生の間でも噂になるし,書店でも宣伝されているけど,法律雑誌って良いよ,というのは大学1年生ではなかなかたどり着けないよね。

土田 誰も教えてくれないよね(笑)。

松村 そう,誰も教えてくれなかった!大学に入学してすぐに法律雑誌の存在を知らなかったのは,すごくもったいなかった。

辻野 そうだね。今では電子書籍としても販売されているし,それだとデータでも持ち運べるから,より身近で便利なものとして読んでいてもよかったと思います。

松村 法律雑誌というと敷居が高いように感じてしまって,勉強が進んでから読むものというイメージを持っている人も多いと思うけど,むしろ初学者ほど使えるのかも知れません。教科書を読んで分からなかった分野を読んでみたり,全部じゃなくても易しい言葉で書かれているところだけに目を通したり,なんか法律の勉強って楽しいかもっていうところからスタートできると,学校の勉強ももっと楽しくなるんじゃないかな。

土田 たしかに,いきなり分厚い基本書から頑張ろうとするから,みんな挫折するわけで…(笑)。

辻野 1頁1頁,はてしない旅を進めるみたいだよね。

土田 それで挫折するよりは,初めに雑誌の記事を少しずつ読みながら,ちょっとずつ理解を深められれば,勉強していても楽しいと思う,絶対。

松村 たしかに。

辻野 もうちょっと法律雑誌が便利だということを宣伝すればいいんじゃないかな(笑)。

松村 勉強法の特集が組まれている雑誌の記事とかを少しずつ読んでから,基本書とか判例百選を読んでみると,理解がより深まるよね。

(編集部)3回にわたって法律雑誌の特徴や学部の定期試験・司法試験の学習においての活用法,学生時代の使い方と弁護士になった現在の使い方との違いなどをお話しいただき,読者の方にも大変参考になったと思います。 法律雑誌を発行する出版社としては,雑誌にはこういう使い方がある,こんな便利な内容がある,ということだけでなく,「そもそも法学を学ぶための雑誌があるんだよ!」と,その存在自体を伝える取り組みを進めていかなければいけないなと強く感じました。 本日は,誠にありがとうございました。

(2019年10月25日収録)

雑誌以外のテキスト学習について,詳しく知りたい人は…

学習が進む,理解が深まる。法学がもっと面白くなる。

法学教室 2019年12月号(No.471)

特集2 「テキスト学習の進め方」

雑誌詳細へ