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連載

家族と刑法――家庭は犯罪の温床か?

第9回 両親が子どもを巡って互いに争うとき その2

立教大学大学院法務研究科教授 深町晋也〔Fukamachi Shinya〕

 

4 前回をふりかえって ――親による子の奪い合いを巡る状況

 前回は、夫婦が別居や離婚に当たって、我が子を自分の手元に置くために互いに争う「我が子の奪い合い」という、我が国でも諸外国でも極めて重要な問題を採り上げた。この問題に関して、我が国においては、家事事件手続法、人身保護法などによる国内法的な対応や、ハーグ条約による国際法上の対応など、民事法上の様々な対応枠組みが構築されている。しかし、こうした民事法上の措置が功を奏しない場合もあり、一方の親が他方の親から子を引離す事例について、刑事法による解決が必要となり得る点を指摘した。そして、諸外国においても、こうした事例について、一定の場合には拐取罪として処罰対象とされていることを見てきた(1)

 それでは、我が国においては、このような事例が拐取罪として処罰されるのであろうか。読者の皆さんにとっても、この点が最も関心が深いところであろう。結論から言えば、一方の親が他方の親から我が子を連れ去る事例についても、一定の場合には拐取罪が成立するとされているが、その具体的な処罰範囲は、実は必ずしも明確ではない。今回は、拐取罪規定についての基本的な理解を踏まえた上で、両親による子の奪い合いと拐取罪の成否について分析を加え、なお残る課題について検討を行いたい。

5 拐取罪とは何か

⑴拐取罪規定の確認

 刑法典は、拐取罪に関する様々な規定を置いている(2)が、本稿との関係で重要となるのは、以下の条文である。

 

第224条 未成年者(3)を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

第225条 営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。

第226条 所在国外に移送する目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、2年以上の有期懲役に処する。

 

 拐取罪には、「略取」及び「誘拐」という行為態様が規定されている。いずれも、被拐取者を現在の生活状況(未成年者の場合には、保護されている環境)から離脱させて、行為者や第三者の事実的支配下に置くことが必要となる。他方で、略取と誘拐とは、手段としては異なる点がある。略取は、暴行・脅迫を手段とする場合を指すのに対して、誘拐は、欺罔・誘惑を手段とする場合を指す(4)。したがって、例えば幼児の手を強く引っ張って自動車に乗せて連れ去るような場合には前者に当たり、幼児に飴玉をあげて手なずけるなどして自動車に乗せて連れ去るような場合には後者に当たることになる。

⑵拐取罪規定の沿革(5)

 拐取罪を巡って本稿で検討すべき課題の多くは、実は明治13年に制定された旧刑法を巡る議論において既に登場していると言って良い。そこで、以下では、拐取罪規定の沿革についてごく簡単に見てみよう。旧刑法では、20歳未満の者のみが拐取罪の保護客体とされており、現在の刑法225条に当たる規定は存在しなかった(6)。その理由としては、20歳以上の者が誘拐されることはなく、また、無理やり略取される場合には逮捕監禁罪が成立するということが挙げられる。

 しかし、旧刑法の拐取罪規定が未成年者のみを客体にしているからといって、その保護法益が未成年者自身の自由といった利益だということには必ずしもならない。というのは、旧刑法の制定経緯や判例・学説を見る限り、その保護法益は未成年の子に対する親の「監督権」と解されており、そうした解釈こそが、未成年の子に対する父又は母の親権(監護権)を規定する旧民法879条にも調和すると考えられたからである。すなわち、未成年の子に対する監護権が保護法益とされるからこそ、旧刑法の拐取罪規定における客体は未成年者に限定されていたと言えよう(7)

 これに対して、現行刑法制定の過程では、成年であっても客体とする規定の新設が早い段階で意識され、それに伴い、拐取罪の保護法益として、(成年・未成年を問わず)人の自由であるとする理解が有力化するに至った。但し、現行刑法224条は、旧刑法341・342条を引き継いだものであり、親の監護権を保護するという視点が消失したわけではない(8)

⑶現行の拐取罪における保護法益

 以上でざっと現行刑法に至るまでの流れを見てきたが、刑法224条以下の拐取罪規定における保護法益を理解するに当たって本稿で検討すべき視点が、既にあらかた登場していると言って良い。すなわち、①未成年者拐取罪(刑法224条)の保護法益が親の監護権に限定されるか否か、②拐取罪と逮捕・監禁罪(刑法220条)との関係をどのように考えるべきか、である。

 ①については、かつては親の監護権を(も)保護法益と解する見解が通説的であったところ、現在では、むしろ未成年者拐取罪の保護法益から監護権を除外し、専ら未成年者の利益に純化する見解が通説化している(9)。こうした見解は、現行刑法が成年者についても保護を広げた趣旨を徹底し、未成年者拐取罪を他の拐取罪とパラレルに解するものと評価できる。

 ②については、仮に拐取罪の保護法益を被拐取者の自由であるとすると、同様に被害者の(移動の)自由を保護する逮捕・監禁罪との関係が問題となる。逮捕・監禁罪は、身体の移動の自由を保護法益とするため、移動する能力(移動をすることを決定する意思能力)を欠くような嬰児については成立されていないと解されているが、嬰児に対する拐取罪は当然に成立すると考えられている。そこで、このような差異を説明するために、拐取罪の保護法益は被拐取者の自由のみならず、その安全をも含むとする見解が有力に主張されている(10)

6 親による我が子の連れ去りと拐取罪

⑴保護法益による議論

 前回のドイツ語圏各国やイギリスにおける議論から明らかなように、拐取罪の保護法益をどのように解するかという問題と、両親による子の奪い合いにおいてどの範囲を拐取罪として処罰するかという問題とは、必ずしも連動しない。例えば、ドイツ語圏においては、「未成年者の引離し」罪の保護法益が親権(配慮権)である点は一致するものの、オーストリアのように、配慮権者である限りはおよそ同罪の主体から除外されると解する国と、ドイツ・スイスのように、配慮権者であっても一定の場合には同罪の主体となり得ると解する国とに分かれる。

 また、未成年者の移動の自由を保護法益とする拐取罪についても、一方で、配慮権者は子に対する居所指定権を有し、子の居場所を自由に決定できることとの関係で、およそ本罪が成立しないと解する立場がある。他方で、親の居所指定権であっても子の福祉との関係で一定の制約に服するとして、なお本罪の成立の余地を認める立場もある(11)

 更に、こうした保護法益による議論とは別に、イギリスやドイツのように、国境を跨ぐ子の連れ去り事案に特化した形で、親権者(配慮権者)の処罰を肯定する特別な規定を新設するという政策的決断がなされることもある。このように、両親による子の奪い合いを規律する視点は多様なものであると言える。

⑵どのような事案が問題となっているのか

 両親による子の奪い合いと一口に言っても、その実態は多岐に渉る。典型的なものとして想定されるのは、共同親権者(12)である両親の一方が他方に無断で共同生活の場から我が子を連れ去る事案や、別居中の両親の一方が他方に無断で、他方の元にいる我が子を連れ去る事案であろう。

 しかし、こうした事案以外にも様々な事案が想定される。例えば、別居中の両親の一方が他方の同意を得て我が子と面会交流をした後に、一方の親が我が子を他方の親の元に返さない事案や、逆に、別居中の両親の間で子の面会交流に対する取り決めをしているにも拘らず、この取り決めを守らず一方の親が他方の親に子を面会させない事案もある(13)。また、近時大きく問題となったものとして、ハーグ条約に基づく返還命令に反して母親が我が子を元々住んでいた国(14)に返還せず、父親が提起した人身保護法に基づく子の引渡し請求を認める裁判所の判断にも拘らず、母親がその子と共に行方をくらましたとされる事案がある(15)。こうした諸事案のうち、我が国ではどのような事案が拐取罪として処罰されるのであろうか(16)

⑶判例で問題となった2つの事案

 我が国の最高裁判所で示された2つの判断は、いずれも別居中の我が子を連れ去る事案に関するものである。多少詳しく見て行くことにしよう。

 1つ目は、国境を跨ぐ子の連れ去りに関するものである(17)。すなわち、オランダ国籍で日本人の妻と婚姻していた被告人が、深夜に、別居中の妻が監護養育していた2人の間の長女(当時2歳4ヵ月)を、オランダに連れ去る目的で、長女が妻に付き添われて入院していた病院のベッド上から、両足を引っ張って逆さにつり上げ、脇に抱えて連れ去り、あらかじめ止めておいた自動車に乗せて発進させたという事案である。

 最高裁は、この事案に対して、「被告人は、共同親権者の1人である別居中の妻のもとで平穏に暮らしていた長女を、外国に連れ去る目的で、入院中の病院から有形力を用いて連れ出し、保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから、被告人の行為が国外移送略取罪(18)に当たることは明らかである」とした上で、「その態様も悪質であって、被告人が親権者の1人であり、長女を自分の母国に連れ帰ろうとしたものであることを考慮しても、違法性が阻却されるような例外的な場合に当たらない」として、刑法226条の成立を肯定した。

 これに対して、2つ目は、日本国内における子の連れ去りに関するものである(19)。すなわち、被告人は、別居中の妻であるBが養育している長男C(当時2歳)を連れ去ることを企て、保育園の南側歩道上において、Bの母であるDに連れられて帰宅しようとしていたCを抱きかかえて、自己の自動車にCを同乗させた上、自動車を発進させてCを連れ去り、Cを自分の支配下に置いた。その後、被告人は、約6時間半後の夜遅くに、民家等のない林道上において、Cと共に車内にいるところを警察官に発見され、通常逮捕されたという事案である。

 最高裁は、この事案に対して、平成15年決定を引用し、被告人の行為は未成年者略取罪の構成要件に当たるとしつつ、「被告人が親権者の1人であることは,その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情である」とした。その上で、違法阻却の判断において、①離婚係争中の他方親権者であるBの下からCを奪取して自分の手元に置こうとしたものであって、被告人がそのような行動に出ることにつき、Cの監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情は認められず、正当なものと言えない、②本件の行為態様は粗暴で強引なものである、③Cが自分の生活環境についての判断・選択の能力が備わっていない2歳の幼児である、④その年齢上、常時監護養育が必要とされるのに、略取後の監護養育について確たる見通しがあったとも認め難いといった事情を挙げて、被告人の行為は、「家族間における行為として社会通念上許容され得る枠内にとどまる」ものとは言えないとして、違法阻却を否定して刑法224条の成立を肯定した。

⑷判例に対する評価・分析

 判例によれば、たとえ一方の親権者であっても、他方の親権者などによって保護されている環境から我が子を引き離して自己の支配下に置けば、「略取」「誘拐」の構成要件に該当し、後は「家族間の行為」としての違法阻却の問題に委ねられることになる。とすれば、一方の親権者が他方の親権者に子を返さない事案や、一方の親権者が他方の親権者と子との面会を拒む事案、更には、一方の親権者が、自分の元にいる子を他方の親権者に引き渡す旨の裁判所の命令に従わず、子と共に行方をくらます事案では、そもそも、他方の親権者によって保護されている環境から子を引離したとは評価できないことになり、拐取罪の構成要件には該当しないことになろう(20)

 これに対して、一方の親権者が、他方の親権者との共同生活の場から子と共に離脱する事案では、必ずしも「略取」「誘拐」の構成要件に該当しないとは言い切れないであろう。というのは、両方の親権者によって保護されている環境から我が子を引離して、一方の親権者のみが事実的に支配する状況下に置いたと言えるからである(21)。そうだとすると、別居中の子を連れ去る事案のみならず、共同生活から離脱する事案に関しても、違法阻却の有無こそが拐取罪の成否にとっては決定的であることになる。そして、行為者が親権者の1人であるという事実もまた、「家族間の行為」として違法阻却の枠内で考慮されよう(22)

 親権者であっても構成要件該当性を広く肯定しつつ、違法阻却で実質的な判断を行うという判断枠組みは、ドイツ語圏を始めとして、諸外国ではあまり見られないものと言える。多くの国では、例えば、一方の配偶者が、他方の配偶者からの(自分や子に対する)DVから逃れるために子を連れて逃げるといった事案を巡って、緊急避難の成否が問題となる(23)。こうした緊急避難の主張を超えて、実質的な違法阻却に大きく問題を委ねる判断は、比較法的に見ても稀と言って良いであろう。

 このような実質的な違法阻却という判断枠組みは極めて不明確なものであり、処罰範囲の不明確さを招くとの批判も当然考えられる。しかし、オーストリアのように(「未成年者の引離し」罪については)一律に不可罰とする国を除けば、諸外国においても、両親による我が子の奪い合い事例の処罰範囲が明確であるとは必ずしも言えない(24)。そして、我が国の判例が違法阻却の枠組みの中で考慮している実質的な要素に着目すると、家庭裁判所による解決の困難性(25)、子の利益・福祉、国外への連れ去り目的など、諸外国においても問題となっている点が同様に問題となっていると評価することが可能であろう。

 そこで、最後に、こうした実質的な違法阻却という判断枠組みの中で、親権者による行為であるという点をどのように評価すべきかについて、ごく大雑把にではあるが検討を加えることにする。その際には、同様に、親権者による行為として近時問題となっている監禁罪に関する事案と比較することにしたい。

7 親権者であることが処罰の否定をもたらす理由

⑴親による監禁事例

 既述の通り、監禁罪の保護法益は人の移動の自由であるところ、例えば、よちよち歩きの幼児が家の外に出ないように、親がドアに鍵を掛けて一時的に外出するような場合には、子の移動の自由を侵害するものとして「監禁」という構成要件には該当するように見える。しかし、親権者は子に対して居所指定権(民法821条)を有し、その居所を決めることができる以上、その限りでは子の移動の自由を制約し得るものと言える。また、前述のような、日常生活においてよくある事例につき、監禁罪で処罰すべきかは疑問であろう。すなわち、親権者が子に対して一定の場所に留まることを強制することが、直ちに監禁罪に当たるとすることはできない。

 裁判例においては、親が子に対して一定の場所に留まるように強制する事案につき、監禁罪の成立を肯定するものが散見される。そうした事案は基本的に、親が子を風呂場の浴槽やトイレの中といった狭い場所に拘束し(26)、あるいは、部屋の中ではあっても子の身体に鎖を巻き付けて南京錠を掛ける(27)といった、身体に対する拘束性が極めて高く、子の自由のみならず、その身体に対する危険性や、その心身の健全な成長に対する悪影響も肯定されるような事案である。こうした事案では、監護・教育的措置の範囲に属するとは言えず(28)、監禁罪の成立が肯定されている。

 こうした判断枠組みは、親による場合でも、子の移動の自由を剥奪すれば「監禁」の構成要件に該当するとしつつ、監護・教育的措置といった事由に該当する場合には、例外的に違法阻却を認めるものと言え、拐取罪の場合と類似の判断枠組みを採用するものと評価し得よう(29)

⑵親による拐取と親による監禁

 拐取と監禁は、しばしば同一の事件で両方が成立し得る。典型的なのは、行為者が未成年の被害者を自動車に乗せて連れ去る事案である。こうした事案では、自動車という容易に外に出られない場所に乗せて自動車を発進させた時点で拐取罪が成立し、かつ、監禁罪も成立するとされることが多い(30)

 それでは、一方の親が他方の親に無断で別居中の子を自動車で連れ去るような場合に、拐取罪の成立と同時に監禁罪の成立も肯定されるのであろうか。平成15年決定及び平成17年決定は、いずれも自動車による連れ去りが問題となっているが、そもそも監禁罪に関しては起訴されていない。この点、親などではない第三者による自動車を利用した拐取罪の事案であっても、常に監禁罪について併せて起訴されているわけではない。それゆえ、行為者が一方の親であることを理由として、平成15年決定・平成17年決定においては監禁罪では起訴されていないとはもちろん断言できない。

 しかし、親による拐取と親による監禁とで、「家族間の行為」という点では共通しつつも、違法阻却の枠組みにおいて考慮される実質的な要素が仮に異なるのであれば、そうした差異がどこから生じるのかを正面から検討すべきであろう。今回は、そこまで踏み込んだ検討を行うことはできないため、この点は問題提起に留めたい。

8 終わりに

 我が国においては、両親による子の奪い合いを巡って、特に共同生活の場から一方の親が他方の親に無断で子を連れて離脱する事案を巡り、拐取罪がどのような場合に成立するのかは極めて不明確である。また、共同親権を有する一方の親が他方の親に子どもを引き渡すことを拒絶するような事案については、少なくとも現在の理解では、「略取」「誘拐」の構成要件に該当しないことになる。

 しかし、これらの事案に関しても、一定の場合には正面から拐取罪として処罰対象に含めることを認めるべきか否かが、今後は立法論の次元でも、また、解釈論の次元でも、ますます論じられることになるものと思われる。「家庭内の行為」であっても刑法が介入すべき場合があることはもちろんであるが、その範囲をどのように確定すべきかは、これからも難問であり続けるであろう。

(1)前号で採り上げたドイツ語圏各国やイギリス以外についても、様々な国でこうした刑事法的な介入の可否が問題となっている。アメリカについては、佐伯仁志「アメリカ合衆国における家族による児童の連れ去りに対する処罰のあり方(上)(下)」法律時報90巻7号・8号(2018年)を、カナダについては、和田俊憲「カナダ刑法における親による児童の連れ去りに対する処罰のあり方」法律時報90巻9号(2018年)を、フランスについては、佐藤結美「フランス刑法における未成年者の奪い合いを巡る議論状況」法律時報90巻10号(2018年公刊予定)をそれぞれ参照。

(2)例えば、身代金目的拐取(刑法225条の2)、人身売買(刑法226条の2)などが規定されている。

(3)未成年者とは20歳未満の者をいうが(民法4条参照)、今年の6月13日に民法の一部を改正する法律(平成30年法律第59号)が成立し、2022年4月1日から施行される。これに伴い、本条の未成年者も、18歳未満の者を指すことになる。

(4)西田典之(橋爪隆補訂)『刑法各論 第7版』(2018年)85頁。

(5)以下の記述は、松原和彦「我が国における拐取罪の沿革(上)(下)――親が主体の事案を念頭に」法律時報89巻13号(2017年)、90巻1号(2018年)による。

(6)旧刑法の拐取罪に関する条文は以下の通りである。

第341条 一二歳ニ満サル幼者ヲ略取シ又ハ誘拐シテ自ラ蔵匿シ若クハ他人ニ交付シタル者ハ二年以上五年以下ノ重禁錮ニ処シ一〇円以上一〇〇円以下ノ罰金ヲ附加ス

第342条 一二歳以上二〇歳ニ満サル幼者ヲ略取シテ自ラ蔵匿シ若クハ他人ニ交付シタル者ハ一年以上三年以下ノ重禁錮ニ処シ五円以上五〇円以下ノ罰金ヲ附加ス其誘拐シテ自ラ蔵匿シ若クハ他人ニ交付シタル者ハ六月以上二年以下ノ重禁錮ニ処シ二円以上二〇円以下ノ罰金ヲ附加ス

第345条 二〇歳ニ満サル幼者ヲ略取誘拐シテ外国人ニ交付シタル者ハ軽懲役ニ処ス

(7)したがって、例えば、親が自分の子を外国人に引き渡す事例については、旧刑法345条が成立しないと解されることになる。

(8)大判明治43・9・30刑録16輯1569頁。

(9)西田・前掲注(4)85頁以下。但し、拐取罪のうち、未成年者拐取にかかる罪のみが親告罪である(刑法229条)ことをどのように解すべきかが問題となる。

(10)山口厚『刑法各論 第2版』(2010年)89頁以下。とはいえ、専ら移動の自由を保護するとされる逮捕・監禁罪には結果的加重犯としての致死傷罪(刑法221条)が規定されるのに対して、安全が保護法益に含まれるはずの拐取罪には結果的加重犯の規定が存在しない点は、こうした見解に対する疑問となり得るであろう。

(11)スイスにおいては、判例は当初、子の福祉を理由とした一定の制約を肯定していたが(BGE 118 IV 61〔スイス連邦最高裁判所1992年1月16日判決〕、その後判例変更により、かかる制約を認めず、拐取罪の成立を否定する立場となった(BGE 126 IV 221〔スイス連邦最高裁判所2000年12月14日判決〕)。しかし、近時、再度の判例変更があり、子の福祉を理由とした一定の制約を認める立場に戻った(6B_123/2014〔スイス連邦最高裁判所2014年12月2日判決〕)。

(12)以下で両親による子の奪い合いとして想定されているのは、両親が共同親権者の場合である。我が国では、離婚によって単独親権に移行し(民法819条参照)、一方の親のみが親権を有することになるため、離婚後の事例については、今回の直接の検討対象からは除かれる。なお、報道によれば、現在政府において、共同親権制度の導入が検討されているとのことであり(読売新聞2018年7月15日朝刊)、今後の議論の推移に注目したい。

(13)榊原富士子・池田清貴『親権と子ども』(2017年)87頁以下参照。

(14)ハーグ条約ではこれを「常居所地国」という。

(15)NHK News Web 2018年7月17日(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180717/k10011537371000.html)。本件は、最高裁において、人身保護請求を否定した原審が破棄差戻しとされ(最判平成30・3・15裁判所ウェブサイト)、差戻審である名古屋高裁において、2018年7月17日に父親の請求が認められたものである。なお、報道によると、母親側は上告をせず、名古屋高裁の判決が確定したとのことである(共同通信2018年7月23日)。

(16)なお、注(15)で言及した事案で、仮に、人身保護法上の「被拘束者」を移動、蔵匿、隠避するなどの行為があったとすれば、同法26条により2年以下の懲役又は5万円以下の罰金が科せられることになる。

(17)最決平成15・3・18刑集57巻3号371頁(以下、平成15年決定とする)。

(18)現在の所在国外移送目的略取罪(刑法226条)である。

(19)最決平成17・12・6刑集59巻10号1901頁(以下、平成17年決定とする)。

(20)なお、ドイツにおいては、1998年改正によって明示的に不作為犯処罰規定が設けられる以前に、既に「不作為による引離し」という概念を肯定することで、本文に挙げたような事案についても、なお「未成年者の引離し」罪の構成要件該当性を肯定していた。また、フランスにおいては、未成年者の不引渡しが独自の構成要件として規定されている(フランス刑法227–5条)。

(21)財物が問題となる局面であれば、共同占有から単独占有に移す場合にも窃盗罪が成立することを想起されたい。少なくとも、従来の判例・学説が採用する「略取」「誘拐」の構成要件の理解からは、こうした議論を直ちに排除することは困難である。

(22)こうした判断枠組みを正面から是認するものとして、佐野文彦「﹁家族﹂間における子の奪い合いに対する未成年者拐取罪の適用に関する試論」東京大学法科大学院ローレビュー11号(2016年)123頁以下。

(23)カナダ刑法285条が、コモンロー上の緊急避難の抗弁とは別個に、このような場合について特別な緊急避難の抗弁を規定することについては、和田・前掲注(1)146頁参照。また、未成年者の不引渡し罪を規定するフランス刑法227–5条との関係で、一方の親が他方の親に子を引き渡さないのは、子に対する重大な危害が加えられる恐れがあるからだとして、緊急避難の成立が主張されることがある(佐藤・前掲注(1)参照)。

(24)ドイツにおける「未成年者の引離し」罪(ドイツ刑法235条)に関してこの点を指摘するものとして、深町晋也「ドイツ刑法における未成年者の引離しを巡る議論状況(下)」法律時報89巻12号(2017年)116頁。

(25)この点を特に強調するのが、平成17年決定の今井功補足意見である。

(26)福岡地判平成22・9・14公刊物未登載、東京地判平成22・9・15公刊物未登載。

(27)大阪高判平成27・10・6判時2293号139頁。

(28)前掲注(27)・大阪高判平成27・10・6参照。

(29)スイスにおいては、前掲注(11)の2014年判決が再度の判例変更を行った際に、親による監禁罪に関しては、子の福祉を理由として親の教育権に一定の制約が課される(したがって、一定の事例では親による監禁罪が認められる)旨の判例が既に存在するところ、親の居所指定権についても同様の制約が課されるべきである(したがって、一定の事例については親による拐取罪が認められる)との判断が示されている。但し、その前提として、監禁罪と拐取罪とは、いずれも移動の自由を害する犯罪として同一の条文に規定されている(スイス刑法183条参照)。

(30)判例においては、拐取罪と監禁罪とは併合罪と解されている(最決昭和58・9・27刑集37巻7号1078頁。但し、厳密に言えば、身代金目的拐取罪及び監禁罪を併合罪としたものであり、未成年者拐取罪と監禁罪との関係については、観念的競合とする裁判例も散見される〔さいたま地判平成14・6・19公刊物未登載など〕)。

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