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連載

家族と刑法――家庭は犯罪の温床か?

第7回 家族によって自分の大切なものが奪われるとき

立教大学大学院法務研究科教授 深町晋也〔Fukamachi Shinya〕

1 はじめに――家庭内で起こる財産犯罪

 読者の皆さんは、子どもの頃に親の財布からお金をこっそり抜き出して使ったことがあるだろうか。また、自分の子どものお年玉袋からお金をこっそり抜き出して使ったことはあるだろうか。こうした行為は厳密に言えば窃盗罪に当たるのかも知れないが、多くの場合はせいぜい「家族会議」のテーマになる程度で、そこまで大ごとにはならないであろう。

 それでは、「習い事に行きたい」「子どもの教育費がかかる」などと嘘をついて自分の親や配偶者から何十万円もお金を騙し取り、趣味のギャンブルで使い果たしてしまった場合はどうであろうか。こうした行為は詐欺罪に当たると言えるし、被害金額も決して僅少とは言えないが、それにも拘らず、実際に刑が科されることはない。それは、我が国の刑法典には「親族相盗例」と呼ばれる規定が存在するからである。親子間や配偶者間でお金を盗んだり騙し取ったりする行為は、窃盗罪や詐欺罪に当たるとしても、その刑は必ず免除される(刑法244条1項、同251条参照)。この規定は、財産を巡る揉め事について、「法は家庭に入らず」との考え方を表したものと言える。

 しかし、本連載で何度か言及したように、児童虐待防止法やDV防止法といった特別法は、こうした考え方に大きく修正を迫るものである。いくら家族内であっても、盗んだり騙し取ったりする額が数千万円にも及ぶような場合にまで、常にその刑を免除することが妥当なのであろうか。

 そこで、今回は、親族相盗例という規定が本当に合理的なものなのかという点について、立法の沿革や比較法を概観し、我が国の実務で生起する問題をも見ることで、分析・検討を行うことにする。

2 親族相盗例とは何か

 刑法244条は、親族相盗例として以下のような規定を設けている。

第244条① 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

② 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

③ 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

 本条は、行為者と被害者とが一定の親族関係にある場合には行為者に科される刑が必ず免除されることを規定する(1項)と共に、1項以外の親族についても親告罪(1)とする(2項)。既に述べたように、本条は、「法は家庭に入らず」という政策的な見地から定められたものと言えるが、学説では、こうした規定がわざわざ財産犯罪に設けられている実質的根拠は何かが問題とされている。そうした観点から、家族間の財産は得てしてその帰属関係が不明確であるために法益侵害性が低くなる(違法性の減少)、あるいは、親族関係にある者の財産については、その取得・費消に対する誘惑的要素が高くなる(責任の減少)といった見解が主張されている(2)

3 親族相盗例の沿革

 親族相盗例という概念は、歴史的に見ると相当に古いものである。中国の明の時代における明律の刑律・賊盗において「親屬しんぞく相盜」という用語が用いられており、同趣旨の規定は、更に遡って唐律にも見ることができる(3)。その後、仮刑律や新律綱領・改定律例においても同様の用語が用いられている。もっとも、その内容は、刑法244条が定める親族相盗例とは大きく異なる。新律綱領の賊盗律における「親屬相盗」とは、(別居の)被害者からの等親(4)の近さに応じて刑が減軽されるというものであった。具体的に言うと、被害者が行為者の五等親(例えば「玄孫」)であった場合には、被害者が他人であった場合に比してその罪を一等減じることとされ、等親が四等親、三等親、二等親と近くなるに従って、各々罪が二等、三等、四等減じられるといった具合である(5)

 これに対して、明治13年に制定された旧刑法の親族相盗例は、その内容が大きく異なる。条文を見てみよう。

第377条① 祖父母父母夫妻子孫及ヒ其配偶者又ハ同居ノ兄弟姉妹互ニ其財物ヲ窃取シタル者ハ窃盗ヲ以テ論スルノ限ニ在ラス

② 若シ他人共ニ犯シテ財物ヲ分チタル者ハ窃盗ヲ以テ論ス

 旧刑法377条は、一定の直系血族及びその配偶者については同居の有無を問わずに窃盗罪の成立を否定し、兄弟姉妹については同居している場合(6)のみ窃盗罪の成立を否定した。新律綱領と比較すると、量刑に関する規定ではなく、一定の親族関係にある場合には(被害額の多寡に拘らず)窃盗罪の成立を一律に否定する点に最大の特徴がある(7)。また、窃盗のみならず、詐欺取財の罪(現在の詐欺・恐喝に当たる)や受寄財物の罪(現在の横領に当たる)についても本条の趣旨が妥当した(旧刑法398条)。

 既に見た現行刑法244条は、このような旧刑法377条の趣旨をある程度は受け継ぎつつも、①親族相盗例の効果としては必要的免除(1項)又は親告罪(2項)とし、②対象となる親族の範囲について、1項においては直系「血族」や同居の「親族」にまで拡張しつつ、2項では非同居の親族一般にまで拡張している点が特徴的である(8)。このように、親族相盗例の法的効果を対象となる親族の範囲との関係で二分する規定(9)は、1871年に制定されたドイツ刑法旧247条にも見られる。そこで、次にドイツ語圏における親族相盗例を見てみよう。

4 ドイツ語圏における親族相盗例――家庭・家族内窃盗について

⑴ 家庭・家族内窃盗とは

 ドイツ語圏では、一定の親族関係にあるような場合に財産犯の成立に当たって有利に作用する規定を「家庭・家族内窃盗(Haus- und Familiendiebstahl)」という。既述の通り、1871年のドイツ刑法旧247条はこうした規定を設けていたが、それは現在のドイツ刑法247条とは相当に異なる。すなわち、旧247条は、1項で親族や後見人などに対してなされる窃盗・横領について親告罪としつつ、2項で尊属から卑属に対して又は配偶者間でなされる窃盗・横領について不可罰とする規定を設けていた(10)

 しかし、特に旧247条2項は、その後大きな批判を受けた。その要諦は、孫が祖父から少額の財物を窃取しても親告罪にしかならないのに、祖父が孫の財物を窃取すると常に不可罰となるのは不合理である点、及び、一方配偶者が他方配偶者から高額の財物を窃取した場合にも常に不可罰となるのは不合理であるという点にある。

 その反面、旧247条1項の親告罪規定については、親族や後見人のみならず、行為者と被害者が極めて緊密な人的関係(「家庭共同体」)にある場合にも拡張すべきとされた。というのは、被害者と行為者が家庭共同体における問題を解決し、家庭の平穏を再び取り戻す可能性を残しておくべきであり、あくまでも、被害者自身が訴追を望んだときにのみ法が介入すべきだからである(11)

 このように、①旧247条2項の不可罰規定については大きな批判がなされたが、②旧247条1項の親告罪規定については、家庭の平穏の回復という観点からむしろ望ましいものと解されたのである。そのため、1975年改正でドイツ刑法247条は、専ら親告罪規定とされた。

⑵ ドイツ語圏各国の現状

 以上のように、家庭・家族内窃盗について、不可罰とするのではなく、親告罪規定に留めるという考え方は、現在のドイツ・スイス・オーストリアに共通して見られる特徴である(12)。その背景には、「法は被害者の意思に反して家庭内に立ち入るべからず」という発想がある(13)。逆に言えば、被害者が訴追・処罰を望む場合にまで行為者の処罰を否定するドイツ刑法旧247条2項のような規定は、少なくとも現在のドイツ語圏各国では採用されていない。

 こうした理解を前提に、ドイツ語圏各国の家庭・家族内窃盗については2つの特徴を指摘しうる。第1点は、こうした規定の法的効果が親告罪に留まるため、当該規定によって有利に扱われる行為者は、親族や家庭共同体にある者として広く包摂される傾向にある(14)。この点は、ドイツ刑法の1975年改正を巡る議論で既に見た通りである。

 また、第2点として、家庭・家族内窃盗の規定は、暴力的色彩を帯びない財産犯にのみ妥当する(15)点も、ドイツ語圏各国で共通している。すなわち、窃盗罪、横領罪、詐欺罪、背任罪などについては当該規定の適用・準用がなされるのに対して、強盗罪・恐喝罪については当該規定の適用・準用がなされない(16)。暴行・脅迫を用いてなされる財産犯については、もはや家庭内で解決されるような事象ではないという理解がその背景にある(17)

5 我が国の親族相盗例の問題性

⑴ 強い法的効果と広い適用範囲

 我が国の親族相盗例は、こうしたドイツ語圏各国の規定と比較すると、3つの特徴を有している。それは、①刑法244条1項が「必要的免除」という極めて強い法的効果を規定すること、②同244条1項の適用範囲が「配偶者、直系血族、又は同居の親族」と広汎であること、及び③同244条1項・2項が、窃盗、横領、詐欺、背任のみならず、恐喝罪にまで準用(同253条)されることである。一言でまとめると、「強い法的効果にも拘らず広い適用範囲を有する」のがその特徴と言える。

⑵ 直系血族が未成年後見人である場合

 こうした特徴がもたらす帰結の不合理さが判例・裁判例において顕在化したものとして、刑法244条1項の「直系血族」が同時に未成年後見人であった事例が挙げられる。未成年後見人は、親権者の死亡等のため未成年者に対し親権を行う者がない場合に、申立てによって家庭裁判所によって選任され(民法840条(18))、未成年者(未成年被後見人)の法定代理人としてその監護養育、財産管理、契約等の法律行為などを行う。すなわち、未成年後見人は、被後見人の財産を管理する権限を有している(民法859条1項)ため、被後見人の財産を自分で勝手に費消することが容易な立場にある。

 この点が極めて明らかになったのが、最決平成20・2・18刑集62巻2号37頁である。事案を端的に説明すると、親権を行使する者が死亡したため、被害者Aの祖母であるXが未成年後見人として家庭裁判所に選任されたものの、Xは自己が管理しているAの貯金(19)を何度も引き出して横領したというものである。(業務上)横領罪については刑法255条が同244条の親族相盗例を準用するため、本来であれば、直系血族(孫)であるAから現金を横領した祖母Xについては、その刑が必要的免除とされるはずである。しかし、第1審裁判所から最高裁に至るまで、(誰が見ても不当であると思われる)この帰結を回避するための様々な解釈論が展開された(20)

 その中でも、最高裁が示したロジックは、極めて興味深いものである。すなわち、刑法244条1項の趣旨につき、親族間の一定の財産犯罪に関しては、国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律に委ねる方が望ましいという政策的考慮によるものであるとした上で、未成年後見人の後見の事務が有する「公的性格」からすれば、こうした趣旨によって定められた同244条1項を準用して刑法上の処罰を免れる余地はないとしたのである。

 文言解釈からすれば、未成年後見人であったとしても祖母は祖母、孫は孫であって、被告人に不利な形で刑法244条1項の準用を否定しうるのかには疑問の余地もないではない(21)。しかし、本条が犯罪の成否ではなく、あくまでも処罰についての特例を定めたものに過ぎないとした上で、未成年後見人については本条の政策的考慮の枠外に置くという最高裁の判断はなお不可能とまでは言えまい。

 こうした最高裁の(文言解釈からは)苦しい判断が、それにも拘らず妥当に見える最大の要因は、刑法244条1項の法的効果が必要的免除と極めて強い点にある。仮に、同244条1項の法的効果が親告罪に過ぎないとすれば、Xの代わりに新たに選任された未成年後見人による告訴が存在するため、無理なく妥当な解決が導かれたであろう。

⑶ 強盗ではなく恐喝と認定される場合

 前述した我が国の親族相盗例の特徴がもたらす不合理さが顕在化したものとして、もう一つ挙げられるのが、家庭内における暴力的な財産犯罪に関する事例である。横浜地判平成24・11・30公刊物未登載(LEX/DB: 25445180)を見てみよう。事案を端的に説明すると、70歳の母親Aに対して、被告人Xがテーブルを叩きながら「ぶっ殺してやる」などと怒鳴り、更には包丁を持ち出してAの首の後ろを掴んで頭を押さえ付けるなどして現金70万円を奪ったというものである(22)

 検察官は本件を強盗(致傷)罪として起訴したが、横浜地裁は、強盗罪(刑法236条1項(23))の成立にあたって必要とされる「暴行又は脅迫」、すなわち、被害者の反抗を抑圧するに足る程度の暴行・脅迫があったとまでは認められないとして、恐喝罪(同249条1項)の成立を認めるにとどめた。そして、XとAとは直系血族の関係にあるから、同244条1項を準用(同251条)してその刑を免除する旨判示した。

 既述の通り、我が国では、旧刑法以来、恐喝罪は詐欺罪と極めて関連が強い犯罪としていわばワンセットに扱われており、両者ともに親族相盗例の準用が認められている。しかし、他方で、恐喝罪は、暴行・脅迫が被害者の反抗を抑圧する程度に達せず強盗罪が成立しない場合を広汎に包摂する犯罪となっており、いわば「ミニ強盗罪」としての側面もある(24)。こうした暴力的色彩を帯びる犯罪としての恐喝罪についてまで、親族相盗例の準用が肯定されることの不合理さが、本件では如実に表れていると言える。

6 終わりに――あるべき立法は何か

 これまでの検討から、我が国の親族相盗例においては、必要的免除というその強い法的効果こそが個別の事案における妥当な解決を阻むものとなっていると言える(25)。「法は家庭に入らず」という政策的観点を、ドイツ語圏各国のように「法は被害者の意思に反して家庭に入らず」と理解する場合には、我が国の親族相盗例を一律に親告罪規定として純化するという立法もあり得るところであろう。これは、親告罪が有する和解促進機能、すなわち、被害者と加害者の財産に関する揉め事について対話の機会(冒頭の「家族会議」もその一種であろう)を確保し、家庭内の平和を再構築するものと捉えた上で、それがうまく行かない場合には告訴によって国家刑罰権が介入する、という制度として親族相盗例を構築するという考え方である。また、恐喝罪のような暴力的な財産犯罪については、こうした対話による解決に馴染まないとして、親告罪の対象からも除外するという考え方もあり得よう。

 また、一定の密接な関係にある親族(例えば、同居の直系血族や配偶者など)においては、財産関係の不分明さや財産犯罪への誘惑的要素といった、量刑上考慮すべき事情が存在することが通常と言える。こうした点を考慮すれば、このような一定の親族については、親告罪規定に加えて、量刑においても有利に扱う規定、例えば任意的減免規定を別に設けるといった考え方もあり得よう(26)

 我が国の現行の親族相盗例は、余りにも広範囲に渉って、家庭内の財産を巡る揉め事に対する刑法による介入を否定する帰結をもたらしている。今後もこうした規定を本当に維持していくべきなのかにつき、広く議論を行っていく必要があろう。読者の皆さんにとって、本稿がそのきっかけとなるとすれば幸いである。

(1) 被害者の告訴がなければ訴追できない犯罪を指す。

(2) こうした議論については、西田典之(橋爪隆補訂)『刑法各論 第7版』(2018年)178頁参照。

(3) 唐律においては、「盜緦麻小功親財物」として規定されていた。この「盜緦麻小功親財物」は、別居、すなわち同居共財関係にない場合にのみ適用される(同居の卑幼が尊長から盗む場合には、「卑幼私輒用財條」が適用される)。また、現在の親族相盗例とは異なり、(尊長の卑幼に対する)強盗にも適用があった(島田正郎ほか『譯注日本律令 七 唐律疏議譯註篇 三』〔1987年〕217頁以下参照)。なお、立法の沿革については、九州大学の西英昭准教授より丁寧なご教示を頂いた。ここに厚くお礼申し上げる。

(4) なお、「等親」と現行民法725条が規定する「親等」とは異なる。いかなる親族が一定の等親に該当するかについては、新律綱領の「五等親圖」が詳細に定めており、例えば、自己の父母や子、あるいは夫は一等親であるが妻は二等親である。

(5) 窃盗の被害額が大きくなると、それに伴って被害者が他人である場合の刑が重くなるため、その刑を一等、二等減じたとしても、それなりに重い刑となる。また、被害者が一等親の場合にはこうした規定が存在しない。別居一等親間の相盗という事態が想定されていないからとされる(石井紫郎・水林彪校注『日本近代思想体系7 法と秩序』〔1992年〕533頁(水林彪)参照)。なお、同居子弟が父兄の財産を盗用した場合には、子弟私擅用財条(戸婚9)により極めて軽い罰条(10両を盗用した場合に笞10となり、その後は金額に応じて刑が加算される)が規定され、その後、改定律例115条により、同居の卑幼が尊長の許可によらず、家の財産を盗用した場合には子弟私擅用財条によるものとされた。

(6) 旧刑法は、「お雇い外国人」であるギュスターヴ・ボアソナードと日本人委員との議論によって作成された「日本刑法草案」が基になっているが、ボアソナードは、兄弟姉妹も含むのであれば同居の場合に限定すべきと主張した(西原春夫ほか編著『旧刑法〔明治13年〕⑶-Ⅱ日本立法資料全集本巻 33』〔1997年〕14頁及び95頁)。

(7) ボアソナードは議論の当初からフランス刑法旧380条を挙げつつ、親族相盗例の法的効果を「其罪を論ぜざる主意」だとしており(西原ほか・前掲注(6)4頁)、旧刑法377条に至るまでこの点は一貫している。

(8) 明治23年改正刑法草案の段階で、360条1項は旧刑法377条1項とは異なり刑の必要的免除を規定するものとなり、明治34年改正案の段階では、285条において、現在の刑法244条にほぼ対応する規定がおかれた(倉富勇三郎・平沼騏一郎・花井卓蔵監修『刑法沿革総覧』(1923年)128頁及び201頁)。この間の議論の経緯については、林美月子「親族間の財産犯罪」『内田文昭先生古稀祝賀論文集』(2002年)333頁以下参照。

(9) 旧刑法の制定過程でも一旦は、一定の親族については犯罪不成立となるのと並んで、その他の親族については親告罪とするとの規定が支持された。しかし、明治10年6月のいわゆる「第2稿」の段階になってから日本側委員が激しく反対し、最終的に親告罪規定が削除された。この過程で、ボアソナードは、親告罪規定を採用している国があるのかと日本側委員に問われた際に、ドイツ刑法旧247条を挙げて説明している(西原ほか・前掲注(6)108頁以下)。

(10) ドイツ刑法旧247条① 親族、後見人、養育者又は雇用先若しくは寄宿先の者に対して窃盗又は横領をした者は、告訴によってのみ訴追できる。

② 尊属から卑属に対して、又は配偶者間でなされた窃盗又は横領は不可罰である。

③ 前2項の規定は、同項において列挙された人的関係にない共犯者又は援助者には適用されない。

(11) 以上の点につき、BT-Drs. 7/550, S. 247を参照。

(12) ドイツ刑法247条、スイス刑法139条4項、オーストリア刑法166条。但し、オーストリア刑法166条は、1項で親族間での一定の財産犯につき一律に低い法定刑を規定しつつ、3項で親告罪規定を設けている。

(13) Trechsel/Crameri, in: Trechsel/Pieth (Hrsg.), Schweizerisches Strafgesetzbuch Praxiskommentar 3. Aufl.(2018), Art. 139 Rn. 25.

(14) ドイツ刑法247条やスイス刑法139条を参照。また、オーストリア刑法166条1項は親族の他にこうした「家庭共同体」といった規定を有していないが、同72条により、親族の範囲は極めて広範に規定されている(Fabrizy, StGB Kurzkommentar 12. Aufl. (2016), §72 Rz. 2)。

(15) Fuchs/Reindl-Krauskopf, Strafrecht Besonderer Teil Ⅰ 5. Aufl. (2015), S. 277.

(16) ドイツ語圏各国では、詐欺罪と恐喝罪とはいずれも財産の処分行為を必要とする犯罪として共通性を有するものと解されているが、それにも拘らず、家庭・家族内窃盗の規定に関してはこうした差異が存在する。

(17) Eser/Bosch, in: Schönke/Schröder, Strafgesetzbuch Kommentar 29. Aufl. (2014), § 247 Rn. 2. 旧刑法制定過程において既に、強盗罪を親族相盗例の適用範囲から除外している点につき、西原ほか・前掲注(6)20頁及び62頁参照。

(18) 但し、親権者自身が未成年後見人を指定する場合もある(民法839条)。

(19) 第1審が認定する「罪となるべき事実」では合計約1500万円の横領が認定されているが、告訴人による告訴額は約3600万円であり、被告人自身も最大約3166万円については認めているとされる(福島地判平成18・10・25刑集62巻2号63頁以下参照)。

(20) 第1審、第2審、最高裁で展開された解釈論はそれぞれに異なるものであるが、いずれも親族相盗例の準用を回避するための強い意思を看て取ることができる。読者の皆さんも、ご関心があれば是非それぞれを熟読して頂きたい。

(21) オーストリア刑法166条1項は明文で、後見人が被後見人の財産を横領等した場合には、家庭・家族内窃盗の規定、すなわち法定刑を一律に低く設定した規定(注(12)参照)の適用を排除する旨定めている。このような規定が存在しないにも拘らず、いわば解釈によって除外規定を創出することが可能なのかという問題である。

(22) なお、Xは、Aに対する長年に渉る乱暴な言動によって、総額数億円の金を貰っていた旨、併せて認定されている。

(23) 刑法236条1項の条文は以下の通りである。

第236条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。

(24) 西田・前掲注(2)245頁。

(25) この点は、例えば林・前掲注(8)351頁でも既に指摘されている。

(26) オーストリア刑法166条1項は、いわば必要的減軽規定を定めるものと言える(注(12)参照)。他方、我が国の親族相盗例とほぼ同様の内容を持つ中華民國(台湾)刑法324条1項は、刑の任意的免除を定めている。いずれも、刑の「必要的免除」という法的効果は回避されている。

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