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連載

家族と刑法――家庭は犯罪の温床か?

第5回 家庭において児童ポルノが作り出されるとき

立教大学大学院法務研究科教授 深町晋也〔Fukamachi Shinya〕

1 はじめに

 前回は、児童に対する性的虐待の中でも特に、近時の刑法改正で新設された監護者性交等・わいせつ罪(刑法179条)を扱った(1)。本罪は、「犯罪の温床」としての家庭において特に可視化されにくい性的虐待を処罰するものであるが、家庭内における性的虐待には様々な態様のものがある。その中でも、今回採り上げるのは、家庭内において、親が子の児童ポルノを作り出し、あるいはさらに第三者に提供するといった事例についてである。親が子に対して性交等・わいせつな行為を行う過程で、その状況を描写したものを製造し、さらには頒布したりするというのは、決して珍しいことではない。

 そもそも、家庭における性的虐待としては、実親・養親が実子・養子に対して性交等・わいせつな行為を行う事例だけではなく、実親・養親が第三者から金銭などを得るために、実子・養子に対して第三者と性交等・わいせつ行為を行わせる事例もまた、古くから問題とされてきたものである(2)。金銭などの対価を得るために、親が子の児童ポルノを作り出して第三者に提供するといった行為は、こうした性的虐待の延長線上に位置するものと言えよう。このような家庭内における児童ポルノの製造・提供といった行為は、後に紹介するように、ドイツにおける児童ポルノ規制の進展(厳罰化)を促す一因となったものである(3)。なお、ドイツでは近時、経済的に困窮している複数の母親にインターネットを通じてコンタクトを取り、対価と引換えにその幼い我が子の性的な画像を作成・送信させたという事案が問題となっている(4)。また、我が国でも近時、父親が自分の13歳の娘に露出度の高い水着を着せてビデオに出演させたとして逮捕・起訴された事案が問題となっており(5)、社会的にも重大な関心事と言えよう。

 反面で、こうした家庭内における子の性的イメージの描写を巡っては、どこまでが児童ポルノ規制の対象となるのかが、特に「児童ポルノ」の定義との関係で重要となってくる。具体的に言えば、家庭内において自然な状況で撮影された児童の裸体、例えば風呂場などで撮影された乳幼児の入浴シーンにつき、「児童ポルノ」として規制することが妥当なのであろうか。この問題は、前述のように撮影された写真などを第三者に提供する目的を有しない場合、特にいわゆる「単純所持」の場合を巡って顕在化する。家庭内のみで閲覧する目的で撮影された乳幼児の入浴シーンについても、「児童ポルノ」の「単純所持」として刑事罰の対象となるとすれば、家庭内の日常的な行為について過度に刑法が介入していると評価せざるを得ないであろう。こうした問題を巡る議論につき、今回は検討対象としたい。

2 家庭内における児童ポルノについて

⑴児童ポルノ規制の経緯

 家庭内における児童ポルノの問題を論じる前提として、そもそも我が国では児童ポルノについてどのような規制がなされているのかについて、ざっと見てみることにしよう。我が国で児童ポルノを規制する法律である児童買春・児童ポルノ禁止法(6)(以下、「児童ポルノ禁止法」)は、2条3項で児童ポルノを定義し(7)、児童ポルノに関する様々な行為、例えば児童ポルノを製造、公然陳列、提供などする行為を7条で処罰している。従来、我が国においては、わいせつ物規制とは別個に、児童の性的描写のみを特に処罰する規定は存在しなかったが、児童の性的虐待・性的搾取の撲滅に関する国際的な意識の高まりを受けて、1999年に児童ポルノ禁止法が制定され、その後、2004年及び2014年の2度に渉って改正がなされている。

 このうち、2014年改正は、従来は処罰されていなかった児童ポルノの単純所持(児童ポルノ禁止法7条1項)や盗撮による製造(同7条5項)を処罰する規定を新設すると同時に、同法2条3項3号に規定する児童ポルノ(いわゆる「3号ポルノ」)の定義を変更し、処罰対象を限定している(8)。こうした改正のうち、単純所持の処罰化と3号ポルノの定義の変更とは、一定の連動性を有するものである。この点を明らかにするためには、ドイツ語圏における議論が参考になるため、多少の紹介を行うことにする。

⑵ドイツ語圏における議論(9)

 ドイツにおいては、1975年刑法改正で、児童の性的虐待を描写したポルノ文書を頒布、公然陳列などする行為を処罰する規定が導入され(ドイツ刑法旧184条3項)、その後、1993年改正で、児童ポルノの取得及び単純所持を処罰する規定(ドイツ刑法旧184条5項1文・2文)が導入された。1993年改正の政府提案理由を見ると、その冒頭に、ビデオカメラの普及により家庭内で(しばしば父親などによって)製造された児童ポルノが交換されたり販売されたりするというビデオフィルムのマーケットについての言及があり、こうした児童ポルノマーケットを有効に禁圧するために、前述の取得・単純所持処罰規定の導入が提案されている(10)。このように、家庭内における児童ポルノの製造を禁圧することが、1993年改正で児童ポルノの取得・単純所持罪を新設する一因であったと言える。

 こうした取得・単純所持罪の成否との関係で、児童ポルノとは何かが正面から問題とされたのが、ドイツ連邦通常裁判所(BGH)1997年12月17日決定(11)である。本件では、71歳の男性である被告人Xが、ホテルの部屋において裸でベッドに横になっている7歳の女児Aを撮影した。BGHは、裸の児童の写真を撮るだけでは処罰されない旨を明言し、「自然な通常のポーズで衣服を付けずにベッドで横になっている少女」の撮影や撮影された写真の所持は児童ポルノの取得・単純所持罪を構成しないとしたのである(12)

 また、スイスにおいては、2002年刑法改正によって、児童ポルノの取得・単純所持を処罰する規定(スイス刑法旧197条3項の2)が導入された。その後、家庭における児童ポルノの取得・単純所持罪の成否が直接的に問題とされたのが、スイス連邦最高裁判所2006年12月7日判決(13)である。本件では、3歳の女児Aの父親である被告人Xが、妻Bと3人で遊びに来た海岸で、両脚を開いて全裸でデッキチェアに座っているAを撮影した。スイス連邦最高裁は、海岸や風呂でのスナップショットのような、自然な状況で撮影された裸の写真については、児童ポルノ取得・単純所持罪は成立しない旨判示した。

 以上のように、ドイツ語圏においては、風呂や海岸でのスナップショットといった自然な状況で、又は自然な通常のポーズで撮影された写真などについては、児童ポルノ取得・単純所持罪の成立が否定されている(14)。すなわち、不自然な、例えば性器を露骨に強調するような裸体の描写については、もはや児童の性的虐待・性的搾取として許容されないとしつつ、自然な状況・ポーズでの裸体の描写については、なお性的虐待・性的搾取に当たらないと評価するものと言える。

⑶我が国の2014年改正を巡って

 再び、我が国の児童ポルノ禁止法の検討に戻ることにしよう。2014年改正前の児童ポルノ禁止法のいわゆる3号ポルノは、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」と定義されていた。しかし、この定義からは、たとえ家庭において撮影された自然な状況における自然なポーズであったとしても、児童の裸体が描写されている場合に、3号ポルノに該当しないと断じることができるかには疑問の余地がある。もちろん、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という付加的要件によって、このような解釈を行う余地はある(15)ものの、この要件がどの程度限定的な機能を有するか、また、どの程度明確な要件と言えるかについても、なお疑問の余地がある。

 そして、2014年改正において、児童ポルノの単純所持を新たに処罰する規定を導入する際には、正にこの点が強く危惧されることになった(16)。それゆえ、「水浴びをしている裸の幼児の自然な姿を親が成長記録のために撮影したようなケース」(17)を特に念頭に置きつつ、こうした事例を明示的に処罰対象から除外するために、「殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されている」という要件が付加されることになった(18)。このような立法趣旨は、正にドイツ語圏で問題となったような、自然な状況・自然なポーズでの児童の裸体の描写については、処罰対象から除外するものであり、とりわけ、家庭内における児童の裸体の描写に関して、一定の事案を処罰対象から除外するものであると評価することが可能であろう。

 こうした理解からは、逆に、家庭外における不自然な態様での児童の裸体の描写については、なお児童ポルノとして可罰的であるとの帰結が導かれることになろう。裁判例においては、公衆浴場の男性用脱衣所で全裸となっていた推定年齢12歳又は13歳の男児の姿態を盗撮した被告人につき、盗撮による3号ポルノの製造罪(児童ポルノ禁止法7条5項)の成立を認めたものがある(19)。但し、公衆浴場の脱衣所で全裸となること自体は、自然な状況における自然なポーズであるとも言え、「ひそかに」撮影したという同法7条5項の行為態様に加えて、「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されている」という3号ポルノとしての要件を充足するための事実を認定する必要がある(20)

 以上のように、児童ポルノ禁止法は、家庭内における自然な状況・態様での児童の裸体の描写については児童ポルノとしての処罰範囲から除外していると考えることができる。こうした態度決定は、ドイツやスイスとも共通するものであり、家庭の自律を一定程度尊重するものとして理解することができよう。

 しかし、このような家庭の自律がどの程度尊重されるべきかについては、今後はより慎重な考慮が必要となろう。そもそも、親が子の成長記録としてその自然な裸体を撮影するケースであっても、子の年齢やそうした成長記録を作成する意義・必要性によっては、3号ポルノ該当性が肯定されることもありうる。その場合には、例えば「自己の性的好奇心を満たす目的」が存在しないために単純所持罪が成立しないに過ぎず(21)、かかる写真を第三者に提供すれば児童ポルノ提供罪(同7条2項・6項)に該当する余地もある。このように、家庭の自律を尊重すべき局面が存在することを前提としても、どの範囲までそれを尊重すべきかについては、多様な考慮が必要となるのである。

3 終わりに

 児童ポルノ規制を巡っては、極めて多様かつ複雑な諸問題が存在し、それぞれに困難な解釈論的課題を提供しているが、本稿で検討したのは、その中でもほんのごくわずかの部分である(22)。この連載のテーマとの関係では、家庭が社会の目から隔離された場として、時に児童ポルノを作り出す場となりうること、他方で、家庭という場の自律性を尊重すべき局面もなお残されていることが示されたように思われる。

 第3回から今回の連載を通じて、児童の性的な保護について、現行法は刑法典、特別法及び条例において様々な処罰規定を設けていることが明らかになった。その理由は、児童の性的自己決定権の要保護性はもとより、児童に関しては性的な健全育成が極めて重要と解されているからである。

 それでは、児童の健全育成の重要性は、果たして児童の性的側面に限定されるのであろうか。第3回でも多少触れた児童虐待防止法を想起すれば明らかなように、児童の健全育成は、性的側面に限らず様々な観点から重要となるものである。このような児童の健全育成を十全に保護するために刑法がいかなる役割を担うべきかは、今後、この連載においても検討すべき、極めて重要な問題と言えよう。

(1) 前回はエッセイとしてはやや専門的に過ぎる話が続き、相当程度の読者に見放されたのではないかと危惧している。

(2) 例えば、福岡家小倉支判昭和35・3・18家月12巻7号147頁(父親が家計の援助の代償として、実の娘に被告人と父親宅において性交させた行為について、被告人に児童淫行罪〔児童福祉法34条1項6号〕が成立した事案)を参照。また、近年の事案として、山形地判平成29・7・4公刊物未登載(LEX/DB 25546439)(母親が被告人から対価を受け取って、自分の娘に被告人と性交類似行為をさせた行為について、被告人に児童淫行罪及び児童買春罪〔児童買春・児童ポルノ禁止法4条〕が成立した事案)も参照。

(3) BT-Drs. 12/3001, S. 4.

(4) BGH 1 StR 627/16 (Beschluss vom 23. 02. 2017).

(5) 報道によれば、実父である被告人に対して、東京地裁は平成29年11月8日付で懲役2年執行猶予4年及び罰金50万円を併科する判決を下したとのことである(TBS NEWS2017年11月8日)。

(6) 正式名称は「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」である。

(7) 2条3項 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。

  1 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態

  2 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

  3 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

(8) 但し、実質的には処罰範囲の変更はないとするものとして、坪井麻友美「『児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律』について」刑事法ジャーナル43号(2015年)47頁以下。また、改正後の3号ポルノの「限定性」に対する批判として、園田寿「児童ポルノ禁止法の成立と改正」園田寿=曽我部真裕編著『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年)11頁以下。

(9) 詳細は、深町晋也「児童ポルノの単純所持規制について――刑事立法学による点検・整備」『町野朔先生古稀祝賀(上)』(2014年)456頁以下及び豊田兼彦「ドイツにおける児童ポルノ規制――単純所持規制を中心に」園田=曽我部編著・前掲注(8)168頁以下。

(10) BT-Drs. 12/3001, S. 4. 厳密に言えば、頒布・公然陳列目的を持って家庭内で児童ポルノを製造すれば、既にドイツ刑法旧184条3項3号の製造罪に該当するが、こうした目的の存在を立証することは必ずしも容易ではないとの説明が併せてなされている。

(11) BGHSt 43, 366 (Beschluss vom 17. 12. 1997). なお、被告人は本件行為以外にも複数の女児に対して様々な性的行為を行っており、それらについては有罪とされている。

(12) なお、ドイツ刑法2015年改正により、児童ポルノの定義が変更された(ドイツ刑法184条1項1号)。すなわち、「児童の、児童に対する、又は児童の面前での性的行為の描写」という従来の定義に加えて、「衣服の一部又は全部を付けない児童の性器を不自然に強調する姿態の描写」や「児童の衣服を付けない性器又は臀部の性的に興奮させるような描写」が含まれるようになった。したがって、例えば、児童が両脚を開いて性器を露出させながら睡眠している姿態を撮影する場合にも、そうした姿態が「性的行為」か否かを論じることなく、児童ポルノ該当性を肯定しうることになる(BT-Drs.18/2601, S. 30)。

(13) BGE 133 IV 31(Urteil vom 07. 12. 2006).

(14) こうした判例の立場については、ドイツ・スイスの学説も基本的に賛同している(深町・前掲注(9)456頁以下参照)。

(15) 京都地判平成12・7・17判タ1064号249頁も参照。

(16) 園田・前掲注(8)10頁参照。

(17) 第186回国会衆議院法務委員会議事録第21号5頁(ふくだ峰之委員)。

(18) このような3号ポルノに関する限定の他、2014年改正においては、単純所持を処罰する7条1項において、「自己の性的好奇心を満たす目的」を要求し、かつ、「自己の意思に基づいて所持するに至った者であり、かつ、当該者であることが明らかに認められる者に限る」との限定を付している(第186回国会参議院法務委員会議事録第24号2頁〔ふくだ峰之委員〕参照)。

(19) 横浜地判平成29・7・19公刊物未登載(LEX/DB 25546811)。

(20) 但し、前掲注(19)の横浜地判平成29・7・19の判決文からは、3号ポルノの要件である「殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されている」という点がいかなる事実によって認定されたのかは明らかではない。

(21) 前掲注(18)参照。

(22) 近時、児童ポルノにおいて特に問題となっているのは、いわゆる「自画撮り」及びその規制についてである(瀧本京太朗「いわゆる『自画撮り』行為の刑事規制に関する序論的考察⑴」北大法学論集68巻3号〔2017年〕71頁以下参照)。社会の目から隔離された家庭という場の中で、更に親の目からも隔離された「自室」において児童ポルノが作り出されるという事象もまた、「家族と刑法」という枠組みで捉えることが可能であるように思われるが、この点は今後の検討課題としたい。

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