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連載

家族と刑法――家庭は犯罪の温床か?

第2回 DVの被害者が加害者に反撃するとき その2

立教大学大学院法務研究科教授 深町晋也〔Fukamachi Shinya〕

3 前回を振り返って

 前回は、家庭内暴力(DV)の終着点には2通りあり、1つは、DVの加害者が被害者を死亡させることであるが、もう1つはDVの被害者が虐待に耐えかねてDVの加害者を殺害することである旨説明した。そして、後者の終着点は、DV反撃殺人事例として、日本を含めて様々な国で問題となっていることを併せて解説した。DV反撃殺人事例がどのようなものであるかについて、前回掲げた【事例】を再掲する。

 長年に渉り、Aは家庭内で暴君として君臨し、ちょっとしたきっかけがあればすぐに妻Xや娘Bに暴力を振るっていた。ある日、AはXに対して激しい暴行を加えた後、「起きたら死ぬような目に合わせてやる」と言い捨てて就寝した。Xは、Aが起きたら今度こそ自分に対して命にかかわるような暴行が加えられると考え、睡眠中のAを台所の包丁で刺殺した。

 この【事例】では、睡眠中のAを妻であるXが殺害している。配偶者殺人を加重殺人罪として特に重く処罰するフランスや、抵抗できない状態の被害者を殺害する行為を謀殺罪として特に重く処罰するドイツのような国々では、Xの行為は(こうした規定がそのまま適用される限り)極めて重く処罰されることになる。しかし、Aの長年に渉るDVこそが、こうしたXによる反撃としての殺人をもたらしたものであって、Xの行為は果たして重罰に値するものであろうか。むしろ、Xの行為については、重罰から解放するような、あるいは犯罪成立を否定するような法的構成が必要となるのではないか。

4 正当防衛による解決について

⑴正当防衛による解決の難しさ

 前回も多少触れたが、読者の皆さんの多くは、DV反撃殺人事例を正当防衛によって解決できないかと考えるであろう。例えば、前回紹介した、尊属殺規定の合憲性を巡る最高裁大法廷判決(最大判昭和48・4・4刑集27巻3号265頁)の第1審においても弁護人は正当防衛・過剰防衛の成立を主張し、過剰防衛の成立が認められている。

 しかし、多くの場合には、DV反撃殺人事例において正当防衛・過剰防衛の成立は否定される。事実、前掲・最高裁大法廷判決の第2審においては、正当防衛・過剰防衛の成立は否定されている。また、日本以外の多くの国でも、DV反撃殺人事例について、被告人側からまずは正当防衛の主張がなされるが、多くの場合、この主張は受け容れられない(1)

 では、なぜ正当防衛・過剰防衛の主張が排斥されるのであろうか。それは、DV反撃殺人事例が、正にDVという支配―被支配関係において発生することに関係する。我が国の正当防衛(刑法36条1項)に限らず、多くの国において、正当防衛が成立するためには、侵害の「急迫性」が要件とされている(2)。そして、我が国において、侵害の急迫性が「法益の侵害が間近に押し迫ったことすなわち法益侵害の危険が緊迫したこと」(3)と解されているのと同様に、多くの国において、侵害の「急迫性」は時間的な切迫性として解されている。

 しかし、多くのDV被害者は、DV加害者に逆らえない状況に陥っており、DV加害者が自分に暴力を振るっている時点で面と向かって反撃することは極めて困難である。したがって、DV加害者が酩酊中・睡眠中であるなど、DV加害者と対峙しなくて済む時点で、DV被害者は反撃することが多い(4)。しかし、このことは同時に、DV被害者の反撃の時点ではDV加害者の攻撃は時間的に切迫していないことを意味する。

 前述の【事例】でAが睡眠中であるという事情は、Aによる(更なる)攻撃が時間的には切迫しておらず、かつ、就寝前のAの攻撃については既に終了しているとの評価を基礎づける。したがって、侵害の「急迫性」は否定され、正当防衛・過剰防衛は成立しないことになる。

⑵正当防衛による解決の更なる挑戦

 こうした理解に対して、なお正当防衛の成立を認めようとする見解も、特にフェミニズムの立場から様々な形で主張されている。そうした見解は、①DV加害者による継続的な侵害を認めることで、正当防衛における「急迫性」を肯定するものと、②DVの被害者を基準とすることで、正当防衛の成立範囲を拡張するものとに分けられる。

 ①の見解は、DV加害者による暴行を一連一体のもの(5)として広く捉える。そして、日々継続・反復して行われる暴行については、たとえDV加害者が一旦就寝したとしても、目を覚ませばいつ暴行を再開するか分からないため、全体として見ればなお暴行は終わっておらず、継続的な暴行が存在するとする(6)。①の見解からは、【事例】についても、Aの侵害が継続していると評価されることになり、Xは正当防衛で対抗しうることになる。

 これに対して、特にアメリカで発達したのが②の見解である。この見解は、従来の正当防衛(自己防衛)が(男性中心主義的で伝統的な(7))「対峙型」のものに限定されていた点を指摘しつつ(8)、被虐待女性による自己防衛については、こうした対峙型の自己防衛に限定されないとする。まず前提として、アメリカにおける自己防衛は、客観的に侵害が急迫していなくとも、侵害が急迫していると行為者が信じたことにつき、当該確信(誤信)が合理的だと言える場合には、その成立が認められる。そして、通常人の目から見れば、侵害者が睡眠中である場合には、行為者がいくら侵害の急迫性を誤信していても、その誤信が合理的であるとは言いがたい。したがって、非対峙型の自己防衛は認めがたい。

 しかし、DV被害者は、長年の虐待によりDV加害者の暴行パターンを熟知しているために、通常の人間では察知できない更なる暴行の危険を察知でき、また、DV加害者がたとえ睡眠中であっても、いつ目を覚ますか分からないという事情もあるため、なお攻撃の危険があると認識している(9)。こうした理解からは、合理性判断は、単なる通常人ではなく、DV被害者を標準にすべきことになる(10)

 ②の見解を【事例】に当てはめると、DV被害者であるXは、通常の人間では察知できないものの、DV被害者であれば察知できるようなAの暴行の危険性を察知して、Aの睡眠中にAを殺害している。Xは、自分が危険に直面していると認識しているが、その認識は、DV被害者を基準とすれば合理的なものと言えるので、自己防衛が成立することになる。

 これらの見解はそれぞれに相当の説得力を有するものであるが、難点もある。①の見解については、客観的事象としての「一連一体」の侵害をどの範囲で認めることができるか(11)、特に、DV加害者が睡眠中の場合に本当に「一連一体」の侵害を認めることができるのか(12)はなお問題である。②の見解については、既にアメリカ法においても、自己防衛の理解としてはあまりにも行為者の主観面を重視して判断しているとの批判がなされている(13)(14)。こうした難点を考慮すると、正当防衛による解決には依然として困難なものがあると言えよう。

5 別の解決の模索――ドイツの議論(15)

⑴緊急避難による解決

 ドイツの判例は、以上のような正当防衛による解決を放棄し、むしろ緊急避難による解決を提唱している(16)。緊急避難とは、自然災害や人間の行動などに由来する危険を回避するために、無関係の第三者の利益や、危険を生じさせた者の利益を侵害した場合に問題となる。正当防衛と同様、緊急状態下での自己の利益侵害を回避するために、他人の利益を侵害する(緊急行為)という構造を有している。ドイツでも、正当防衛における侵害の「現在性」要件は、時間的切迫性を要求するものとして厳格に解釈されている。これに対して、緊急避難における危険の「現在性」については、必ずしも時間的切迫性は要求されない。

 このように説明すると、読者の皆さんには、「同じように緊急の状況で問題となる正当防衛と緊急避難とで、なぜ緊急避難だけが時間的切迫性を不要と解釈することができるのか」という、当然の疑問が湧くであろう(17)。ここでキーとなる概念が「継続的危険」という概念である。継続的危険とは、例えば、耐久年限を過ぎており、いつ壊れるかもしれない建物をイメージしてもらえれば分かり易いが、「今すぐに壊れる」とまでは断言できないものの、「いつ壊れてもおかしくはない」という意味で、建物崩壊の危険が継続していると評価できる。このように、ドイツにおいては、緊急避難については、正当防衛とは異なり、時間的切迫性は必ずしも要求されていない(18)

 【事例】に当てはめると、確かにDV加害者であるAは、Xに殺害された時点では睡眠中であった。しかし、Aは就寝前にもXに暴行を加え、また、Aはいつ目を覚ますかもしれず、目を覚ませばXに暴行をすることがかなり高い可能性を持って予測できる。「(目を覚ませばXに暴行を加えるであろう)Aがいつ目を覚ますか分からない」ということは、前述の「いつ壊れるか分からない」建物と同様、暴行の危険が継続していると評価できる。したがって、危険の「現在性」は肯定できる。

⑵継続的保護と補充性

 ドイツにおいては、緊急避難の成否に関して、危険の「現在性」に加えて、他の手段では危険を回避することができないこと(手段の補充性)が要求されている。ここで想定されている「他の手段」とは、例えば、自己に危険をもたらす存在から逃げることや、警察など第三者の助力・救助を求めることといった、より侵害性の小さい手段のことである。DV反撃殺人事例においても、DV被害者がDV加害者の元から逃げることができた場合や、警察などの助力を求めることができた場合には、補充性が否定され、緊急避難が成立しないことになる。

 しかし、【事例】において、Aの睡眠中にXが逃げれば良かった、あるいはAの睡眠中にXが警察などに助力を求めれば良かったとされるのであれば、およそ緊急避難の成立はあり得ない。そもそも、こういった事案では、Xは何度となくAの元から逃げ、あるいは警察などの助力を求め、その度にAに連れ戻されているといった場合が珍しくない。また、娘であるBを連れて行くことが難しい場合を考えると、そもそもAの元から逃げ出すことが困難であることも多い。すなわち、一時的にXが身の安全を確保することは不可能ではないとしても、「継続的な保護」を受けることは極めて困難である。このように、Aによる継続的な危険が存在する場合には、Xへの一時的な保護では足りず、継続的な保護が必要となる。

 ドイツの判例は、こうした、「継続的危険に対する継続的保護」という考え方を正面から肯定している。そして、DV加害者からの逃亡や警察などの助力が一時的なものにしかならない場合には、こうした手段によることなく、DV加害者への反撃という手段を採った場合にも、なお補充性を充足すると解している。

 この理解を【事例】に当てはめると、Aから逃亡する、あるいは警察に助力を求めるといった手段が一時凌ぎにしかならないと判断できる場合には、Xに対する反撃という手段についても、補充性を認めることが可能となる。なお、Xが中途半端な反撃をしたのでは、却ってAの逆恨みにより、これまで以上の攻撃を受ける危険性が高い(19)とすると、継続的な保護を図るためには、Aを殺害する以外の手段はなかったと考えることが可能である(20)

⑶DV加害者の生命を奪うことについて

 自分の身を守るためとは言っても、他人の生命を奪うというのは、極めて重大な法益侵害である。こうした場合にも緊急避難は成立するであろうか。ドイツでは、違法性を阻却する緊急避難(正当化的緊急避難)と責任を阻却する緊急避難(免責的緊急避難)とが実定法上区別されている。そして、正当化的緊急避難が成立するためには、侵害された利益よりも、保全された利益の方が著しく優越する必要がある。とすると、侵害利益が生命である場合には、それよりも著しく優越する利益というのは基本的には想定できないので、正当化的緊急避難は成立しない。

 これに対して、侵害利益の方が保全利益よりも大きい場合であっても、免責的緊急避難であれば成立の余地がある。ドイツの判例は、DV反撃殺人事例について、免責的緊急避難の成否という文脈で論じている。【事例】についても、Xに正当化的緊急避難は成立しないが、免責的緊急避難は成立する余地がある。免責的緊急避難が成立すれば、Xは責任が阻却されて不可罰となる。

 こうしたドイツの判例法理は、日本においても十分に参照に値する。そこで、最後に、我が国におけるDV反撃殺人事例について、こうした判断枠組みを適用するとどうなるかについて検討したい。

6 我が国におけるDV反撃殺人事例

⑴問題となる事案

 尊属殺規定を巡る最高裁大法廷判決の事案は極めて衝撃的であるが、我が国においてもDV反撃殺人事例は決して珍しいものではない。以下では、その一例(21)を紹介しよう。

 被告人である少年Xは、その母親Aと共に、Aの内縁の夫であるBから暴力・脅迫的言動を受けていたが、BはXの妹Cに対して性的虐待を繰り返すようになった。その後、Cは児童相談所に保護された。Aは、Bがこのことを知れば、Aらに対して更に激しい暴力を振るうのではないかと考えて、児童相談所に保護を止めるように掛け合ったものの、保護が解かれなかったことから、その日のうちに、かねてからの計画を実行してBを殺害することを決意した。その日の夕方、AはBに睡眠薬を服用させ、Bは午後9時頃に眠りにつき、翌日の午前0時半頃、XはAと共同して、Bを殺害した。

⑵検討

 本件は、DV被害者であるXやAが、DV加害者であるBによる更なる暴行を予想して、その睡眠中に殺害したという点で、DV反撃殺人事例の典型的な事例と言える。そして、本件で札幌高裁は、過剰防衛の成立を否定している。

 本件を、我が国の緊急避難(刑法37条1項)の枠組みで解決しようとする際に考慮すべき事項は、危難の現在性、手段の補充性、害の均衡であり、ドイツにおけるのと同様の問題が生じる。その中でも特に問題となるのは、手段の補充性である。なぜなら、Cが児童相談所に保護された際に、XもAと共に保護を受けることができる旨、児童相談所の職員から告げられており、保護を受ければ良かったのではないかが問題となるからである。ここでも、こうした保護が単なる一時凌ぎに過ぎないかを慎重に検討しつつ、「継続的危険からの継続的保護」といった枠組みで考えることができよう。

 また、害の均衡については、我が国においては、侵害利益が保全利益を上回らない限りで緊急避難が成立し、侵害利益が保全利益を上回る場合には過剰避難(刑法37条1項但書)の成否が問題となる。本件では、一方ではBの生命が侵害されているが、他方ではAやXの身体が危険にさらされていると評価すべきであろう。したがって、この場合には害の均衡を充たすとは言えず、Xには過剰避難が成立する(22)に留まる(23)

7 まとめ

 今回は、前回に比べるとやや専門的な話が続き、読者の皆さんにご負担を強いたかもしれない。DV反撃殺人事例は、洋の東西を問わず、普遍的な問題であり、それぞれの国において、極めて難しい解釈論的な課題を提供する。今回は、正当防衛ではなく緊急避難の枠組みで解決を図るドイツの議論を中心に紹介したが、こうした最終的な手段に出なければDV被害者が助からないということ自体、DV被害者を確実に救済し、DVという問題に適切に対処する制度的枠組みの必要性が改めて浮き彫りになってくる。

 また、DV反撃殺人事例では、DVの主たる被害者である配偶者ではなく、その子どもがDV加害者を殺害する事例もまま見られる。これは、子どもに対する物理的・心理的虐待の結果として、子どもを殺人の加害者にしてしまうという意味で、児童虐待の1つの終着点とも言える。児童虐待との関係でもまた、DV反撃殺人事例は重要な意味を持つものである。

(1) 前回紹介した、台湾における「鄧如雯事件」やフランスにおける「ジャクリーヌ・ソヴァージュ事件」でも、弁護側は正当防衛の成立を主張したが、いずれの事案でも当該主張は排斥されている。こうした事情は、アメリカやドイツ・スイスにおいても同様である。

(2) ドイツ刑法32条、スイス刑法15条、フランス刑法122–5条、台湾刑法23条など。なお、コモンローにおける自己防衛について、ヨシュア・ドレスラー『アメリカ刑法』(星周一郎訳・2008年)345頁参照。

(3) 最判昭和24・8・18刑集3巻9号1465頁。

(4) 齋藤実「DVにおける正当防衛の成否」法執行研究会編『法はDV被害者を救えるか――法分野協働と国際比較』(2013年)264頁も参照。

(5) 名古屋地判平成7・7・11判時1539号143頁参照。

(6) 岡田久美子「DV殺人と正当防衛」浅倉むつ子・角田由紀子編『比較判例ジェンダー法』(2007年)71頁以下、森川恭剛「DV被害者の反撃と正当防衛」琉大法学80号(2008年)16頁以下、矢野恵美「正当防衛成立要件の再考――継続するドメスティック・バイオレンスと急迫不正の侵害」法学(東北大学)77巻6号(2014年)229頁参照。

(7) 要するに、従来の自己防衛のルール(対峙型の自己防衛)は、男性対男性の争いを専ら想定しており、女性対男性の争いを想定していないとの批判である。

(8) See Cathryn Jo Rosen, The Excuse of Self-Defense, 36 Am.U. L. Rev. (1986) 11, 34.

(9) See Lenore E.A. Walker, Battered Women Syndrome and Self-Defence, 6 Notre Dame J.L. Ethics & Public Policy (1992) 324.

(10) こうした主張を行う際に重要となるのが、いわゆる「被虐待女性症候群」についての専門家証言である(岡田・前掲注(6)58頁以下参照)。

(11) DV被害者の主観においては、常に危険に晒されており、危険が継続していると言えるとしても、それが客観的なものでなければ、侵害の継続性は肯定できない。

(12) 前掲注(5)の裁判例も、DV加害者が睡眠中の場合にまで「一連一体」の侵害を認めたものではない。

(13) State v. Norman, 378 S.E.2d 8, 15-16.

(14) なお、こうした批判を考慮しつつ、自己防衛を(客観的な正当性の問題を扱う)正当化事由ではなく、(行為者個人の責任の問題を扱う)免責事由と解すべきとする見解も主張されている(See Rosen, supra note 8, at 56)。

(15) 詳細は、深町晋也「家庭内暴力への反撃としての殺人を巡る刑法上の諸問題――緊急避難論を中心として」『山口厚先生献呈論文集』(2014年)95頁以下参照。

(16) RGSt 60, 318(1926年7月12日)やBGHSt 48, 255(2003年3月25日)を参照。なお、スイスの判例も、ドイツの判例と同じ理解を採用する(BGE122 Ⅳ 6)。これに対して、オーストリアの判例はこうした理解を採用していない(この点について、深町晋也「オーストリアにおける免責的緊急避難――免責の本質とその具体化」『刑事法学の未来 長井圓先生古稀記念』〔2017年公刊予定〕を参照)。

(17) 我が国の尊属殺規定を巡る最高裁大法廷判決の第2審も、正当防衛のみならず緊急避難の成立についても同時に否定している(東京高判昭和45・5・12刑集27巻3号327頁)。

(18) 文言の解釈としても、「侵害」の現在性よりは、「危険」の現在性の方が時間的に広い概念と言える。「侵害」は人の侵害行為そのものであるのに対して、「危険」は「人が侵害行為をする危険」をも包摂する概念だからである。この点を明言するのは、1995年のスイス連邦最高裁判決である(注(16)参照)。

(19) 齋藤・前掲注(4)267頁参照。

(20) 但し、2003年のドイツ連邦通常裁判所の判断(注(16)参照)は、殺害という手段の重大性に鑑み、補充性判断を厳格に行っている。こうした立場からすると、補充性が肯定される余地は極めて小さくなろう。

(21) 札幌高判平成19・11・13季刊刑事弁護58号(2009年)198頁参照。

(22) 過剰避難の法的効果は刑の任意的減免であるが、減軽に留まるか、それとも免除まで認められるかは、事案との関係で難しい問題である。また、少年が被告人である場合には、刑罰を選択すべきか、それとも少年法上の保護処分を選択すべきかもまた、極めて難しい問題である。本件の担当弁護人によると、Xは、最終的には函館家庭裁判所において少年法上の保護処分(中等少年院送致)とされた(中村勉・季刊刑事弁護58号〔2009年〕128頁参照)。

(23) なお、本稿では検討できなかったが、DV反撃殺人事例を量刑においてどのように考慮するかという点についても、様々な問題がある。この点につき、松村歌子「DVと量刑上の考慮」前掲注(4)270頁以下参照。

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