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コラム

法情報とリサーチ

中央大学図書館都心キャンパス事務室副課長・大東文化大学法学部非常勤講師
 鈴木敦〔Suzuki Atsushi〕

法情報の所在とリサーチ

 法情報の世界では、これまで存在しなかった新たな情報ツールが比較的短期間に台頭したことにより、研究者や実務家は然り、学生や一般市民においても、いざ調べ物やリサーチをするとなったときには、その方法や手順などに関して、新たな転換点を既に迎えている。

 近年では、法情報の所在は図書や雑誌などの紙媒体の資料だけではなく、ウェブ情報やデータベース、電子ジャーナル、電子書籍、DVDなどの電子媒体も加わり多種多様である。なかでもインターネットでは、公的なウェブサイトをはじめとして、豊富な法情報を手軽かつ迅速に入手できるようになってきた。これはとても大きなメリットである。

 とはいえ、インターネット上に情報がこれだけ氾濫していると、不正確な情報の混在も避けられない。そのため、インターネットで見られる法情報も玉石混交であり、平均的な信頼性は書籍その他に比べて低いといわざるをえないところもある。

 はたまた、こうして情報が溢れる一方では、ウェブ上にある情報でも、Googleなどのサーチエンジンでは検索できない情報もたくさんある。これらは深層ウェブと言われ、通常のサーチエンジンでも容易に検索できる表層ウェブと比べて数十倍から数百倍の情報があると言われている。ちなみに、データベース内の情報は一般的にこの深層ウェブにあてはまる。他にも、冊子体内の情報やDVD、CD-ROM内の情報も基本的にインターネットでは探すことができない。このようにインターネット上の情報だけを見ても、いろいろな状況や問題を孕んでいる。したがって、インターネット検索(ググる)だけでは、事足りない場合も多いのが実状である。

 概して、法情報の入手経路や取得方法、アクセス形態、情報の信頼性などが複雑多様化しており、これらと情報の氾濫とが相俟って、法情報のリサーチは一見簡単になったようで実は容易ではなくなっている。しっかり調べようとすればするほど難しくなる。けれども、法情報のリサーチは法律問題を考える上で最初に行わなければならない最も重要な作業の1つである。なぜなら、対象となる問題をしっかり調べて把握し、その問題への対策や考察を加えていくためには、リサーチ方法をしっかりイメージし検討してから調査を実施することで、効果的な情報が入手できるからである。そして、そうした情報を分析したり活用することで、問題解決の方策を見出していくことに繋げられるのである。実際のリサーチにおいては、法令や判例などの一次資料を含め多くの文献や資料などの法情報を探索していくことになる。

 こうした場合、従来は冊子体の法令集、判例集や法律判例雑誌、あるいはCD-ROMによる法令や判例、判例評釈などの文献の検索がリサーチの主体であったが、近年ではまずインターネットから法情報を入手したり、データベースを利用したりすることもとても多くなっている。その際には、情報の信頼性について見極めるなど正確性を担保したり、データベースの利用方法や条件、提供範囲を把握し、検索スキルを駆使しながら効率的に今の時代に即応するリサーチを行うことなどが重要となっている。それには、さまざまな媒体を組み合わせた総合的な法情報のリサーチ方法を習得する必要がある。そのため、調べる法情報の内容に合わせてリサーチの手順などをわかりやすく解説する新しい入門書的な教材があるととても重宝する。

『法情報の調べ方入門』

 最近刊行されて、法情報リサーチの手助けとなる図書に『法情報の調べ方入門――法の森のみちしるべ』(ロー・ライブラリアン研究会編、日本図書館協会発行、JLA図書館実践シリーズ、A5判、202頁、1,800円[税別])がある。

 法情報をリサーチしていくにあたっては、その前段として、まず法のシステムや法情報の存在形式など、いわば法情報の世界観みたいなものをまず知っておくと入りやすい。そのうえで、国や地方自治体の法令などおおよその法体系や裁判の仕組みなどを把握しておくことも大事である。これらを踏まえて、特定の法令や裁判情報(判例)などの具体的なリサーチを進めていく。

 本書も、そのような構成で実際の調べ方に歩を進めている。むろん、こうした前段の情報がインプットされている人には、本書は細かく章分けされているので、その章を読みとばして、個別テーマのリサーチに関する章にすぐに入っても理解できるようになっているため、一向に差し支えない。

 また、本書の特徴の1つとして、「通達・告示等を探す」「立法過程から立法情報を探す」「審決・裁決等を探す―準司法的手続―」など、これまであまりリサーチ方法や手順が図書のなかで俯瞰的・体系的に示されなかった部分や「法分野の人物・図書館・書店情報」についても記されている点が特筆される。

 以下、章毎の項目を記したので、参考にしてほしい。


 本書の構成

 第1章 法情報の世界

 第2章 法体系

 第3章 法令の条文を探す

 第4章 法令の解説資料を探す

 第5章 通達・告示等を探す

 第6章 法律はどうつくられるか―立法過程から立法情報を探す―

 第7章 行政機関が発する法情報を探す

 第8章 判例とは

 第9章 判例を探す

 第10章 判例評釈を探す

 第11章 審決・裁決等を探す―準司法的手続―

 第12章 法分野の人物・図書館・書店情報


 その中で第11章「審決・裁決等を探す―準司法的手続―」を例にとると、ふだん耳慣れない準司法的手続とはどんなものなのかをわかりやすく解説したうえで、審決と判例がどう違うのか、類似したり関連する部分はどんなところかがまず記されている。そのうえで、(準司法的手続を経てなされる判断結果である)審決・裁決等を調べるには、どのようにすればよいか、リサーチ方法が述べられている。具体的な無料・有料の各種データベースや審決集、図書、雑誌など、さまざまな媒体も網羅的に紹介されている。また、リサーチ例も示されているため、理解しやすくなっている。さらに、こうした審決などが、日々の新聞などでも取り上げられることのある意外と身近で、ときには重要な意味を持つ法情報である点や、司法手続との対比など俯瞰的な解説もなされている。

 この章以外にも、実際に別表で挙げたような法情報を探す場合には、本書を片手に参考としながら、リサーチを進めてみてほしい。

図書館と法情報の提供

 これまで述べてきたようなことから、法情報の所在は多種多様であり、リサーチするには適宜ガイド的な図書を参考にするなどして、さまざまな媒体を組み合わせて効率・効果的に実施していくのが理想的である。その場合に、こうした資料や情報が一番集まっているところを考えれば、それはやはり図書館であろう。とくに法学部をもつ大学図書館や法務図書館など国関係の図書館には、ふだんに目にしない専門的な法律資料もたくさん置かれていたりする。しかし、それだけではなく、最近では、都道府県立図書館でも、東京都立中央図書館、鳥取県立図書館、神奈川県立図書館などを始め、法律情報コーナーなどを設置しており、法律関係の資料を多く提供している。また、本来は有料の契約データベースなども(図書館がデータベース提供会社に料金を支払っているので利用者は)無料で利用できたりするようになっている。

 さらに、あまり知られていないが、図書館にはレファレンス・サービスというものがある。レファレンス・サービスとは、図書館の利用者が、学習や研究・調査のために必要な情報・資料などを求めたときに、図書館員が資料や情報を検索・提供するなどし、資料や調べ物の相談業務を行うサービスである。ちなみに、図書館法第3条の中には、以下のように記載されている。


 「図書館法」第三条の一部抜粋

 第三条 図書館は、図書館奉仕のため、土地の事情及び一般公衆の希望に沿い、更に学校教育を援助し、

     及び家庭教育の向上に資することとなるように留意し、おおむね次に掲げる事項の実施に努めなければならない。

 三 図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち、その利用のための相談に応ずるようにすること。


 なお、一部図書館にはロー・ライブラリアン(法律資料の専門家)的な図書館員も存在する。しかし、残念ながらわが国においては、なかなか一般化しておらず、ほとんどお目にかかれないのが現状であろう。ただし、身近な図書館にそうした図書館員がもしいたならば、それはとてもラッキーなことであり、活用していくべき存在といえる。

 ロー・ライブラリアン的な図書館員がいるかどうかは別としても、多くの図書館では通常レファレンス・サービスを行っており、資料全般の専門家の司書がいると思われる。自分でリサーチしたけれど情報や資料にうまく辿り着けない場合には、レファレンス・サービスを利用すれば、こうした図書館員が手助けしてくれる。ただし、図書館員は弁護士などの法曹とは違い、法律の専門家ではない。資料の専門家であり、資料や情報の提供はできるが法律問題を解決したり、法的な助言をすることはできないので、その点は理解して利用する必要がある。

 他方で、図書館側から見ると、市区町村立図書館では法律資料を網羅的に所蔵するのは規模等からしても難しい。また、図書館員にとっても法情報を網羅的に把握することは相当困難なことである。多くの図書館で予算や人員が逼迫するなかで、すでに法情報(調査)に精通する人材を常置することも現実的には困難である。しかし、その結果として利用者が真に求めている法情報に辿りつけずに入手を諦めてしまったり、法情報取得への意欲が削がれてしまっては、利用者だけではなく図書館にとっても大きな損失といえる。

 そこで、目当ての資料がその場にないときでも、法情報や資料と利用者とをうまく結びつけ、利用者の目的達成をサポートできるようにするために、図書館員にもこうした入門書を参考にスキルアップを図ったり、利用者へのガイドをしてもらえるとよい。


 最後に、法情報のリサーチにあたっては、これまで述べてきたように、入門書(リサーチガイド)や図書館資料・データベース、ときにはレファレンス・サービスも活用しながら、効率・効果的に調査を進めてもらい、その結果、法律問題や課題の解決に資すると幸いである。

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